生徒指導について

  生徒指導の意義
 生徒指導の意義は、「積極的にすべての生徒のそれぞれの人格のよりよき発達を目ざすとともに、学校生活が生徒のひとりひとりにとっても、また、学級や学年、更に学校全体といった様々な集団にとっても、有意義に興味深く、充実したものになるようにすることを目ざす」(「生徒指導の手引改訂版」:文部省発行)総合的な教育活動にあり、「このような目標を忠実に追求していけば、それは自然に非行化の防止としての効果をあげることになる」(同手引)と述べられていますが、現実の中・高校では、生徒指導を生徒の非行対策といった消極的な側面のみで把握し、問題行動の対症療法的なものとして言及することが多いのが現実です。

 2 生徒指導の基本的な性格
 総合的な教育活動として考えられるべき生徒指導の基本的な性格は、およそ次のようにまとめられる。
  1. 生徒指導は、個別的かつ発達的な教育を基礎とするものである。
    ひとりひとり素質、能力、適性、興味等を異にし、個々の生育歴、生活環境及び発達段階を有している生徒への指導は、生徒それぞれのよりよい人格の発達を目ざし、生徒個々の特性を十分具体的に理解し、生徒のより正常で、より健康な発達を図るための個別的積極的な指導、援助が行われるべきものである。
  2.  生徒指導は、生徒の自主性、自発性を基礎とし、社会性の発達を図る考え方で進められる。生徒指導の内容は、抽象的な観念や知識ではなく、生徒の個性を個別的に把握するとともに、個々の人格の尊重個性の伸長を図ることが大切である。また、それは、生徒が個々ばらばらに存在するのではなく、個々が自己の特性を生かしながら、共同の集団や社会の構成員として適した資質や態度・能力の発達をも図っていくことが大切である。
  3. 生徒指導は、生徒の学校生活、社会生活の実態に即しながら具体的、実際的な指導として行われるものである。生徒を社会環境から引き離してしまうことは、考えられず、生徒を現実の生活の中で見つめ、生徒がその生活の中で強く正しく生きる態度や能力の発達を助成するための、具体的場面に即した指導が必要である。
  4. 生徒指導は、統合的な教育活動である。
     生徒指導の意義が、生徒の人格の発達を図ることで、その指導は統合的に行われる必要がある。具体的内容は、身体的、知的、情緒的、社会的等の諸側面に及び、指導も、学業指導、個人的適応指導、社会性・公民性指導、道徳性指導、職業指導、進路指導、保健指導、全般指導などの各部門に分けて考えられたり、計画される必要がある。
     下の図は「生徒指導の手引き」を高校生を中心に図式化したものです。

    生徒指導の基本的な生活
    ○よりよい人格の発達を目指し、正常で、より健康的な発達を図る
    ○自主性・自発性を基礎とした社会性の発達
    ○社会生活の実態に即した指導
    ○生活全般の統合的な教育指導
    ↓(校則)
    生活指導全般
    職業指導 道徳性指導 保健指導 進路指導
    高校生活
    クラス・授業・部活・学年
    同級生・先輩・担任・先生
    学業指導 適応指導 公民性指導
    希望 失意
    期待・失望 入試 成績
    親愛・好悪  ↑  ×   ↓ 評判














    ×


    自分に


    ての家族
    自分にとっての学校 自分に


    ての地域




    ×



    地域






    高校生
    (一人ひとり素質・能力・適正・興味等を異にする)
    自分の生育
      ↑  ×   ↓
    友達・先輩
 3 生徒指導と教育課程
 生徒指導は、教育課程の特定の領域ではなく、学校教育のあらゆる場において行われるものである。中学校及び高等学校の学習指導要領第一章総則における「教師と生徒及び生徒相互の好ましい人間関係を育て、生徒が自主的に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことができるよう、生徒指導の充実を図ること。」との規定は、生徒指導の重要性を述べるとともに、教育活動の全領域においてそれが配慮されるべき事項であることを示している。
 換言すれば、生徒指導は、全教育課程の展開を通じて推進されるとともに、それだけでは足りないところを補う役割をもち、また、逆に教育課程の展開は、生徒指導によって推進されるものであるともいえる。
まず、教科指導を通じて生徒指導が推進される点については、
  1. 教科指導には、生徒指導の目ざすものが含まれている。どの教科でも、そういう部分が含まれているが、特に人間の社会生活に係る教科では、その程度が大きいといえる。その場合、その教科の学習指導の充実そのものが、生徒指導の役割を果たすことになる。
  2. 教科の学習活動展開のうちに、生徒指導の機会があることである。教科の指導を通じて教師と生徒との、また、生徒相互の人間的な触れ合いを利用し、生徒指導を行うことができる。教科担任の教師は、学級担任、ホームルーム担任の教師とともに、生徒指導の役割をも担っていることになる。
    逆に、生徒指導が、教科指導に役立つ点をみてみると、
    1. 生徒指導が教科の指導をフォローする面がある。問題行動に対する指導の中で、勉強することにどういう意味があるか、教科へのやる気を起こさせ、自分にあった学習の仕方などを話し合うなどが学習への不適応に対する指導等で有効である。
    2. 学級での協力共同の作業や学級での生活条件の改善などの指導が、教科の学習理解を容易にすることにつながる。
    3. 生徒の学習のための計画の立て方、参考書や辞書の選び方等学習活動のための直接的な条件整備の指導は、教科の学習を効果的に促す手だてとなる。
 また、小・中学校学習指導要領第三章道徳及び高等学校学習指導要領総則における道徳教育の目標である「人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭、学校、その他社会における具体的な生活の中に生かし、個性豊かな文化の創造と民主的な社会及び国家の発展に努め、進んで平和的な国際社会に貢献できる主体性のある日本人を育成する。」ことは、とりもなおさず、生徒指導の目ざすものであると言える
 
 4 特別活動は、生徒指導に重要な場である
  1. 生徒会活動は、生徒の学校生活の改善と向上を図り、学校生活を楽しく、また、規律あるものとし、よい校風を作ることにそのねらいがあるが、これは生徒指導上の立場からも、欠かすことのできない点である。
  2. クラブ活動は、全生徒が興味や特性に応じて、文化的、体育的、生産的、奉仕的な活動に参加するものであり、その活動を通じての好ましい人間関係の育成は、学校行事の適切な計画、実施とともに生徒指導上大きな効果をもたらす機会であり、手だてとなる。
  5 生徒指導の核となるのは、学級活動でありホームルーム活動である。
  学習指導要領は、学級活動又はホームルーム活動の内容として、個人及び集団の一員としての在り方、学業生活の充実、健康や安全、将来の生き方、進路の適切な選択に関することなどを掲げている。そして、中学校の学習指導要領で-は、「学級活動については、学校や生徒の実態に応じて取り上、げる指導内容の重点化を図るよう配慮するものとする。また、個々の生徒についての理解を深め、人間的な触れ合いを基礎に指導を行うとともに、指導内容の特質に応じて、教師の適切な指導の下に、生徒の自発的、自治的な活動が助長されるよう配慮するものとする。」と定め、また、高等学校学習指導要領においては、ホームルーム活動の内容を取り扱う際の配慮事項として、「教師と生徒及び生徒相互の人間関係を密にし、生徒の自発的、自治的な活動を助長すること。」、「生徒一人一人が現在及び将来にわたる諸課題を明確にし、自主的、実践的な活動ができるよう援助すること。」と定めている。このほか、放課後の部活動を活用した指導は、大変有効であり、見落すことのできない生徒指導の場である。
  更に、非行問題では、一つの学校の範囲を越えて、教師と関係者が有機的な連携体制を取り、指導に当たらなければならないことなど、生徒指導の場は教育課程の内外で広く多彩に展開されなければならない。

  6 生徒指導組織
 生徒指導を推進するための組織作りには、次の点の配慮が必要である。
  1. 教師間の協力体制の確立が必要であること。教科担任制をとっている中学校や高等学校では、学級担任や生徒指導主事だけに生徒指導をまかせることなく、学校の全教員がきめ細かく協力し合うことが必要である。
  2. 学校の実態にふさわしい生徒指導の目標を確立すること。学校の置かれている状況を十分把握し、その上で学校の教育目標を明らかにし、その目標達成のために生徒指導上行うべきことを考え、その組織作りを行っていくことが大切である。
  3. 組織は単純かつ明確なものとすること。組織は、各係の役割分担がはっきりし、各係の連絡調整が円滑に進むようなものでなければならない。特に、学級担任と生徒指導組織の各係が緊密な連絡をとれるものである必要がある。
  4. 生徒指導に関する研究.研修のための組織を設けること。教師間における生徒指導に関する共通理解を深めて、生徒指導の充実を図るためにも、教師間の研究`研修の積み重ねが必要である。
  5. 生徒指導に関する設備等の活用を図ること。学校の既存の設備等を利用し、よい環境作りに努めるとともに、教育相談室の設置や生徒指導に必要な資料等の整備、保管及び活用を図ることが大切である。
     以上の点に留意しながら校内の生徒指導組織を確立するとともに、児童生徒の家庭、地域社会、警察等の関係諸機関、諸団体等との連携体制を整備していくことが肝要である。
  7 生徒指導主事
  生徒指導主事は、「校長の監督を受け、生徒指導に関する事項をつかさどり、当該事項について連絡調整及び指導、助言に当たる。」ことを職務として、昭和50年12月26日付けでその職が、学校教育法施行規則上明文をもって設置された。
  その職務については、昭和51年1月13日付け文初地第136号文部事務次官通達「学校教育法施行規則の一部を改正する省令の施行について」により、生徒指導主事に関する留意事項として、「生徒指導主事は、校長の監督を受け、学校に「おける生徒指導計画の立案、実施、生徒指導に関する資料の整備、生徒指導に関する連絡・助言等生徒指導に関する事項をつかさどり、当該事項について教職員間の連絡調整に当たるとともに関係教職員に対する指導、助言に当たるものである。」ことが明らかにされている。
  学校の生徒指導組織は、生徒指導主事を中心として運用されるものであるといえるが、生徒指導は、生徒指導主事にまかせるという姿勢では進まず、全教員が協力することによって推進されるものであり、学級担任、ホー
ムルーム担任の教員、教科担任、部活動担任の教師は、生徒指導主事の必要な指導、助言を受けながら、有機的な推進体制を形造っていくことが望まれる。

  8 児童生徒の学校不適応
  生徒指導の機能の一つとして、児童生徒の問題行動の防止がある。児童生徒の問題行動の傾向としては、昭和50年代後半に深刻な社会問題化した校内暴力やいじめが沈静化の方向にある一方で、登校拒否や高校中退などの学校不適応が新たな問題となっている。校内暴力などがいわば外向型の不適応とすれば、登校拒否などは内向型の学校不適応といえる。
 これらの児童生徒の問題行動はその形態は異なるものの、
 (1)学歴偏重の社会的風潮の下で学校教育が生徒の実態に応じた適切な対応をしていないこと、
 (2)家庭の教育力が低下していること、
 (3)様々な社会的環境が子供の健全育成に悪影響を及ぼしていること等が共通した原因や背景として
   考えられる。

  登校拒否の児童生徒数は、合計で4万人以上(昭和63年度)に上っている。この数字は調査開始以来最も多いものであり、その対策は重要課題の一つとなっている。また、高校中退者の数は約2万人で推移しているが(昭和63年度は、11万6、000人)、高校進学に対する生徒の意識の多様化等を踏まえた、適切な進路指導の在り方などが課題となっている。
  なお、校内暴力などは一時よりは沈静化の方向にあるとみられるものの、高等学校での生徒間暴力の増加、いじめもなお一定割合で存在することなどから依然として真剣な取り組みが求められている。
これらの問題は、必ずしも学校のみで解決し得る問題ではないが、学校は教育の専門機関として子供の教育に大きな責任を持っていること、また、そのように期待されていることを自覚して、校長はじめ教職員の全員が一致協力して、学校全体として取組まなければならない。