日経新聞(2003.2.9)より
教育基本法改正 綱引き
自民高まる積極論公明は慎重
民主党内も意見対立

 「国を愛する心」などを基本理念に盛り込む教育基本法の見直しをめぐり、与党内の綱引きが活一発になっている。自民党内で改正に前向きな意見が高まる一方、公明党は慎重姿勢を崩さない。背景にはそれぞれの支持母体の意向も見え隠れする。今後の国会運営や選挙協力もからみ、政局の火ダネになる可能性がある。
 「教育基本法の見直しについては、国民的な議論を踏まえ、しっかり取り組む」。小泉純一郎首相が一月三十一日の施政方針演説で語ったこのわずかな文言を巡り、自民党文教族と公明党は水面下で攻防を繰り広げてきた。
 「『米百俵』以来、教育について何も言っていないじゃないか。教育基本法を見直す、と施政方針演説でしっかりふれるべきだ」。森喜朗前首相は昨年末から首相に会うたび提言してきた。文教族の実力者である森氏にとって、一九四七年の制定以来初めてとなる同法改正は首相在任中からの悲願だった。
 経済政策では小泉改革に反対する自民党の古賀誠前幹事長や亀井静香前政調会長、中曽根康弘元首相も改正推進では足並みがそろっている。
 こうした動きに危機感を強めたのが公明党だ。支持母体の創価学会では反対意見が強い。池田大作名誉会長が二〇〇一年一月の学会機関紙で「宗教教育の強制という愚行は断じて繰り返してはならない」と強調するなど、早い段階から警戒してきた。公明党も踏み込んだ表現にならないよう首相官邸への働きかけを強めた。
 施政方針演説の最終稿を事前に入手した公明党幹部が「首相がうちに配慮した、ということだね」と満足げにつぶやいたが、森氏も「(改正と明記しなかったのは)政府が審議会に諮問している段階で、決定的なことをいうのは僭越(せんえつ)だからだ」と意に介する風もない。第一ラウンドは明確な決着が付かないまま終わった。
 教育基本法改正案は中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)が三月にもまとめる最終答申を受けて、五月の大型連休明けには法案の形で準備が整う見通し。法案を今国会に提出するかどうかが次の関門になる。
 森派幹部は「今国会中に成立とまでは言わないが、法案の提出もできないなら倒閣に走らないといけないこともありうる」と語る。自民党の支持団体には改正に前向きな意見が多く「次期衆院選にも追い風になる」との期待もある。
 一方、公明党の神崎武法代表は「答申が出ても直ちに国会に法案を提出するのは拙速だ」と与党三党による協議機関の設置を提案。先送りを狙った時間稼ぎでもある。昨年秋の衆参統一補選でみせつけた集票力も自信の背景にある。自民党内でも野中広務元幹事長は「愛国心なんて育った環境で自然に生まれるもので、法律に書けばいいというものじゃない」と周辺に語っている。
 「野中氏と古賀氏のスタンスの違いに関心を持って見ている」と民主党。とはいえそういう民主党内も改正に前向きな保守系議員と、日教組ともつながりのある旧社会党系議員との意見の隔たりは大きい。「有事関連法案とともに、党内の分裂を誘うきっかけになる」(同党中堅)との不安は消えない。
 「与党とも相談して、政府として取り組んでいきたい」。五日の参院代表質問でも首相の答弁はあいまいなまま。自民党内の足場固めを図るのか、それとも公明党への配慮を強めるのか。首相の決断は今後の政権運営の軸足をどこに置くかのバロメーターにもなる。