教育基本法の改正関連記事3月
朝日新聞(2003.3.20)より
中央教育審 教育基本法改正を答申
    制度全体見直しも
 中央教育審議会(鳥居泰彦会長)は20日、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」の提言をまとめ、遠山文部科学相に答申した。教官の「危機的な状況」の打破などを理由に基本法改正を求めている。改正は戦後教育を根幹から変える可能性があるが、反対論も根強く、実現までは曲折が予想される。
 答申では、学校教育法など教育関連法令から学習指導要領に至るまで、教育にかかわるすべての制度についても改正の趣旨を反映させる見直しを要望している。
 中教審は明年11月に遠山文科相の諮問を受け、審議を続けていた。文科省は今後、政府・与党と調整を図り、開会中の通常国会への提出を視野に法案づくりを進める。
 答申は「危機的な状況」について、「青少年が夢や目標を持ちにくくなり、規範意識や道徳心を低下させている」「いじめ、不登校、学級崩壊などの深刻な問題が依然として存在している」などと説明。さらに、現行法の制定時からは社会状況が変わって教育で重視すべき理念も変化していると指摘し、改正の必要性を強調した。
 改正にあたっての目標には「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」を掲げた。
 そのために新たに必要な理念として「社会の形成に主体的に参画する『公共』の精神、道徳心、自律心の滴灘」「日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養」といった8項目を列挙し、基本法の前文か条文に盛り込むよう提言した。
 5年先を目標として政府全体がどのような教育政策に取り組むかを明記する基本計画の策定の必要性も唱えた。計画をつくる根拠となる規定を基本法に置き、法改正後、政府が速やかに策定作業にとりかかることを求めた。
教育基本法改正 戦後教育、大きく転換
      政治主導、現場とは距離
 《解説》教育基本法が改正に向けて大きく踏み出した。「教育の憲法」である同法は施行以来弱年間、一度も改められたことはない。戦後教育の大きな転換点となる動きだが、そこからは「教育」よりも、「政治」が透けてくる。(2面参照)
 基本法の見直しを求める声は、これまでも自民党や文部大臣らから繰り返し出ていた。「愛国心や伝統・文化の尊重、道徳の規定がない」というのが主な理由だった。
 今回も政治主導という点で過去と重なる。戦前・戦中の教育勅語を評価する森喜朗首相(当時)の私的諮問機関「教育改革国民会議」が3年前、見直しに取り組むよう政府に提言したのが契機となった。
 中央教育審議会の最終答申では、「人格の完成」や「平和的な国家及び社会の形成者」など、現行法の普遍的な理念は引き継ぐという。しかし、旧来の改正論が求めた「国を愛する心」「道徳心」などが新たに規定する理念としてあげられた。「日本人」という言葉を多用した点も特徴だ。
 最終答申に沿って改正されれば、「徳目」を掲げて教育内容に踏み込むことを極力避けようとした基本法の性格は一変する。学習指導要領や教科書の内容に影響を与えるだろう。「思想信条の自由が損なわれる」と懸念する声も強い。
 基本法は「憲法の理想の実現」を前文に掲げている。「基本法が改められれば、憲法改正にも連なる」という見方もある。
 改正問題は教育現場を中心に起こった論議ではないから、中教審のやりとりは低調だった。「過去を検証し、子どもの現実をふまえて議論を尽くしたとはとても言えない」と話す委員も少なくない。
 教育現場から積み上げたとは言い難い議論から生まれる改正は危うい。最終答申を受け、法案化の作業は本格化する。議論を広げ、深めるのに残された時間は少ない。(氏岡真弓)