教育基本法の改正関連記事3月
教育基本法見直し中教審答申(要旨)
はじめに(略)
第1章
 教育の課題と今後の教育の基本的方向について
(略)
第2章
 新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について
1 教育基本法改正の必要性と改正の視点
 戦後の我が国の教育は、教育基本法の精神に則り行われてきたが、制定から半世紀以上を経て、社会状況が大きく変化し、また教育全般について様々な問題が生じている。教育の根本にまでさかのぼった改革が求められている。
 (i)現行の教育基本法を貫く「個人の尊厳」「人格の完成」「平和的な国家及び社会の形成者」などの理念は、憲法の精神に則った普遍的なものとして今後とも大切にしていく。
 (A)二十一世紀を切り開く心豊かでたくましい日本人の育成を目指す観点から、今日極めて重要と考えられる以下のような教育の理念や原則を明確にするため、教育基本法を改正する。
 @信頼される学校教育の確立
 一人一人の個性に応じ、基礎的・基本的な知識・技能や学ぶ意欲をしっかりと身に付けさせるとともに、道徳や芸術など情操を豊かにする教育や、健やかな体をはぐくむ教育を行い、その能力を最大限に伸ばしていくことが重要。グローバル化や情報化、・地球環境問題への対応など時代や社会の変化に的確に対応したものとなることが重要。
 A「知」の世紀をリードする大学改革の推進
 国境を越えた大競争の時代に、我が国が世界に伍して競争力を発揮し、人類全体の発展に寄与していくためには、「知」の世紀をリードする創造性に富み、実践的能力を備えた多様な人材の育成が不可欠。そのために大学・大学院は教育研究の充実を通じて重要な役割を担うことが期待される。
 B家庭の教育カの回復、学校・家庭・地域社会の連携・協力の推進
 家庭は教育の原点であり、すべての教育の出発点である。家庭教育の重要性を踏まえてその役割を明確にするとともに学校・家庭・地域社会の三者が緊密に連携・協力して子どもの教育に当たる。
 C「公共」に主体的に参画する意識や態度の涵養
 二十一世紀の国家・社会の形成に主体的に参画する日本人の育成を図るため、政治や社会に関する豊かな知識や判断力、批判的精神を持って自ら考え、「公共」に主体的に参画し、公正なルールを形成し順守することを尊重する意識や態度を涵養することが重要。
 D日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養
 グローバル化が進展する中で、自らの国や地域の伝統・文化について理解を深め、尊重し、郷土や国を愛する心をはぐくむことは、日本人としてこれからの国際社会を生きていく上で、極めて大切。他の国や地域の伝統・文化に敬意を払い、国際社会の一員としての意識を涵養することが重要。
 E生涯学習社会の実現
 国民のだれもが生涯のいつでも、どこでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価されるような社会を実現することが重要。このことを踏まえて生涯学習の理念を明確にする。
 F教育振興基本計画の策定
 教育基本法に示された理念や原則を具体化していくためには、これからの教育に必要な施策を総合的、体系的に取りまとめる教育振興基本計画を策定し、政府全体で着実に実行することが重要であり、そのための法的根拠を明確にする。
2 具体的な改正の方向
 (1)前文及び教育の基本理念
 〈前文〉教育理念を宣明し、教育の基本を確立する教育基本法の重要性を踏まえて、その趣旨を明らかにするために引き続き前文を置く▽法制定の目的、法を貫く教育の基調など、現行法の前文に定める基本的な考え方については、引き続き規定する。
 <教育の基本理念>教育は人格の完成を目指し、心身ともに健康な国民の育成を期して行われるものであるという現行法の基本理念を引き続き規定する。
 <新たに規定する理念>
個人の自己実現と個性・能力、創造性の涵養▽感性、自然や環境とのかかわりの重視▽社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心の涵養▽日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養▽生涯学習の理念▽時代や社会の変化への対応▽職業生活との関連の明確化▽男女共同参画社会への寄与
 【個人の自己実現と個性・能力、創造性の涵養】
国民一人一人が目らの生き方、在り方について考え、向上心を持ち、個性に応じて自己の能力を最大限に伸ばしていくことが重要であり、このような自己実現を図ることが人格の完成を目指すこととなる。科学技術の進歩を世界の発展と課題解決にいかすことが期待される中で、新しいものを生み出していく創造性の涵養が重要だ。
 【感性、自然や環境とのかかわりの重視】
地球環境の保全が大きな課題となっている今日、自然と共に人は生きているものであり、自然を尊重し、愛することが、人間などの生命あるものを守り、慈しむことにつながることを理解することが重要だ。
 【社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心の涵養】
国民が国家・社会の一員として、法や社会の規範の意義や役割について学び、自ら考え、自由で公正な社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神を涵養することが重要だ。さらに、社会の一員としての使命、役割を自覚し、自らを律して、その役割を実践するとともに社会における自他の関係の規律について学び、身に付けるなど、道徳心や倫理観、規範意識をはぐくむことが求められている。
 【日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養】
外国が身近な存在となる中で、まず自らの国や地域の伝統・文化について理解を深め、尊重し、日本人であることの自覚や、郷土や国を愛する心の涵養を図ることが重要である。さらに、自らの国や地域を重んじるのと同様に他の国や地域の伝統・文化に対しても敬意を払い、国際社会の一員として他国から信頼される国を目指す意識を涵養することが重要。国を愛する心を大切にすることや我が国の伝統・文化を理解し尊重することが、国家至上主義的考え方や全体主義的なものになってはならない。
 【生涯学習の理念】
だれもが生涯のいつでも、どこでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができるような社会を実現するため、生涯学習の理念がますます重要となる。
 【時代や社会の変化への対座】
グローバル化や情報化の進展、地球環境問題の深刻化や科学技術の進歩など、国民を取り巻く環境は大きく変貌を遂げており、教育も、これらの時代や社会の変化に常に的確に対応していくことが重要である。
 【職業生活との関連の明確化】
子どもに的確な職業観・勤労観や職業に関する知識・技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力や態度をはぐくむための教育の充実に努めることが重要であり、社会においても生涯にわたり職業にかかわる学習機会を充実していくことが重要である。
 【男女共同参画社会への寄与】
男女共同参画は、まだ十分には実現しておらず、男女が互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会を実現するためには、現行法の理念は今日においてより重要。なお、現在では、男女共学の趣旨が広く浸透しており、「男女の共学は認められなければならない」旨の規定は削除することが適当。
 (2)教育の機会均等、義務教育
 @教育の機会均等
 ▽教育の機会均等の原則、奨学の規定は、引き続き規定することが適当。
 A義務教育
義務教育期間9年間、義務教育の授業料無償の規定は、引き続き規定することが適当。
 (3)国中地方公共団体の責務
 ▽教育は不当な支配に服してはならないとする規定は、引き続き規定することが適業
 ▽国と地方公共団体の適切な役割分担を踏まえて、教育における国と地方公共団体の責務について規定することが適当。
 ▽教育振興基本計画の策定の根拠を規定することが適当。
 (4)学校・家庭・地域社会の役割等
 @学校
 ▽学校の基本的な役割について、教育を受ける者の発達段階に応じて、知・徳・体の調和のとれた教育を行うとともに、生涯学習の理念の実現に寄与するという観点から簡潔に規定することが適当。その際、大学・大学院の役割及び私立学校の役割の重要性を踏まえて規定することが適当。
 ▽学校の設置者の規定については、引き続き規定することが適当。
 A教員
 ▽学校教育における教員の重要性を踏まえて、現行法の規定に加えて、研究と修養に励み、資質向上を図ることの必要性について規定することが適当。
 B家庭教育
 ▽家庭は、子どもの教育に第一義的に責任があることを踏まえて、家庭教育の役割について新たに規定することが適当。
 ▽家庭教育の充実を図ることが重要であることを踏まえて、国や地方公共団体による家庭教育の支援について規定することが適当。
 C社会教育
 ▽社会教育は国及び地方公共団体によって奨励されるべきであることを引き続き規定することが適当。
 ▽学習機会の充実等を図ることが重要であることを踏まえて、国や地方公共団体による社会教育の振興について規定することが適当。
 D学校・家庭・地域社会の連携・協力
 ▽教育の目的を実現するため、学校・家庭・地域社会の三者の連携・協力が重要であり、その旨を規定することが適当。
 (5)教育上の重要な事項
 @国家・社会の主体的な形成者としての教養
 ▽自由で公正な社会の形成者として、国家・社会の諸問題の解決に主体的にかかわっていく意識や態度を涵養することが重要であり、その旨を適切に規定することが適当。
 ▽学校における特定の党派的政治教育等の禁止については、引き続き規定することが適当。
 A宗教に関する教育
 ▽宗教に関する寛容の態度や知識、宗教の持つ意義を尊重することが重要であり、その旨を適切に規定することが適当。
 ▽国公立学校における特定の宗教のための宗教教育や宗教的活動の禁止については、引き続き規定することが適当。
 ▽宗教は、人間としてどう在るべきか、与えられた命をどう生きるかという個人の生き方にかかわるものであると同時に、社会生活において重要な意義を持つものであり、人類が受け継いできた重要な文化だ。このような宗教の意義を客観的に学ぶことは大変重要だ。
 ▽人格の形成を図る上で、宗教的情操をはぐくむことは、大変重要である。
 (6)その他留意事項(略)
 3 教育基本法改正と教育改革の推進
 ▽法制化に際しては、国民に分かりやすい明確で簡潔なものとなるよう配慮する必要がある。
第3章
 教育振興基本計画の在り方について
 1 教育振興基本計画策定の必要性
政府として、未来への先行投資である教育を重視するという明確なメッセージを国民に伝え、施策を国民に分かりやすく示すという説明責任を果たすためにも、教育の根本法である教育基本法に根拠を置いた、教育振興に関する基本計画を策定する必要がある。
 2 教育振興基本計画の基本的考え方(略)




教育基本法見直しの動き
(肩書は当時)
1946年8月 教育刷新委員会(教刷委)発足
11月 教刷委が教育基本法の要綱を決定
47年3月 教育基本法案を閣議決定。教育基本法成立・公布
52年6月 中央教育審議会(中教審)発足
56年2月 清瀬一郎文相が「国に対する忠誠」が欠けているとして基本法改正の考えを国会で答弁
63年6月 荒木万寿夫文相が法改正を主張し「期待される人間像」を中教審に諮問
84年7月 森喜朗文相が臨時教育審議会設置法案を巡り「基本法改正は考えていない」と国会答弁
2000年3月 教育改革国民会議(江崎玲於奈座長)発足9月教育改革国民会議が「(教育基本法について)意見の集約はみられていない」とする中間報告を提出
12月 教育改革国民会議が「教育基本法の見直しに取り組むことが必要」とする最終報告を提出。町村信孝文相が全面改正の必要性を就任後の記者会見で表明
200111月 遠山敦子文科相が新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方を中教審に諮問
2002年11月 中教審が教育基本法見直しを提言した中間報告を提出
11ー12月 中教審が東京など全国5か所で公聴会を開催
2003年3月 中教審が教育基本法見直しを答申

「個と公」など本紙提言と一致
  教育改革については、読売新聞社も二〇〇〇年十一月に「責任ある自由を柱に新教育基本法を」と提言し、社会という「公」のために個人が何をすべきかという社会性を育てることの重要性を強調した。
  この点は、中教審の答申が示した「自由には規律と責任が伴う「個と公のバランスが重要」などの方向性と合致。答申が新たに追加すべき基本理念に掲げた「社会の形成に主体的に参画する『公共』の精神、道徳心、自律心の涵養」も提言と重なっている。
  また、本紙が「国際競争力ある大学、大学院を」と提言した点についても、答申は、「世界に伍して競争力を発揮する」ための人材育成が必要と指摘。「大学。大学院は教育研究の充実を通じて重要な役割を担うことが期待」されているとし、提言に沿った内容となっている。