| 毎日新聞(2003.3.6)特集ワイド1最前線 インサイド 特集ワイド1 | |
編集部に質問 記者走る
東京都品川区 教育改革の狙いと波紋 「教師、親、地域への挑戦」 |
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| 学校現場でも改革の波が押し寄せ、各地でさまざまな試みが始まっています。学校選択制、小中一貫校など、教育改革のプランを次々と打ち出し、注目を集める品川区。改革の狙いと波紋を探りました。【今井文恵、写真も】 ●全国初の学校選択制● 「この改革は教師、親、地域に対する挑戦なんですよ」。一連の改革を進める品川区の着月秀夫教育長は、改革の目的をこう話します。 「従来のような閉鎖的な学校社会の中で、既成の価値観で子どもを教育するのはもう限界なんです。なにかと言うと『平等に』という要望がありますが、個々の能力が違うことを認めた上でそれに適する教育をすることが必要になっている。それにはまず教師と生徒の本当に信頼できる関係作りが大事。そのためにも教師が世間と同じ価値観や緊張感を持ち、外部評価も受けながらよりいい教育をしょうという気持ちを持たないと」その改革第1弾が、00年度から全国に先駆けて導入された学校選択制です。40ある小学校を四つのブロックに分け、その中で学校を選べるようにしました。01年度からは中学校でも入学先は自由になっています。その選択肢として習熟度別学習、教科担任制、国際理解教育など各校で力を入れるポイントを決め、保護者にアピールする特色作りをしています。 しかし、昨年4月入学の小学1年の保護者へのアンケート(複数回答可)では、「通学のしやすさ」(66%)、「兄や姉が通学している」(33%)などが多いものの、「いじめや荒れがない」も20%と大きな選択要因になっており、「特色ある教育活動」は8%に過ぎません。 「問題児やきらいな子を避けるため、その子たちがどこへ行くか、ぎりぎりまで様子を見るんです。どこの学校へ進むかの話題は親同士でもタブーです」とある保護者は語ります。その結果、中学では抽選になるような人気校とクラブ活動が成り立たない不人気校が生じています。従来の学区域外へ通う新入生は小学校で18%、中学では30%に上っています(02年度)。 保護者の評価がそのまま入学者数に跳ね返るのですから、教師は大変です。東京都教育委員会が昨年10月に行った異動希望の予備調査表によると、品川区では小学校で転出希望が87人に対し、転入希望は9人で、その比率は約10対1です。「選択制以前は2対1くらいでした。学校公開の準備や特色作りなどに追われたり、入学予定数が直前に変わって突然異動があるなど、教師にとっては子供とのかかわり以外で時間がとられ、働きにくくなっている。転入希望が少なく、新卒教師がとても多いんです」(東京都教職員組合品川支部書記長・原登喜夫教諭) ●1000人規模の一貫校● そうしたぎくしゃくがある中、昨年1月に構想が発表されたのが小中一貫校設立です。弾力的なカリキュラム編成が認められる文部科学省の研究開発学校として06年度開校を予定し、小中9年間を「4・3・2」に分けようというものです。 「現行の6・3制が子どもの発達段階に合わない」というのが理由です。「小学校5年生前後で思春期の特徴が生じはじめ、中2前後で顕著になる。男女ともこの時期に体、心さらに思考様式が大きく変わる。また小学校から中学校に進むと、学習方法や内容、生活面などががらっと変わり、適応できない子が出てきて、中2くらいで不登校生徒が増える。この難しい変化の時期を、できるだけスムーズに過ごせるように一貫制にし、カリキューラムもそれに合わせて作ります」と若月教育長は説明します。 1校目の一貫校になる第一二日野小学校ほ、JR五反由駅東口の大規模な再開発地域にあります。ここに駅の反対側にある日野中学校を統合し、「教育都市品川のシンボルとしたい」(着月教育長)と言います。区民の総合体育館も併設し、地上6階、地下2階の大規模な建物になる計画です。第二日野小は児童数64人で区内で最も規模の小さい小学校です。日野中は現在生徒数389人。両校合わせて小学校各学年3クラス、中学校各5クラスの1000人規模とする構想です。 1年から4年は読み、書き、計算を徹底し、5年以上は個性、能力の伸長を図ることを重視。選択学習や習熟度別クラスのほか、前倒しや現行より多いコマ数の授業も予定されており、多分に受験を意識したカリキュラムになりそうです。「4・3・2」はカリキュラムによる分け方で、6年を修了すれば小学校の卒業式を行い、中学に進むという形は残ります。 ただ、こうした改革が区側から唐突に発表されたことに第二日野小の保護者の反応はさまざまです。「勉強の環境が整う」「膨大なお金を掛けるのだから、いい先生を投入して、最善を尽くしてくれるはず」と期待する声の一方で、「保護者全体にきちんとした説明がなく、なぜ4・3・2なのかもよくわからない」との声もあります。 また、日野中の区域では周辺の小学校の保護者に「小学校から一貫校にいる子とは学力も差がついてしまう。どうやって全体のバランスをとっていくのか」「なぜあえて再開発地域に移すのか」という不安、不満があり、日野中PTAを中心に移転再考を求める陳情を出しました。 保護者や教師らで作る「品川区の子どもと教育を考える会」の代表、内田ユリコさんは「公教育というのはどこでも同じ基準の教育を受けられるのが基本です。一貫校建設費は100億円を超えそうで、区の年間教育予算より多い。これだけの税金を一つの学校に使うのは不平等」と、請願書を提出しています。 どう育てるかで学校選ぶ 法政大学教育学科の佐貫浩教授も「4・3・2」制の論拠に疑問を投げ掛けます。「中2で問題が表れてくるというけれど、それは中学で急に管理強化されたり、受験体制に組み込まれたりする現在の制度の問題です。6年生で最高学年としての自覚を持ち活躍するという、成長の過程で大事な節目もなくなる。そうした是非を議論することなく、唐突に一部に"エリート校"をつくっていくのは、より多くの脱落者を作る階層化した社会へ進んでいく危惧を感じます」それに対し、若月教育長はこう説明します。「根拠? 学説なんてありませんよ。子供たちが無言のうちに窮屈だとメッセージを送っているから、やってみるんです。一貫校も五つはっくりたい。いろいろな面で連携を取り合う小中連携校もいくつかつくっているので、在来の小・中学校と合わせて品川には三つのタイプができる。親は『近くの学校へ行かせとけばいい』じゃいけない。どう育てるかというビジョンを持って学校を選び、その学校をサポートする責任があるんです」 また、こうも言います。「習熟度別は差別だと言う人がいる。でも子供によって理解度は違うのだから、差別感や劣等感を持たせないように教えるのがプロです。楽をしたい教師はいらないんです。また、選択制で地域外に行く子が増えると、子供が地域と分断されるって言うけど、テレビゲーム、塾通いとすでに子供は地域に存在していない。その認識の上で魅力ある学校づくりをどうすべきか、地域の人たちも一緒に考えてほしいですね」 ●広がる改革の試み● 選択制は3年で東京都区部では16区にまで広がりました。日野市をはじめ多摩地区も順次増えていきそうです。「選ばれることで先生たちの意識も大きく変わってきました」と都教委学務部の担当者は活性化につながると選択制を評価しています。 実は、カリキュラムの中で9年を一貫としてとらえて連続性を持たせる試みは、品川区より早く文科省の研究開発校に指定された広島県呉市で始まり、香川県直島町などでも今年度から導入しています。政府の教育改革特区にも杉並区、港区をはじめ東京都三鷹市、茨城県東海村、奈良県など複数の自治体が一貫校導入を提案しています。「実験的試みが成功すれば、全国的に広げていける」と成果を期待する文科省の後押しもあり、公教育をめぐる改革の波はさらに大きくなっていきそうです。 |
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