朝日新聞(2002.10.17)より | |
教育基本法 | |
「愛国心」盛り改正提言 | |
中教審素案 見直しへ6視点 教育基本法の改正に向けた検討を続けてきた文部科学相の諮問機関・中央教育審議会(会長=鳥居泰彦・前慶応義塾長)がまとめた中間報告の素案の全容がわかった.「法の見直しを行うべきだ」とする結論を明示。公共心や道徳心、郷土や国を愛する心を基本理念に盛り込むことや、教員の使命感や責務、家庭の役割や責任を規定することを提言している。中教審が改正の必要性を明確に打ち出し、見直しの具体的な内容まで踏み込んだのは初めてだ。 教員の責務・家庭役割も 17日からこの素案をもとに議論して中間報告をまとめる。国民に意見を求め、年明けにも答申を出す。自民党は次期通常国会での改正案の上程を検討している。 素案では、まず基本法見直しの必要性を示し、その理由として、「現行法には、新しい時代を切り開くたくましい日本人を育成する観点から重要な教育の理念や原則が不十分だ」と説明。見直しの視点として6点を明示した。 その一つに「『公』に関する国民共通の規範の再構築」をあげ、「国や社会なと『公』に主体的に参画する意識や態度を養うこと」 「日本人のアイデンティティー(伝統、文化を尊重し、郷土や国を愛する心)を持つこと」が重要と位置つけた。 そのうえで具体的な見直しの方向に言及し、∇普遍的な理念は尊重しながら、新しい基本法はとうあるべきかという視点から見直す∇現行憲法を前提として見直すとの原則を説明。「個人の能力の伸長」や「公共心、道徳心、規範意戦」 「伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心」などを盛り込むペき理念として列記している。 さらに、指導力不足の教員の問題にも触れ、教員の使命感や責務を明確に親定することが適当と提案。過干渉・過保護や児童虐待などの問題に絡んで家庭の果たすべき役割や責任について新たに規定することも適当とした。 宗教教育については、異文化理解や宗教に関する邦織が必要といった意見を並べるにととめ、改正の方向性にまでは踏み込まなかった。 基本法は47年の制定以来、一度も改正されたことはない。首相の私的諮問機関だった教育改革国民会議が一昨年の最終報告で見直しの必要性を打ち出し、それを受けて昨年11月、遠山敦子文科相が中教審に、教育振興基本計画の策定とともに諮問していた。 戦後教育の大きな転換 《解説》敗戦直後に制定され、教育の憲法といわれる教育基本法は幾度となく見直し論議が起きてきた。今回、中教審が初めて具体的な案を示すことで、改正に向けた動きがいよいよ本格化することになる。 今回の改正論議の直接の発端は、2年前、森喜朗首相(当時)の私的諮問機関だった教育改革国民会議が政府に見直しを促したことだ。森氏が基本法の見直しを望む発言をしたことが影響を与えたと言われる。 素案では、生涯学習の理念や個人の能力の伸長なと新たな視点が打ち出された。だが、それに混じる形で、これまでの改正論で繰り返し語られてきた国を愛する心や伝統の尊重が含まれている。 国家のための教育からの脱却を目指した戦後教育の大きな転換といえる。 今回の改正の動きについては「いじめや不登校なと教育現場が直面する課題が解決するわけではない」 「政治主導で始まった論議であり、憲法改正に結びつきかねない」といった反対論が根強くある一方、「50年以上たつたのだから見直しが必要」との意見もある。 中教審は今後、公聴会を開く予定だ。「新しい時代にふさわしい教育の理念となる基本法」 (素案)を目指すという改正論議は、社会的な議論をふまえ、それを生かす姿勢が欠かせない。
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