読売新聞(2002.11.18)より | ||||||
法律物語 教育基本法 下 | ||||||
「教育の憲法一◆問題提起に反発の歴史◆変容した国民の意識 |
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保革対立超え改正機運 | ||||||
教育基本法は、「教育の憲法」と呼ばれる。 基本法が「日本国憲法の精神に則り」(前文)、教育の理念や制度の骨格を定めているからだ。保革イデオロギーの対立を背景に、法改正が長らくタブー視されてきた点も憲法とよく似ている。 ◇ はじめて教育基本法改正の声をあげたのは、鳩山内閣当時の一九五六年二月、清瀬一郎文相の国会答弁だ。清瀬氏は教育基本法第一条に掲げた「真理」「正義」などの理念には異存がないとしつつ、こう続けた。 「一体わが日本国に対する忠誠というのはどこに入っているのだ、この問題が一つある。日本は家族の制度を持っていて、個人の平等とはいうものの、家族内の恩愛の感情というものは捨て去ることができない。これはどこへ入っているのだろう」 清瀬文相の問題提起に、社会党や共産党、日本教職員組合(日教組)などから一斉に反発の声がわき起こった。
保革イデオロギーの軛(くびき)は八○年代になってからも続く。中曽根首相が八四年に臨時教育審議会(臨教審)を発足させて教育改革に取り組もうとしたが、野党側は、臨教審設置法の国会提出の条件として「教育基本法の精神にのっとり」という文言を条文に明記するよう要求した。国鉄民営化などの重要法案を抱え・政府は、この要求をのまざるを得なかった。 スタート時点で大きな足かせをはめられ、中曽根内閣の教育改革は、結局、大きな成果を得ることなく終わった。 ◇ 中教審の鳥居泰彦会長は十四日、教育基本法見直しに関する中間報告を遠山文部科学相に提出し、基本的理念に次のような要素を盛り込むよう求めた。 《社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心》 《日本人としてのアイデンティティー(伝統、文化の尊重、郷土や国を愛する心)と、国際性(国際社会の一員としての意識)》 政府は、来春をめどに中教審の答申を受け、来年の通常国会への教育基本法改正案の提出を目指す。 中教審委員の梶田叡一・京都ノートルダム女子大学長は指摘する。 「五五年体制が終焉し、教育現場の荒廃が喫緊の課題となっている中で、『基本法見直しが復古主義だ』という人がいても、国民の側でそのように受け止める素地はすでになくなっている。 戦後半世紀を経て、憲法を含め、占領下に作られた制度を、改めて日本人の手で作ろうという機運が出てきたということだろう」戦後半世紀にわたって放置されてきた欠落部分を埋め、二十一世紀の日本にふさわしい基本法に発展させる作業が、いよいよ本格化する。 (教育基本法は三浦真が担当しました。「法律物語」は原則として月曜日に掲載します) |
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