神奈川県高等学校教育会館

若者のクセやワケを受容し
心身の復調と共生を実践する


オールアライブしゃ
  
 09年3月7日の朝、新聞の見出しにギョッとさせられた。一行読んだらがーんと頭を殴られた感じがし、又、やっぱりという気持ちに落ち込んだ。抗うつ剤の副作用で攻撃性が生まれることがあるというのである。その一例のパキシルとかルボックスという薬はこの一年間、心の病を抱えた若者達との付き合いの中で,いや応なしに覚えざるをえない薬だったからである。実は前日の6日、僕は母親がガン治療入院中で,2人暮らしで独り残されたT君に代わって,精神科でそれらの薬を受け取り,本人のところへ届けに行ったばかりだったのである。このままでは何か恐ろしいことをしでかすかも知れないから、縛り付けるか収容してくれ,などと叫ぶ状況等は記事とそっくりなのである。
 これからの対応が急を要すると感じられた衝撃の土曜日ではあったが、ここではその土曜日の一日のともいきや・オールアライブの実践報告をすることで,僕たちの活動
の成果の象徴としたい。
 まず,午後一番で.定時制高校出身のK君が来る。家族と本人の経済的心的事情により、生活保護の受給にこぎつけたのだが、近況報告をし、ともいきやの発芽玄米菜食を食べて心身の復調を図るために寄ったのである。厨房での下ごしらえや皿洗いを手伝って、地域通貨であるリコムを少し手にして帰って行った。その後もう一人のK君、やはり定時制の卒業生が、就活と闘病生活の報告に来る。少しハンディがあるため、ずーっとワーキングプアの状態である。数年前在校中、何度か家庭訪問をしたが、父親も半失業状態であったし、今ますます生活は苦しい状態にある。気晴らしを兼ね、オールアライブピンポン場で、かつて放課後に興じた卓球で交流をする。
 夕方、約束していた母子が、相談にみえる。フリースクールに一年間通ったW君の今後の進路の相談である。ある心療内科の検査結果の用紙を見せて頂いたが、I Qその他現在の状態を、数値的検査も含め冷静半医学的に記録した物で、ほとんど何の意味もないと思えた。こんな仕事というか商売もあるんだなと・・・。それよりも、ここ、オールアライブがここから真骨頂を見せるのである。まずW君の一年間の学校生活に対する苦情をていねいに聞く。専門のカウンセラーがいることもなく、個人情報を守秘する義務があるなどということもない。もちろん相談したい人が望めば、別室で水槽に囲まれながら個人面談するわけだが、話の性質上同席の皆が考えた方が、文珠以上の知恵も出ようというのが今宵の取り組み姿勢である。
 話を一通り聞いて、まず口火を切ったのがTさん。通信制に通った娘さんと全日制を中退した息子さんがいて、その豊富な経験と母親の立場からの直感から、同感共鳴しつつも直言。次にSさん。息子さんは、定時制中退後、右翼か暴力団かという世界を、危うく渡りぬけながら、今はしっかり自立して、だめな母親を赦し見守ってくれている。という彼女自身も高校時代はかなりエンジョイした模様。今、自分はウツだと言うが、誰も信じられないという顔をする。子どもをかまいすぎる親もまた色々問題だ、という感を強くする。そしてI君。母親が統合失調症と言われ、家庭の事情で小さい頃養護ホームで生活し、やがて伴侶を得るが、数年のうちにガンで失ってしまう。学校の不毛さを説いてくれた。もちろん家庭の話もヤマとあるのだが、今回はそこまでは踏み込まずに、におわすにとどめた。
 そして前出のK君。定時制の様子をボソボソと語る。立場の弱いもの同士でも必ずしも分かり合い助け合いもしないことなども。この宵は父親という存在、或は職業の話には踏み込まなかったが、いつもは子から親、女から男への問題提起は頻繁にある。近所の年配である50?70代のおじさま達がその中心になって、オタオタ、タジタジとなるのである。さて当日の話は、W君はフリースクールは退学した方がいいだろう、とほぼ一致したところで後は飲みましょう、というところに16才のW君も珍し気につきあってくれた。
 その内、かつて定時制に、目の不自由な生徒の介助に入ってくれたことのある、在日コリアンのMさん登場。彼女は指紋押捺拒否等の民族差別と闘いつつ、近年は数年前にえん罪事件を蒙った上でのPTSDと不眠に悩まされながら、労災保険で何とか生きぬいている。今も続くその被差別体験は多くの示唆に富んでいる。そして彼女の実家の修理に行って帰って来た便利屋さん的なTさんも参加。彼の小学生の息子さんは、学習障害のようだが、近年、学習障害とか発達障害とか言われる人達とどう対応するのかは、なかなか困難かつ興味のある問題である。オールアライブの一環である楽塾にも、それらしい小学生が2人学びに来ている。前述のI君もまたTさんの仕事を手伝って、リコムを入手したところだ、ということを追加しておく。
 最後に登場したのが近所のアパートに越して来たMさんとY君。2人とも精神科通院で投薬をしている。Y君も昼間Tさんの仕事を手伝ってリコムを入手したが、それは利用できないカラオケに行って一杯やって来たようだ。ここで、心身にいい酒と食事を普段から勧めていても、そう思うようにはならない。ま、それやこれやで夜が更けていくのであった。


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