神奈川県高等学校教育会館

大学入試センター英語リスニング試験の妥当性検証:
高校生の英語コミュニュケーション能力の向上を目指して



センター試験(英語)研究会

  
研究の目的とその背景
 本研究の目的は、社会・認知妥当性の枠組みを用いて、大学入試センターリスニング試験(以下J-NCT[L])の妥当性検証を行い、試験の改善点を指摘し、高校生の英語リスニング力の向上に寄与することであった。社会・認知妥当性とは、実際の言語使用における言語使用者の認知処理と社会・言語的コンテクストが、テストタスクにどの程度反映されているかを問うテストの妥当性検証の中でも最も重要な柱の一つである。
大学入試センター試験に英語リスニング試験が導入されて今年で3年が経った。その目的は、学習指導要領で謳われている外国語(英語)教育の目標――「実践的コミュニュケーション能力」の養成に資するためである。相手の話を聞いて理解することはコミュニュケーションの第一歩であろう。J-NCT[L]の妥当性検証は、しかし、ほとんどなされていない。また、大学入試センターも実証的データを公表していない。そこで、本研究ではまず、妥当性検証に必要なL2リスニングモデルを構築し、リスニングのタスク要因を包括的に提示した。そして、この二つの枠組みを使って、J-NCT[L]が社会・認知妥当性をどの程度実現しているかを検証した。


研究課題
2.1. J-NCT[L]は実際の言語使用時のタスク(言語・社会的コンテクスト)をどの程度反映しているか。
[方法] 2008年度実施のJ-NCT[L]をテストタスクの枠組みから数量的に分析した。
[結果]センター英語リスニング試験がリスニングタスク要因を充分に反映してない点は以下の4点であることが示された。1) 2度聞き 2)真正性(authenticity)の欠如 3) 3人以上の会話の欠如(モノローグと対話のみ)4) 標準的アメリカ英語以外の英語の欠如

2.2. J-NCT[L]は、実際の言語使用時の認知処理をどの程度反映しているか。
[方法] 2008年実施のJ-NCT[L]の各問題項目で、以下の4つのパラメータにおいて専門家三人が査定した。
1) 受験者が項目に正解するために求められる認知処理レベル。低次の文レベルから、談話(まとまった話)レベル、高次の状況モデルの構築レベルの3段階。
2) 談話(対話)が直線的であるかどうか。
3) 受験者が項目に正解するために理解をしなければならない情報(relevant information)の位置。先頭、中ほど、最後、そして談話全体。
4) 項目がinference question(推測を求める項目)であるかどうか。非明示的な情報を聞き手が汲み取る必要があるかどうか。

1)-4)全てにおいて、専門家の判断に相違がある場合は、評価者間信頼性が0.9を超えるまで議論を重ねた。専門家とは、言語テストまたは第2言語リスニング(second language listening)の専門家のことを言う。

[結果] 上記1)-4)のそれぞれについて、専門家3人の判断は2008年実施のJ-NCT[L]の全25問中以下の通りとなった。
1) 文レベル4問、談話レベル16問、状況モデル5問
2) 非直線的9問、直線的16問
3) 先頭0問、中ほど2問、最後4問、談話全体19問
4) inference question4問、non-inference question21問

[分析] 上記の結果から、センター試験が受験者に求める認知処理は、実際の言語使用で求められる認知処理を一定程度反映していることが示された。改善すべき点としては、受験者に非明示的な情報の理解を求める項目が少ないことが示された。


まとめ
本研究は、大学入試センター英語リスニング試験(J-NCT[L])の妥当性検証を行った。その結果、現行のJ-NCT[L]は、以下の4点においてリスニングタスク要因を反映していないことが示された。1) 2度聞き 2)真正性(authenticity)の欠如 3) 3人以上の会話の欠如(モノローグと対話のみ)4) 標準的アメリカ英語以外の英語の欠如。
 一方、認知処理については、現行のJ-NCT[L]は、受験者に非明示的な情報の理解を求める項目が少ないものの、実際の言語使用で求められる認知処理を一定程度反映していることが示された。
 今後の課題として、抽出された改善すべき点のうち、重要度の高いものを特定し、J-NCT[L]の改良に貢献したい。
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