神奈川県高等学校教育会館

新しいメディアリテラシー教育の実践的研究 


新メディア教育学習会
  
【研究の目的、ねらい】
 メディアにおける「送り手と受け手の立場の逆転」が今年度のねらいである。
メディアリテラシー教育を従来のようにマスメディアに対する一方的な批判的視点のみに限定するのではなく、受け手である市民も過剰な情報に対し受身的な批判者としてとどまるだけでなく、自らも発信し情報の循環系を作り出すこと。市民の側に立って、マスメディアが発信する大量の情報を俎上にのせ、解体し、摂取して消化して、再び発信すること。このことが現代において、パソコンやインターネット・携帯電話の普及という新たなメディア環境の中で可能になってきた。このメディア社会でどうしたら「生きる力」を身につけていくことができるのか、生徒のみならず大人である教師・一般市民がどのように自己啓発力を高めていくことができるのか、その可能性を実践的に探求していくことが本研究の目的、ねらいである。

【具体的実践】
 かつて「リテラシー」といえば、活字文化における「読解力」を意味していた。知識注入型の教授法が有効に機能していた。しかし、現代ではメディアの巨大化、多様化によって,学校は読み書きを教えるだけではすまされなくなってきた。
 とはいえコンピュータの情報処理を学べばいい、視聴覚機材を有効に使えばいいということではない。社会のなかでの情報の流れの有様やメディアの意味論的考察が「メディアリテラシー」という活動に不可欠である。
今年度、本学習会では、高校での学校設定科目「メディア論」・「メディアリテラシー」の授業、部活動「映画部」、学校図書館の文化活動などのさまざまな実践が報告された。それぞれ個性的な実践であったが、生徒による映像製作を取り入れた実践という共通点があった。
  1. 教科活動での取り組み(県立相武台高校による「メディア論」での女子美大や地域商店街との連携、映像製作、写真集「人生模様」制作・中山周治教諭報告、和光高校による「メディアリテラシー」での生徒による社会派ドキュメンタリー作品の製作・深谷倫子教諭報告)
  2. 部活動での取り組み(県立厚木清南高等学校通信制による「映画部」での生徒自作自演の自主制作ドラマの製作・中澤邦治教諭報告)
  3. 学校図書館から発信する文化活動(「非日常的なイベントからのアプローチ」県立相原高校学校司書松田ユリ子報告、「祝祭的な場としての図書館とケロミン」(有)トゥロッシュ取締役奥山雄司氏講演、県立相武台高校学校司書殿山由美子・教員補助者横堀雅之報告)
  4. 学校とメディアのかかわり(「教員研修向けDVD『創りだす校内研修』は教師の研修力を強化することができるか?毎日映画社齊藤正純氏講演、「法政大学の司書教諭資格取得講座での学生による映像製作の取り組み」県立相原高校学校司書松田ユリ子報告)
 以上のような実践研究が定例会で報告された。また、研究者、メディア業界関係者などを講師に招き,ひろく市民との交流,情報提供,情報交換を行った。また、東京大学で2010年3月に開催されたメル・プラッツが主催するメルエキスポ2010に参加・出展し、研究成果を報告した。

研究成果】
 これらの一連の実践研究を通じて、さまざまなメディアによる「表現」や「情報伝達」の面白さ、楽しさを若者とともに味わいながら、表現や発信の難しさや受け手の側のあるべき態度などを主体的かつ批判的に検証した。成果としてまとめると以下の3点に要約できよう。
  1. 生徒による映像製作を中心とした学習が、生徒の主体性や創造性を伸ばすことができた。
  2. メディアに関わるワークショップに類似した授業展開が、学習コミュニティーの形成を促し、生徒の協同学習スキルの向上に良い効果をもたらした。
  3. 学校の中に祝祭的空間や場をつくることや学校外への拡張的な学習が生徒の学習の転移を効果的に促し、地域社会や市民社会に開かれた学校づくりや生徒の「生きる力」の育成につながった。
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