神奈川県高等学校教育会館

ベトナムの歴史と文化を理解するための教材開発に関する研究



ベトナム理解教材開発プロジェクト

  
 本研究はベトナムの歴史と文化を理解するための教材開発に関する研究である。今年度は2つの教材で実践を行った。ベトナムはベトナム出身者が比較的多く居住する本県にゆかりの深い国である。また、ベトナムは急速に経済発展を続けており、日本から積極的な投資、企業進出が行われている。日本からの旅行者数は年間約40万人であり、日本に暮らす人々にとって遠くない国になってきていると言える。一方、ベトナムの歴史を振り返るとベトナム戦争の深い印象を忘れることはできない、また日本との結びつきとしては、日本人町や第二次世界大戦時の仏領インドシナ占領などの史実もある。
 本研究では、多様なベトナムの姿を学ぶために、できるだけ現在のベトナムの人々の生活を知るような現地取材を行った。そして、地域社会に暮らすベトナム人の理解にも役に立てることも念頭に、ベトナムの歴史と文化を理解するための教材を開発し、実践を行い、有効なあり方を検討することを目的とした。
 本研究は1.東アジア文化圏の一員としての日本との共通点、2.歴史における日越関係、3.ベトナム戦争のとらえ方、4.現代ベトナムの理解の4つのテーマに沿って、既存の文献の検討とあわせて現地取材を行った。文献の検討は、特に高等学校世界史Bの教科書の記述を2社の教科書について比較検討した。現地取材は2名が参加して8月に行った。現地の教育施設、福祉施設、一般家庭等を多数訪問し、ベトナムの普段の生活を取材するよう心掛けた。この取材をもとに、今年度は2つの教材を作成し、実践を行った。
 地理分野では吉田が「ベトナムの生活・文化と日本のつながり」という授業案を瀬谷区教育研究会の公開研究授業として実践した。吉田のねらいは、両国の共通点と相違点を取材した内容を活用して生徒に考えさせるところにある。儒教、漢字、箸といった教科書的な東アジアの共通項だけでなく、同時代を生きる人間としての共感のための素材としてポピュラーミュージックや学校生活を取り上げた。
 歴史分野では生地がベトナムの独立運動家ファンボイチャウの教材化を行った。日本の近代化とアジアの関係を一人のベトナム人の行動から学ぶものである。そして、ファンボイチャウが滞在し留学生の教育を行った横浜、ファンボイチャウの支援した浅羽佐喜太郎が多くのベトナム人独立運動家をかくまった国府津の病院の存在は、郷土史の一部として取り上げることができよう。授業は映像資料の視聴を中心に合計82名に対して行った。
 今後の課題として、ベトナム戦争について、その複雑で長いプロセスをわかりやすく把握できるような教材を開発することが残されている。また、今回取材した現代ベトナムの人々の生活については地理あるいは現代社会などの授業に活用する機会を作りたい。


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