私立高校の再編・統廃合をめぐって〜横須賀市と横浜市
 

横須賀市立高校再編と総合高校について


岸本 隆巳

  1. .はじめに

     新たに総合学科が誕生して6年が経過し、全国で総合学科設置校も140校を超えています。横須賀市では、学識経験者、行政、現場代表、地域代表などをまじえ、1992年度から横須賀市後期中等教育検討協議会(以下、後中検)がつくられ、横須賀市立高校のあり方が検討されました。その結果、市立3高校(横須賀高校、商業高校、工業高校)、定時制2校の統合と新たな高校を総合学科高校とすることとなり、現在2003年開校をめざし統合に向けての論議と準備が進んでいます。
     
     

  2. 現場の反応

     3校の統合が発表された当初は、現場教職員の反応は冷ややかなものでした。というのも、普通科、商業科、工業科の特徴を持った3校が(進学希望、就職希望、資格取得希望のニーズに応えるという意味で)それぞれの役割を果たしながら個別に存在し、あえて統合する意味合いはない状況だったからです。しかし、全国の総合学科の状況や三浦半島学区における高校進学予定者数の減少傾向など、現場を取り巻く状況が大きく変わっていっていることを事実として受け入れざるを得ない中で、統合、そして総合学科高校へと意識が変わっていったのではないでしょうか。それ以降、表だった統合に対する反対の意見などは影を潜めています。
     横須賀市立高校教員が所属している三浦半島地区教職員組合では、高等学校のあり方として、高校3原則(小学区制・男女共学・総合制)を早い時期から活動方針にしていました。「総合学科高校」は最終的に24クラスを予定しています。現在の学級数は三校合わせて57学級であることから急激に減少することになり、三校の統合に際しては、教職員の強制的な合理化はしない、現場・地域保護者などの意見を反映させる、統合及び総合学科高校立ち上げのための研究・研修予算配当をする、などの確認をもって、積極的に総合学科高校開校の論議に参加していっています。後中検解散のあと、横須賀市立高等学校教育連絡会議(以下、3校連絡会)が発足し、現場の意見が反映されてきています。
     その一つに、3校連絡会の下に施設検討員会や教育課程研究員会などを設け、校舎建築に関わる設計段階からの意見反映をしたり、カリキュラム編成については、各校の代表が検討を重ねてきているところです。
     
     

  3. 仮称横須賀市立横須賀総合高校とは

     ハード面の校舎については、三校の校舎を壊し、現商業高校敷地に新たに新校舎を建築するというものです。これについては、現場代表を含む施設検討員会での論議の結果市教委が示した当初の設計案を大幅に変更する形で現場の意見が入りました。特に当初案では食堂がなかったのが、全日制・定時制共用校舎であるため、食堂を追加したこと、定時制が1学年1クラスであったものを、この間の市立定時制への入学希望者が増加していることから2クラスへ変更したことなどが挙げられます。
     同じく各校からの教科などの代表からなる教育課程研究員会において、ソフト面の教育課程の編成についてモデルプランの検討がなされています。モデルプランでは、1年次の「産業社会と人間」を基本に9系列(国際人文、自然科学、福祉、体育・健康、芸術、情報ビジネス、都市工学、情報・機械、デザイン)を設けています。ここでは、生徒一人一人の関心や希望する進路にあった科目選択ができるようにするため「産業社会と人間」の中身をどう充実させていくか、「地域に根ざし、開かれた学校」の内実をどうつくっていくかなどがこれからの課題となっています。
    学校規模としては、少し触れましたが、全日制は1学年8クラス、全24クラスの予定です。定時制については、今日の経済状況の下、働きながら学ぶ生徒や全日制になじめない生徒、さまざまなハンディをもった生徒などの学習権の保障という観点を第一に考えていく必要があります。また、定時制が生涯学習として社会人の学び直す場所となっている現実もあり、学級数は基本的に単年度ごとに決定することになっています。
     
     

  4. 県立高校との関わり

     県教委が県立高校の改編計画を99年8月に出しましたが、三浦半島学区的に言えば、横須賀市立三高校の改編が先行していたため、この学区内の県立高校の改編に大きく影響したのではないでしょうか。たとえば、市立高校が総合学科となったため、三崎、初声高校が統廃合して単位制高校となったり、定時制課程で言えば、県立との兼ね合いで県立高校定時制の募集停止やクラス数の増減などに影響が出ています。今後、横浜市や川崎市でも同じような影響が出てくることにもなり、県立、市立の教組間での連携、情報交換がますます必要となってきます。
     
     

  5. 今後の検討課題

     今後とりくむべき課題として、1)総合学科に向けた教員研修の内容の充実、2)「横須賀らしさ」を学校づくりにどう反映させるか・地域との関係づくり、3)学区の範囲、4)「障害」のある生徒、外国籍・帰国生徒などの入学枠の確保、5)定時制・全日制間の単位の互換、三修制(3年で単位を修得し卒業を認める制度)などがあります。今後はこれらの課題を2000年度から市教委内に設置される「開校準備室」にゆだねることになりますが、これらの課題が反映されるよう常に働きかけていく必要があると考えています。
     
     

  6. 総合学科の最近の全国的状況

     今年度から総合高校立ち上げのために各校に調査・研修などのための予算が大幅に認められ、多くの教員が研究大会への参加や全国の先進校の視察を行っています。その報告からは次のようなことが危惧されています。
     教育困難校からの脱却という意味では一定の前進がみられていることは、県内的にも大師高校の実践から評価できますが、全国的には、理念とは違った方向に向かっているようです。「生徒の多様なニーズにこたえる」という大いなる理念が、大学受験、進学率の向上、レベルアップという目前の呪縛から脱却できず、多くの総合学科高校で、その成果の発表が大学進学率によって語られている報告が多くなっています。理念と現実の大きな溝を生み出しています。もう一度原点にかえってみる必要があるのではないでしょうか。
     
     

  7. 発想の大変革を

     新しい制度を持つ学校には、今までの私たちの教育観をそのまま当てはめることはできません。ハード面の校舎は良くなっても、今までと相も変わらぬ生徒指導をし、今まで通りの授業形態で生徒と関わることでは、決して魅力ある学校にはなりません。また、多様な選択科目の設置からいえば、今までの教科担任制でそれのみを教えていればよい、という考えや、「この教科しか教えられません」という頑なな姿勢では新しい学校は創造できないでしょう。たとえば、制服や生徒指導一つにとっても「自ら考え、生きる力をつける」ということからすれば、管理的発想の校則などはどうなのでしょうか。まずは私たちには、今まで持っていた生徒観や教育・学校観に対する発想の大転換が求められているのではないでしょうか。 

(きしもと たかみ;横須賀市立商業高校教諭 三浦半島地区教職員組合執行委員)

 
 

横浜市立高校再編整備計画の問題点


「多様な選択ができる高校」のかげで切り捨てられる定時制教育

河野 優司

  1. 市教委の将来構想に異論あり

     2月9日、横浜市教育委員会は「多様な選択ができる高校をめざす」という「横浜市立高校再編整備計画の概要」(以下「再編整備計画」)を発表した。昨年11月には、県教育委員会が「県立高校改革推進計画」を既に決定しているから、これで県内の公立高校の21世紀に向けて将来像が明らかになったことになる。私立高校については、一昨年の12月に市教委から「再編整備計画(案)」が示されて以来、私たちはさまざまな形で現場からの声をぶつけてきたし、市教委も各方面から広く意見を聞いて、「再編整備計画」を決定したという。たしかに、当所案より計画期間が延長(2000年度から2009年度までの10年間)されて穏やかに改編が進められることになったり、昼間定時制の募集人数も若干増加されるなど、市民や私たちの主張が聞き入れられたと思われる部分があることも否定はしない。
     しかし、強く求めてきた、地域に根ざし地域から評価される私立高校をなぜ大きく変えなければならないのか、現在1500人を越える生徒が学ぶ定時制5校を、何故全て廃校にしなければならないのか、という根源的な問いかけにきちんと答えてはいない。その上で、先の計画案とほとんど変わらない最終の目標水準を示すのだから、「再編整備計画」に対する「異議あり」の声は容易に理解していただけるだろう。ここでは、具体的な問題点を指摘するなかで、21世紀に剥けての改革のありさまを探ることにする。

     

  2. 「再編整備計画」の4つの問題点

     まず第一に、何故に全日制普通科5校を単位制高校に、改編しなければならないのか、という疑問がある。市教委がいう「生徒の多様な学習希望や進路希望等に対応し、主体的な選択を重視する教育を推進する」などということは、当外の5校は、自由選択性の拡大や特別活動の充実という形で、ある程度実現している。事実、こうした教育実践があるからこそ、私立高校は中退者をほとんど出すことなく、市民からも一定の評価を得ているのではないだろうか。さらに「個性を伸ばし、豊かな人間性や主体性を育む」などという抽象的な文言が並ぶが、こうした言葉からはどのような単位制高校を指向するのか見えてこないし、唐突にうたわれる「基礎・基本の重視」が、単位制高校とどう整合性がはかられるのかも定かではない。
     第二に、定時制高校に関して市教委は、まず生徒の全日制へ進学希望をあげ、全日制への入学枠が拡大されれば、定時制の入学定員の見直しは必然である、との認識を示す。しかし、計画進学率が93.5%に引き上げられても、全日制の進学実績は92%台に留まっているし、私学の計画進学者数は18000人に設定されてはいるものの、実際の進学者は15500人で銃速度は86%となっている。結果、少ない子どもたちが全日制の課程に進むことができず、定時制の門をたたくか、行き場を失って彷徨っている、というのが実情であろう。こうした現実を無視し、定時制5校の廃校を打ち出すのはなぜか。この間市教委は、定時制入学者数の増加という現実を前にしても、「私学がきちんと取ってくれれば計画通り進むし、問題はない」と繰り返してきた。悪いのは私学であると言わんばかりだが、この程度の認識しかないのだから議論がかみ合わないのも当然といえば当然である。
     さらに、多様な生徒への対応のために、昼間定時制高校の設置をうたい、これによって夜間定時制志願者は確実に減少するだろうという。しかし、全国の事例を検証するときこうした論拠が成り立たないことはすぐにわかる。例えば今年、名古屋で開校した昼間定時制高校は、競争率が4.5倍にのぼる人気になったというが、市内の夜間定時制進学希望者も増加したと報告されている。昼間定時制高校が、今まで高校に背を向けていた子どもたちの心を捉え始めたのは確かなようだが、こうした昼間定時制高校に希望を見出そうとする子どもたちと、既存の定時制高校へ通うことで自分を発見し成長する子供たちとの間には、明かな違いがあるということは理解しておくべきであろう。市教委の「再編整備計画」では、昼間定時制の開設と同時に既存の定時制の募集停止が予定されているが、定時制の現状を少しでも理解するなら、このように乱暴な計画は策定できないはずである。
     最後に、専門高校等についてふれるならば、かつて発表された「ゆめはま2010プラン」(市長が策定)には、国際高校の新設が高らかにうたわれ、夢多き将来像が提示されていた。しかし、いつの間にかその構想も十分な説明がないままに、国際高校から国際学科(横浜商業高校に設置)に計画は大きく矮小化されてしまった。バブルへと向かう時代の壮大な計画が、バブルが弾けることでご破算になってしまう。ここに、横浜市の姿勢が見事に映し出されている、といったら言い過ぎだろうか。国際高校には、さまざまな可能性が期待できただけに残念でならない。少なくとも、当該校の多くの教職員が国際学科の設置に反対の意思表示をする中での強引な導入だけは許してはならない、というのが現時点での率直な声である。反対の声が上がっているという点では、改築が決まった鶴見工業高校の学科の改編についても同様である。

     

  3. あるべき高校像を求めて

     このように見てくると、どうしても最後には、この「再編整備計画」や県の「改革推進計画」で、いま高校がかかえるさまざまな問題が解決するのだろうか、と自問せざるを得なくなる。はたして、学力底辺校(あえてこう呼ぶ)での100人にも上る中退者は減少するのだろうか、子どもたちに苦悩を強いる競争と選別が、これで解消するのだろうか等々。考えれば考えるほど、何も変わらないのではないかとの思いが強くなるし、素朴な疑問が膨らんでいく。たとえば、ある学力底辺校が総合学科高校に改編されて、見事に評価が上がったとしても、序列化による「輪切り」が進む現状では、また新たな底辺校が生まれるだけではないのか、との疑問をいだくし、こうした疑問が尽きることもない。
     市立高校については、普通科高校が改編によって学区が外れ、自由に受験できるようになったところで、その恩恵を受けるのは、一部の成績上位者に限られるのは目にみえている。昼間定時制高校が開設され、県のフレキシブルスクールとともに高い人気を集めたとしても、そこに通うことができるのは、全日制の中退者や既存の高校に背を向けた子どもたちであって、今まで定時制に通っていた子供たちにとっての新たな居場所となることは無いだろう。総合学科高校や国際学科だって然りである。
     市教委が進める「再編整備計画」で、救われる子ども達や輝きを取り戻す子どもたちもいるだろう。しかし、「多様な選択ができる高校」が設置される陰で、人との出会いや学ぶ喜びを大切にしてきた定時制高校が、いとも簡単に切り捨てられるのを黙過するわけにはいかない。何がなんても定時制教育を守れ、というつもりはないし、やがてはその役割を終えて消えゆく日が来るのかもしれない。しかし、横浜市内では62.9%、およそ1500人の生徒が、市立の定時制高校に通うという事実と、働きながら学ぶ生徒や全日制に馴染めなかった者、不登校を経験した者等、多様な生徒が在籍しているという現実を考えるとき、定時制5校の廃校計画には、やはり「異議あり」と叫びたいし、こうした「再編整備計画」や「改革推進計画」で、高校中退者率や進学実績がほんとうに改善するのか、ということも改めて問い直してみたい。

(こうの ゆうじ;横浜市立高等学校教職員組合)

 

《あとがき》

 今回のニュースレターは、県立高校と同様に、再編・統廃合計画が進む横須賀市と横浜市の市立高等学校からのレポートを現場の教職員の方にお願いした。同じ神奈川県内にありながら、市立高校の現状は、余り知られることがなく、情報もあまり入ってこない。情報交換と連携を密にしていきたいところである。
 当教育研究所は、昨年のシンポジウムからの残された課題として、高校再編問題をめぐる「ミニ討論会」を近々開催する予定である。その節は奮ってご参加をお願いしたい。

(2000/3 山梨 彰)