第13回 教育研究所シンポジウムのご案内
     「フリーター」 に何を見るか

 

   

  フリーターという言葉が使われはじめておよそ10年。 この間、 フリーターの数は増加しつづけ、 2003年には 『労働経済白書』 では209万人、 『国民生活白書』 では417万人という数字があげられるにいたっています。 さらに最近は、 教育からも、 職業からも、 そこへの準備からも疎外された存在をさす 「ニート」 という新しい言葉も聞くようになりました。 いまわれわれが生きる社会にはどんな問題があるのでしょうか。 若者の間には何がおこっているのでしょうか。 そしてこの社会はどんな方向へ向かおうとしているのでしょうか。 今回のシンポジウムでは、 教育と職業との接点に目を向けた調査・研究を積み重ねてきた方、 教育現場で進路保障に取り組んできた方に討論していただきます。 ぜひ様々な立場の方にこのシンポジウムにご参加いただき、 積極的なご発言をしていただきたいと願っています。

シンポジスト 田 正規 (ベネッセ教育総研所長)
       小杉 礼子 (労働政策研究・研修機構副統括研究員)
       小島喜與徳 (県立高校教員)
コーディネーター  佐々木 賢
          (社会臨床学会運営委員・教育研究所共同研究員)


■ 日 時 / 2004年11月6日 (土)  14 : 00〜16 : 30 (13 : 30受付開始)
■ 会 場 Lプラザ (神奈川労働プラザ) (横浜市中区寿町1-4  045-633-6110)


シンポジストからの 発 信

フリーター・ニートの増加と学校教育

        小 杉 礼 子

増加するフリーターと若年無業(ニート)
 2002年にはフリーター数は209万人、 若年失業者 (15-34歳) は159万人にのぼる。 さらに最近では、 求職活動をしていない無業が増加している。 統計上、 働いていない者は、 仕事を探している 「失業者」 と、 仕事を探していない「非労働力」に分けられる。 非労働力の若者といえば、 学生・生徒や主婦が大半である。 だが、 最近ではそのどちらでもない若者が急激に増え、 60数万人に達している。
 少し前からイギリスでは、 学校に行っていないし、 仕事もしていない、 職業訓練も受けていない若者をNEET (ニート) とよび、 かれらの社会参加 (社会的統合) を新たな政策課題として積極的に取り組んでいる (Social Exclusion Unit‘Bridging the Gap' 1999)。 日本でも新たな政策課題として、 先の非労働力化した若者たちが浮び上がっている。
増加の背景
 フリーター増加の第一の要因は、 企業の採用行動が変わったことである。 90年代初めの景気後退以降、 新規学卒者については厳選採用が続き、 一方でアルバイト・パートをはじめとする非典型雇用での採用は拡大した。 この採用行動の変化には、 景気の低迷に加えて、 産業構造の変化や基本的な雇用管理の方針の変化があり、 特に若く、 学歴の低い者への正社員としての需要は大きく減少した。 また、 構造的な背景を持つことから昨今の景気回復によっても高卒予定者向けの求人の拡大は限定的な範囲にとどまっている。
 他方で、 高校生や大学生には、 学校卒業時に就職活動を熱心にせずにフリーターや無業を選ぶ傾向がある。 JIL調査からは、 自己実現志向の肥大化の一方、 「自由・気楽・気軽」 だからという社会の構成員としての役割・責任を回避する志向の存在が指摘されてきた。 さらに、 最近のインタビュー調査からは、 都市部の高卒者や高校中退者では、 自己実現志向より基本的生活習慣の不確立や親の無関心、 狭い友人関係への関心や孤立化など、 社会化プロセスに問題があることが指摘され、 自己実現志向の強い大卒者とは異なる問題があることが明らかにされている。
フリーターの問題性と可能性
 新規学卒就職なら次のメリットとデメリットがある。 メリットは、 @職業能力が獲得しやすい、 Aキャリアの展望が持てる、 B安定した人間関係が築け、 職業人としての自分を確立しやすい、 C収入の安定と上昇の見通しがあり、 経済的自立が図れ、 結婚などの生活設計ができる、 保障や安心が得られる。 デメリットは、 @一斉一括採用システムでは個人の意識形成や意思が時に軽視・無視される、 A年功的序列組織では、 責任を持ち、 能力発揮しやすくポストにつくまで長期の時間がかかる、 ことである。
 フリーターではこの逆が言えるが、 フリーターのメリットを発揮しているものは少ない。 現状では、 フリーターは不利な立場に置かれている。
 就業への移行経路を整備して、 フリーターになることのデメリットを減らす政策と、 高校、 大学それぞれの教育段階でのキャリア教育の充実が求められる。
  (こすぎ れいこ)


フリーター問題、 高校現場でできること?

      小 島 喜與徳

高校の社会的役割の変化と未来社会の選択 2004年3月末における高校生の就職内定率は、 92.1%。 求人倍率は1.26倍。 (厚生労働省5月13日発表) 文部科学省では、 就職率89.0%である。 神奈川県では、 求人倍率1.62倍、 就職内定率94.4% (厚生労働省)、 就職率88.7%。 (文部科学省) である。 データだけをみると、 高校生の就職も世間が騒いでいるほど悪くないのではないかと思うかもしれない。 しかし、 ここには就職活動の途中で挫折し、 進路変更したものの数は含まれていない。 経済的に余裕のあるものは進学へ、 そうでない者はアルバイトをするしかなくなる。
 1998年頃から、 若年者のフリーターの増加が社会問題として取り上げられるようになり、 2003年に限っても、 経済同友会、 内閣府、 文部科学省初等中等局、 厚生労働省能力開発局、 日本経済団体連合会など、 経済団体や行政等から若年者のキャリア教育に関する様々な提言や報告がなされている。
 これらの提言や報告に基づいて、 望ましい職業観・就労観の育成を目指したキャリア教育の推進とともに、 就職慣行の見直しなどが進められている。 具体的には、 インターンシップ・職業人講話等の体験的な活動の実施と一人一社制、 学校推薦のあり方等のシステムの改善などである。
 高校生の意識の外での変革が進んでも、 高校生の内面にどれだけ影響が与えられるのだろうか。 影響を与え、 望ましい職業観・就労観が身に付いたとしても、 フリーターにならないとは限らない。
 若年者の就職問題を扱った書物が多数出版され、 フリーターバッシングからフリーター擁護へと言説にも変化が現れてきている。 働き方が多様化し、 正社員時代の終焉という言葉も目にする。 フリーターを悪者にして、 撲滅することを目指しても意味がない。
 フリーター等の問題のゴールは正社員という雇用形態ではなく、 職業能力の獲得と経済的な自立である。 とリクルートワークスの佐野氏の言がある。 つまり、 職業能力の獲得の重要性とその方法、 必然としての経済的自立、 これを高校生一人一人へ伝えていく。 これが高校現場にできることの帰結かもしれない。 ( こじま きよのり)

フリーター問題 青少年の行動様式から考える

        田 正 規

 自分の可能性を踏まえて将来展望を肯定的に描きにくい高校生が25%、 大学生が20%ほどおり増加傾向にある。 これは、 ネガティブな自己イメージ (I'm not OK) や打ち込める事が発見できない事に起因している。
 青少年は、 3つの心理的葛藤を抱えて生活している。 (1)自己主張・自己表現したいのに自信がないためにできにくい。 (2)自分の役割を果たし居心地の良い対人関係を保持したいのに、 「自分らしさ」 がつかめないため仲よし集団 (群) に埋没し対人関係能力が育ちにくい。 (3)困難に耐える力 (対処性) はあるのに、 他者への役立ちが実感できないため困難を回避したり持続力に欠ける。
 このような課題は、 社会が求める資質能力と合わせ鏡になっており 「社会で生きるための能力」 を育てる事が学校教育に求められていることと対応している。
 生きる目標がつかめずもがいたり、 「小さなマユの中での」 自己実現を志向する若者が、 「マユ」 を喰い破って社会の中での自己実現を目指すためには 「自分さがし」 =アイデンティティ教育の実践が必要となる。
  「なりたい自分」。 言いかえると生きる目標を定めるためのキーワードは 「自己効力」 (Self Efficacy) で、 青少年に進歩の実感と自分自身への期待をふくらませる学びをどう保証するのかが求められているが、 学校外の教育リソースの活用を学校の教育システムの中に組み込む事が突破口となる。
 異年齢交流を柱にした学びの展開によって、 自分が社会で必要な人間である事やその過程で得られる小さな成功体験によって 「自分もまんざらで捨てたものではないぞ」 と感じたり、 「やれば出来るんだ」 といった肯定的な自己イメージ (I'm OK) が描けるようになったという実践事例が積みあげられている。
 自己効力の実感度が高まると、 青少年の進路選択行動や学習行動は望ましい方向にかなり急激に変化して行く。
 自分の存在を他者から認められる機会を作ると共に、 自分が働く事によって誰が喜んでくれ、 社会の中でどう役立つのかを体験させる機会は学校でも準備できるし、 地域社会でもその試みが実践に移されている。 これらの体験は、 若者たちが自分のドメイン (領域) を定めるのに有効なのである。
 青少年は就業先を消費者の視点でしか見ていないためブランド企業に注目しがちなのだが、 これらの学びを通じて 「働く」 という視角を加えるのがキャリア教育で、 就職の内定が得られ 「やる気」 にみちている若者の自己効力実感度は 「内定ブルー」 の学生より有意に強いのである。
 職業的能力の獲得は仕事をすることを通じてのみ獲得されるものである。 だから、 アイデンティティの確立をめざすキャリア教育のシステム化が求められており、 フリーター問題の解決の道すじは実践の積み重ねの過程できり拓かれるのではなかろうか。  (たかだ まさのり)