第14回教育研究所シンポジウムのご案内
                15の春ぱ泣いている!入試状況異状あり

 

   


 2004年度入試から前期・後期選抜、全定同一日程となり.今年度から学区がはずされ全県1学区の新たな人試制度が導入されました。これらの制度は「行けるける高校から行きたい高校へ」をめざして実施されてきました。しかし.各学校の募集定員があり選抜を実施している以上、それは、単なるスローガンでしかあり得ないことは明白です。むしろ、「競争激化」した入試制度で多くの中学生はとまどっているのではないでしょうか。
 教育研究所は全日制高校に行かなかった全県下の中学卒業生の実態を調査しました。全日制高校に行かなかった1,433名の中学生の進路はどうだったのでしょうか。
 今回のシンポジウムでは、サポート校・中学校・高校で様々な取り組みをしている3名の方に討論していただきます。
ぜひ多くの方にこのシンポジウムにご参加いただき.積極的なご発言をしていただきたいと願っています。

シンポジスト 島根三枝子(代々木高等学院相談室長)
宮下宗秋(海老名市立有馬中学教諭
      神教組・高校教育制度研究委員会委員長)
手島純(県立栗原高校教諭教育研究所所員)
コーディネーター 金沢信之(県立元石川高校教諭教育研究所所員)

■日時 2005年12月17日(土)
14:00〜16:30(13:30受付開始)
■会場 横浜情報文化センター
6階情文ホール
(横浜市中区日本大通11
TEL045−664−3737〕

シンポジストからの発信
         苦悩する定時制高校

                                        手島純
 神奈川県の両校入試は、学力検査を行わない制度の導入(前期日程)などより、大きく変化した。2005年度からは「学区撤廃」も導入された。それに加えて、「計画進学率と実質進学率の差」「高校再編」などが高校の現状を規定している。この結果、何が県立高校に起きているかを素描したい(ここでは主に問越前だと思われる点を取りあげる)。
定時制高校の危機
 定時制高校は、「改革」といわれている全ての影響、というより「しわ寄せ」を直接受けた。今年の夏に何人かの定時制高校教員にインタビューして回ったところ、多くの方が、定時制両校での教科指導と生徒指導の困難さを語る。こんな具合だ。「今年、1年の担任をやっている。生徒は学校に来ているけど、教室には入らない。廊下で遊んでいる。テストをやっていても教室には人らない。とりあえずは入学したけど、勉強はきらいなのでしない生徒がいる」。
「前期・後期入試で騒ぐ子が入ってきた。全日制の改革のしわ守せを受けていると感じる」。「今年の1年半で授業をまともに受けているのは半分以下である。外でタバコを吸ったりしている。留年者でまともにやっているのは誰もいない。学校には遊びに来ているとはっきり公言している者もいる」。
 定時制高校では、クラス定員の35人がこの数年40人にさせられたままだ。また、学級増を強制されたり、その上、入定員を超えて合格者をとるような指示もあった。定時制の良さである「少人数のために生徒とのコミュニケーションがとれ、家庭的な雰囲気の定時制」(インタビューより)は崩壊しつつあるという。
 この状況は、高校再編によって課題集中校が半減し、その上、県立高校への実質的な進学率の低下(枠がせばまったということ)ゆえに、行き場のない者が定時制にたどり着いた結果である。
課題集中校の今
 いわゆる課題集中校では、きめ細かい指導が日常的に行われ、地域や地元中学との連携が模索されてきた。日本の後期中等教育を下支えしてきたといっても過言ではない。しかし、「学区撤廃」によって、今までの努力が水泡に帰す勢いだ。「行ける学校から、行きたい学校」たどというレベルではなく、「電車とバスを乗りついでどうにか行ける学校へ」という状況になってきた。その結果、高校に入っても、遠くから通う生徒ほど生徒指導上の問題をおこす傾向にある。教育委員会が課題としている「学校の序列化への懸念」「近隣の高校の入学を希望する生徒に対する影響」「地域とのつながりの希薄化への懸念」(「神奈川県立の高等学校に係わる通学区域改正方針について」)は、すでに現実のものとなっている。
格差拡大の時代
 高校再編で特徴的なのは課題集中校の「消去」である。まるでデリート・キーで消されていくようだ。しかし、いくら課題集中校をデリートしても、多様な生徒像は消せない。どうにか全日制に入れる者は、少なくなっていく「入れる学校探し」に奔走し、それもかなわなければ定時制や通信制に行くしかない〔最近はサポート校という選択もある)。この結果、定時制はその役割さえ崩壊するほどに荒れ、残された課題集中校に多大のしわ寄せがいく。
 しかし.このことは当然予測されたことであろう。問題は、これをどう見るかということだ。一部の生徒や学校にしわ寄せがいっても、「進学校」や「伝統校」を守り発展させるためにはやむをえないとするか、それともこの現状にしかるべき対応をするのかということである。
 高校で仕事をしている者ならだれでも気づくことがある。学校のレベルは階層問題にリンクしているという事実である。いわゆる学力が低い者ほど、家庭的な問題をかかえ、階層も低い傾向にあるということだ。一連の「改革」は、この格差を「再生産」する役割を担っていないか。実はこれは日本のあり方にも関わる重要な問題なのだが、語られることはあまりない。
 シンポジウムでは、「入試制度」を中心に一連の「改革」について、また、そのバックグラウンドである新自由主義の問題も含めて、会場の皆さんと一緒に考えていければと思っている。(てしまじゅん)


神奈川の高校入試を考える
              宮下宗秋
 「全日制高校さらには定時制高校に行かなかった生徒に焦点を合わせて」、これが今回私に課せられた原稿のテーマである。しかしあえてここで私は「全日制高校さらには定時制高校に行けなかった生徒」と言い直したい。これが正直な気持ちである。現実に多くの中学校卒業生が様々な理由で高校進学を断念している。その原因は何なのであろう。今回は中学校現場の視点からテーマに沿って神奈川の入試制度の問題点を解き明かしていきたい。
 神奈川の公立高校人試制度は言うまでもなく、前後期選抜の導入・全日制と定時制の同日程入試・学区撤廃等により入試制度自体が大きく変容し、現場では生徒・教師に大きな混乱を与えている。今社会は長引く不況感が続く中、将来に明るい展望を抱けず、さらには新自由主義の名のもと強者によって弱者が切り捨てられることをやむを得ないと考える世の中になっている。特に経済状態も一部を除いては苦しさが増しているというのが実感ではないだろうか。このような状況は進学を希望する生徒にも大きな影を落としていると言わざるを得ない。このことは県の策定した2005年度全日制高校への計画進学率が93.5%ともともと低いのにかかわらず.実績進学率では90.0%しか達していないことからも明らかである。これはいわゆる私立の空枠の存在である。上記の数値の差である3.5%は本来私立への進学予定者数であるが現実には進学しない。しかしこれは私立高校へ行かないのではなく行けないのである。その原因のほとんどは経済的理由である。今中学校では秋の教育相淡が行われているところが多い。もちろん3年生の相談内容のメインは進路についてである。地域差はあるが全日制高校へ進学を希望する生徒の80%以上が公立希望だ。しかし現実には公立と私立の定員はこの割合にはなっていない。そして先の3.5%の生徒はどこに行ったのであろうか。そうその生徒たちの多くは最終的に定時制高校を目指すのである。だがその目指す定時制さえも狭き門という厳しい現実が待ちかまえている。定時制は全日制の受け皿であるという考え方がある中、その考えに賛同することはできないが、ある意味定時制の存在は高校進学を希望する生徒にとっては最後の砦なのである。しかしこのような状況において、県は定時制高校のクラスの人数を40人とするなどその場しのぎの定員増によって大規模化し、小規模で暖かみのあるそしてすべての生徒に教育の機会均等を保障するという熱いまなざしをもつ定時制の長所を失わせようとしている。
 今私は提案したい。私立高校進学者への助成制度の充実を含めた全日制高校への計画進学率の大幅アップそして定時制高校が本来の存在意義を生かせるための制度保障を。なぜなら高校へ行きたい生徒すべてが高校へ行くことができる社会を私たちは求めているのだから。
 最後に私たち中学校教員はどうしても目の前の問題解決に目を奪われ、将来的な展望を抱かぬまま日々過ごしてしまいがちである。高校入試についてもしかりである。しかし、今中学校現場からも高校入試制度のあり方について論議を深め、そして社会にむけて大きく発信していくことが必要なのではないだろうか。(みやしたむねあき)

最後の学校
       島根三枝子

 現在のサポ一ト校は特区を利用し自ら通信高校を立ち上げるケース
が多くなりました。したがって、授業形態が工夫されています。以前のようにスクーリング、レポート、試験という他校との連携をとらない学校が多くなりました。
人学は4月に人ってもできますし、いつでも転校は可能になりました。ですから入学時より生徒数は増え続けます。そのために子どもたちはそれなりに、問題を抱えてきます。
 まずはじめからサホート校を希望して人ってくる生徒は、長期にわたる不登校、能力的事情、精神的事情があります。それと『もう中学のような繰り返しはいや、もっと自由に楽しく学校生活を送りたい』と積極的に選択してくる人も増えてきた。学力的に受験できない、勉強は嫌いという人も増えています。彼らはそれでも高校へ
は通いたい、とりあえず昼間の学校へ行きたいと希望します。
 過年度生もいます。『一度入学したけどつまらなくて止めた。仕事についたもののやはり高校の卒業資格は必要だと感じた』と入学を希望してきます。人によっては学力的にも無理と決めつけ何処へも入学しなかった。今からでも入れる学校があると聞きつけて、尋ねてくる場合もあります。そんなときは友だちも一緒にというケースがよくあります。
 そうした現状ですから、精神的に多くの問題を抱えています。残念ながら、最近目立つのは教師の言動による精神的な傷です。
一度、目をつけられるとそれがずっと続いてしまい、何かがあるとすぐその生徒が疑われる。ひどいケースでは、授業中先生がある生徒の番になったとき無視して飛ばしてしまう。そんなことがあれば私どもの学校へきたときには教師を恨み、われわれは生徒との関係の距離をちぢめることが困難になります。
 つぎに目立つのは友だち関係です。友だちになるにはケンカをしたり、仲直りして親友になっていくのですが、一度トラブルが起こると修正がきかなくなり、裏切られたと転校することになります。
 私どもの学校では非行経験のあることを承知で受け入れています。したがって生徒にとってはある意味で最後の学校になるのかもしれません。
 子どもたちが問題を抱えているということは、正直に生きていることだと思います。そこが私たちの救われるところかもしれません。(しまねみえこ)