教育研究所・教育討論会2009
再編の10年 その到達点を探る 

「再編の10年」を振り返るに当たって −県立高校改革推進計画を検証する−

 1999年に発表され、2000年から始まった「県立高校改革推進計画」(以下「推進計画」)は、次のような特徴を持っている。
  • そもそものきっかけは生徒数減少に対応した「高校削減」計画であったこと。
  • 「個に応じた教育」「開かれた学校づくり」など教育理念を掲げた教育改革であったこと。
  • したがっていわゆる「再編対象校」にとどまらず県立高校全般に影響が及んだこと。
  • 学校組織の改革など教員の職務、職階にまで及んだこと。
 また、掲げられた理念は、文部科学省が1980年代から始めた「ゆとり教育」と同じものであった。
 教育討論会では、次の柱を立てて、検討したいと考える。

日時 11月14日(土)14:00〜17:00
場所 かながわ労働プラザ 多目的ホールA

 ■ シンポジスト
   乾 彰夫(首都大学東京 教授)
山根俊彦(県立高等学校教員)
   久世公孝(県立高等学校教員)
■ コーディネーター ■
井上 恭宏(県立高等学校教員)



◆ 問い合わせ ◆
高校教育会館 教育研究所
п@045(231)2546
Eメール GAE02106@nifty.ne.jp
◆主催 (財)高校教育会館 教育研究所 ◆
◆共催 神奈川県教育文化研究所 ◆
かながわ労働プラザまでの地図
 

討論の柱@ 理念は実現したか

「推進計画」に盛られた理念は、それ自体が一つひとつ検討されなければならないものであるが、ここでは理念がどう実現したか、現実に即して検証したい。 

  • 高等学校が点数によって輪切りされ、格差がついていることに対して、点数だけでははかれない生徒の多様な力を育てていくために、特色ある学校を、多様な選択肢として用意した、ということについて。
  • カリキュラムの運用方法として単位制が重視され、「単位制高校」に限らず、「総合学科」などが 単位制によって運用され、選択制カリキュラムを支えることとなったことについて。
  • 総合学科を中心に「キャリア教育」が重視され、他の高等学校のモデルとされたことについて。
  • 体験的、課題解決型のカリキュラムが提唱され、教科横断的な系、系列などが試みられたことや、「個に応じる」ことを目標に全定同一の理念(フレキシブル スクール)や、ガイダンス(個別指 導)などの試みが行われたことについて。

※「全定同一の理念」:全日制と定時制は、卒業資格や教育内容が同一のものであるという考え方

「高校教育改革推進計画」よりその一
「高校教育改革推進計画」第3章「多様な教育の提供」

これからの社会では、主体的に学ぶ力や社会の変化に柔軟に対応していくことができる力が求められます。
 県立高校は、一人ひとりの個性を十分に生かせるよう、多様で柔軟な高校教育を展開していくことをめざしていきます。
 これまで、新しいタイプの高校として、単位制の神奈川総合高校、大師高校の総合学科が設置され、個性を伸ばす教育の充実、将来の職業選択を視野に入れた主体的な学習の深化などの成果をあげています。
 今後、多様な教育の提供を支える単位制のシステムを基盤として、新しいタイプである総合学科など単位制による高校の拡充を含めた特色ある高校づくりを一層推進し、個が生きる高校教育を豊かにしていきます。


討論の柱A 県民の高校進学希望は保障されたか

 「百校計画」はたびたび「理念なき教育計画」という批判を受けたが、90%以上の高校進学率を保障する、ということを理念としていたとも言える。その点では、希望者の高校進学を否定的にとらえていた1960年代の教育行政とは異なっており、当時の教育長は、希望者には高校の門戸を開きたいと表明していた。
「推進計画」は、計画策定当時に92.5%だった全日制進学率を「94%までにする。」と言明し、「後期実施計画」でも同様のことが書かれていた。
 しかし、高等学校への進学率が上昇している中で、全日制への進学率は下がり続け、現在は90%を切っている。中学生の進路希望は実現されているのだろうか。

「高校教育改革推進計画」よりその二
「高校教育改革推進計画」第6章「県立高校の規模及び配置の適正化の推進」の「2.全日制課程の再編整備の基本的な考え方」

学校数適正化の基礎条件
 今後の生徒数の動向を踏まえるとともに、次のような基礎条件に基づいて計画を策定し、再編整備を推進します。
〈計画進学率〉
 計画進学率 は、現在、93.5%としていますが、全日制の高校への進学希望等を考慮し、今後段階的に引き上げていきます。(平成12年度は、94%にします。)
〈私立高校受入枠〉
 県内私立高校の生徒受入枠については、今後も公立高校と私立高校との協議によって、生徒数の減少や進学実績に応じた調整を図っていきます。
〈適正な学校規模〉
 多様な教育活動や円滑な学校運営が展開できる規模を適正な学校規模と考え、学級数の観点だけでなく、学校全体の生徒数を確保する観点から、学校全体で18学級から24学級(1学年6〜8学級)生徒数では720人から960人を標準とします。(算定基礎は1学級40人)

10年間の高校進学率等 (教育委員会HPの 神奈川県教育委員会実施調査より作成)

過去10年間の高校進学率


討論の柱B 学校組織の改革は「推進計画」を支えたか

 学校組織の中で象徴的な意味を持つのは職員会議の変化である。かっては職員会議で原案が議論され、職員の賛否がとられ、多くの場合、多数の賛成が得られないと学校の意思にはならなかった。現在では職員の賛否をとる学校もまれになり、校長の意向がそのまま、学校の意思になることが多くなった。また、企画会議の設置、総括教諭制度の導入、教員評価と給与への反映等、この10年で大きな変化があった。そのことは「推進計画」にどうのような影響を与えているのだろうか。

「高校教育改革推進計画」よりその二
「高校教育改革推進計画」第7章「改革推進のための条件整備等」の「2.学校運営等の改善・充実」

学校運営組織の改善
〈校長のリーダーシップの確立〉
 校長が学校の責任者としてリーダーシップを発揮するとともに、教職員の協力体制を確立し、改革に主体的に取り組むことができるよう、学校運営組織のあり方を改善します。
 校長の積極的な学校運営を支える校内組織を整備するため、職員会議の位置づけの明確化など、管理運営規則の改正を含めた改善に取り組みます。また、学校予算や人事配置等の面においても、校長の権限や意向が明確化される方策を検討します
 あわせて、校長・教頭の任用や人事のあり方についても、今後、検討を行います。
〈学校教育活動の円滑化〉
 学校の教育活動が円滑かつ効果的に実施できるよう、各学校ごとの実態に応じた校務分掌の見直しや複数担任制の導入などについて検討します。