特集 : 高校再編と新学習指導要領
 
3.「学校づくり」を考える。

 これから進められようとしている「学校づくり」は、たとえば大師高校が、普通科から総合学科に変わったときのような、単独校の「学校づくり」とは、根本的にことなっている。それでは、どんな「学校づくり」になるのか。
 かつて、百校計画が進展している時期、新設校の開設にあたっては準備室がつくられ、新設校要員として少数の職員が配置された。そして、新入生つまり第一期生を迎えるときには、カリキュラムも、教務上の規定も、生徒指導上の規則も、細部は別としても概要はすでにできあがっていた。そして、転勤、新採用の教職員が補充されていく、というかたちになっていた。何もないところからつくる新設校の場合は、こうしたかたちをとらざるを得なかったかもしれない。
 今回の「改革計画」のもとでの「学校づくり」は、百校計画のときの新設校とも、大きく違った条件をもっている。それは、「統合」「再編」の対象となる学校が現に存在し、そこには経験を積んだ教職員集団が存在しているということである。この教職員の知恵を集め、過去の経験を踏まえて学校がつくられていくならば、生徒の現実に対応できる新しい学校をつくる道が開けてくるだろう。だが、残念ながら、「改革計画」の作成者は、この道を進もうとはしていないようである。
 発表された「改革計画」の中には、「新しいタイプの高校等の設置」計画が、次のようなかたちで示されていた。

新しいタイプの高校等の種類 前期計画 後期計画
普通科高校 単位制による普通科高校 4校 4校程度
フレキシブルスクール 3校  
専門コース設置校 3校 3校程度
総合学科高校 6校 8校程度
専門高校 総合技術分野の高校 2校  
総合産業分野の高校 1校  
国際分野の高校 1校程度
福祉に関する学科 1校  
その他学科 3校程度
中高一貫教育校   2校程度


 一見したところでは、なかなか立派な計画である。もし、各高校現場の工夫と努力の積み重ねの結果、この計画にたどり着いたのであれば、それなりに生徒の実態にあった現実的な計画になる可能性もあるかもしれない。だが、この計画に、現場の声はまったく反映されさていない。県全体にこれぐらいの数があれば、という「適正配置」を根拠にして、タイプ別に学校数を並べてできた机上のプランにすぎない。だが、その「適正配置」の根拠はない。そもそも、このような学校のタイプに応じて、子どもたちが分化しているわけでもない。また、どんなに多彩なタイプの学校を並べようとも、子どもたちが選択し、入学できる学校は、たったひとつである。そして、いま「選択」という言葉をつかったが、定員制を基本とするいまの学校システムのもとでは、どんな選抜方法をとろうとも、子どもたちは「入学できる」学校を「選択」することしかできないのである。結局のところ、この「設置計画」は各学校のタイプに合わせて、子どもたちが類型化される結果に終わってしまうだろう。
 さらに、ご丁寧にも「改革計画」には、「再編による新しいタイプの高校等の概要」という、各学校ごとに書かれた文書が付け加えられていた。「再編」されるある学校の「概要」を、校名等を伏せて参考までにあげておく。

 学区名   再編対象校名   再編後の形態(総合学科高校)

1.新校の概要(予定)
 (1) 設置場所  移転先校名と住所
 (2) 設置年度  新校開校予定年度
 (3) 課程・学科  単位制による全日制の課程 総合学科
 (4) 学校規模  720名 18学級(1学年6学級規模)
 (5) 通学区域  県内全域
 (6) 再編スケジュール  学級減の開始年度、新校開校年度

2.設置の趣旨
 (1) 改編のねらい(「統合」対象校の特色等を並べる)
 (2) 想定される生徒像(後述参照)

3.教育課程の展開
 (1) 基本方針
 ○高校在籍3年以上、必履修科目を履修し、74単位以上を修得することで卒業
 ○必履修科目・原則履修科目・総合選択科目・自由選択科目で構成
 ・必履修科目  新学習指導要領に示されている必履修科目
 ・原則履修科目  産業社会と人間 課題研究(総合的学習の時間)
 ・総合選択科目  環境科学系列  情報ビジネス系列   社会福祉系列
             国際文化系列   造形文化系列
 ・自由選択科目 生徒の特性に応じた科目、教養的科目・発展的科目など
 ○教育課程の弾力化の推進
 ・2学期制による学期ごとの分割履修と修得単位の認定
 ・集中講義、体験活動による単位認定等を実施など
 (2) 進路指導・生活指導
 ○ガイダンス、カウンセリングの充実
 ○異年齢集団によるホームルーム活動など特別活動の工夫
 ○チューター制による生活指導など個別指導の充実

4.主な施設設備(予定) <改修により対応予定※>
 ホームベース(ロッカースペース)
 ガイダンスルーム、カウンセリングルーム
 共用学習室、選択科目学習室…記念コーナー
 ※今回6校が建て替え予定になっている。 6校以外は改修で対応することになる。

 この「概要」は、再編対象となる各学校ごとにつくられている。しかし、項目ごとの内容は、ほとんどパターン化されており、同じタイプの学校であれば、言葉すら同じになっている。たとえば、「想定される生徒像」という項目があるが、総合学科であれば、「幅広い普通科目や専門科目から主体的に科目を選択し、自己の特性や適性を見いだす学習や将来の進路を展望した学習をしたいと考える生徒」という表現に統一されている。また、4校ある単位制普通科の場合は、2校が「複数の分野を総合的に学びたい生徒や主体的な選択により、進路希望や適性に応じた科目を重点的に学びたい生徒」、他の2校は「(郷土、環境、芸術など具体的分野名をあげた上で)などの分野を重点的に学びたい生徒や主体的選択により、適性や進路希望に応じた科目を学びたい生徒」という二つのパターンになっている。実は、前の2校はそれぞれの学区のトップ校と見られている学校であり、後の2校はむしろ反対の位置に見られているような学校である。いわゆる「学校間格差」を念頭において、微妙に表現を分けたのだろうか。
 また、この「概要」は「系列」「選択科目」にまで言及している。その内容は、パターン化されている一方で、学校ごとに微妙に「特色」を持たせるかたちにもなっている。たとえば、総合学科を予定している学校を比較すると、ある学校の「系列」は、「環境科学・情報ビジネス・社会福祉・造形文化・国際文化」とされ、別の学校の「系列」は、「自然環境・社会科学・情報科学・生涯スポーツ・生活福祉・国際文化」とされている。いったい何を根拠に、こうした「系列」をつくったのだろう。
 この「概要」を該当校の教職員が知ったのは、具体的な学校名が発表されてからであった。こんな「概要」がつくられていることさえ、現場は知らなかった。教育課程の中身、生徒指導・進路指導の方針にまで踏み込みながら、現場の声を聞くこともなく、外にいて得られる情報だけで、パターン化された言葉を並べたてて、この「概要」はつくられた。そして、「改革計画」の中には、わざわざ「学校運営等の改善」という項が設けられ、校長のリーダーシップが強調されていた(「改革計画」P.48)。とすると、この計画の作成者は、こう考えているのだろうか。どんな学校をつくるかは、あらかじめ決め、各学校ごとに「概要」を作っておく。そして、校長は、リーダーシップを発揮し、その「概要」から逸脱することなく「学校づくり」を実行する。だが、こんな道をたどってできる学校の行き着く先はどこだろう。現実からかけ離れた学校、計画作成者の夢の残骸、残るのはこれだけではないだろうか。
 

4.何が必要か?

 現場の声を聞くこともなくつくられた「改革計画」の行方は、悲観的にしか見ることはできない。とはいえ、すでに「改革計画」は公表され、もはや後戻りのできないところまで来てしまった。そして、学校にはつねに生徒がいる。毎年、希望をもって生徒が入学してくる。「改革計画」そのものの批判とともに、その行方を多少ともまともなものにしていく道も考えなければならない。そのために必要と考えられる条件を、いまの時点で考えられる範囲であげておきたい。

(1)情報の公開と教職員の意志一致の優先
 新しい学校の開設へ向けた準備室(あるいは準備委員会)がつくられるとしても、密室化してはならない。「統合」対象となる学校の教職員が、開設について考え、発言するためには、まず情報が開かれていなければならない。そして、たとえ具体的作業の上では開設の準備室なり、開設の委員会なりが、一定の役割を担うとしても、最終的な決定は「統合」される二つの学校の教職員全体の意志一致を待つべきである。

(2)「統合」対象校への支援
 くりかえしになるが、「統合」対象校に対して、「緊密な連携を図ることとする」と現場の工夫と努力を求めるだけではなく、適切な財政的、人的支援を、行政は保障しなければならない。移行期に在籍する生徒たちに対する教育保障という観点からも、この支援を欠くことが許されないことはもちろんである。また、「統合」される学校の教職員が、日常の業務に対応しながら、「学校づくり」に参加できることを保障するためにも、十分な支援が必要である。

(3)「計画」を押しつけない。
 行政は「新しいタイプの高校」の全県的配置計画を立ている。しかし、「新しいタイプの高校」が、現実に根をおろした「学校づくり」の中でつくられていくならば、予定していたとおりの「タイプ」にならないこともあり得るはずである。「学校づくり」が、数合わせとして行われることがあってはならない。計画は弾力的に運用されるべきである。
 また、教育課程の方針等は、再編される各学校の「概要」にすでに書き込んである。しかし、個々の学校の教育課程の編成は、それぞれの学校現場の責任において編成するものである。各学校の教育課程は、これまでの積み重ねを基盤にしながら、これから現場で考え、編成していくものである。進路指導、生活指導等の方針も、同様である。

(4)「統合」のペアとなる学校の間の総合選抜
 学校そのものの「統合」に先立って、入選の段階で事実上の「統合」を先行させていくことを提案したい。具体的には、先の図の第U期の新入生を迎える段階で、2校で総合選抜をおこなう。2校間の総合選抜は、すでに弥栄東西校でおこなっているものであり、制度的にも無理はないはずである。同じ基準で選抜をおこない、生徒の通学の便等を考慮しながら、2校間で振り分ける。この方式をとるためには、新入生のカリキュラムを、「統合」しておくこと、入選の「総合的選考」の基準を「統合」しておくことなど、多くの調整課題がある。また、基本的には先にあげたような移行期の問題は存在しつづける。しかし、入選段階において事実上の「統合」を実現することにより、両校間の課題を調整する基盤をつくることができ、「統合」へと向かう作業は、よりスムースに進むだろう。

(5)「再編によりつくられた学校」の学区への位置づけ
 「改革計画」には、これからできる学校の学区まで、すでに書き込まれている。たとえば、単位制、総合学科などは、「県内全域」とされている。しかし、これから新しくつくられる学校は、原則としてこれまでと同じ学区に位置づけられるべきである。現在ある学校の「学校づくり」の中から生まれる学校は、その地域の中に位置づいたものになるはずである。たとえ、総合学科という名であろうが、単位制という名であろうが、学区の中に位置づいた、地域の学校として出発すべきである。「他学区からも通えるように」というのは、もしその要望があるとしても、学区に位置づけた後で考えることである。
 

5.「改革計画」の行方

 今回の「改革計画」は十年間という長期的視野に立ち、さらに前期、後期と2段階に分けた周到な計画のように見える。そして、県全体にわたり「新しいタイプの高校」の予定数まで決めている(前記の「設置計画」を参照)。一見したところは「立派な計画」である。だが、その計画が、現場から遠く離れたところで作られているかぎり、子どもたちの現実に根ざしたものになるとはとうてい思えない。
 とくに、今回の「統合」の対象になった学校の中には、いわゆる「課題集中校」が数多く並んでいる。これらの学校は、これまでも困難な条件のもとで、様々な工夫と努力を積み重ねてきた(「課題集中校」の取り組みについては、「学校づくり最前線(課題集中校プロジェクトチーム)」を参照)。「改革計画」の作成者は、「課題集中校」が「新しいタイプの高校」になったから、「課題」は解決された。こんなことを言うつもりなのだろうか。だが、呪文を唱えるように、校名を変え、学科名を変えただけで、「課題」がなくなるわけではない。むしろ、「統合」される学校の過去の積み重ねから切り離され、机上の作文から生まれた学校では、「課題」は解消どころか、より深刻になるだけだろう。また、新しい学校が「課題集中校から抜け出した(8月15日付けの朝日新聞が、大師高校についてつかった表現)」としても、それは別のところに「課題集中校」を再生産する結果になるにすぎない。
 忘れてならないことは、子どもたちは、「立派な計画」によりつくられた、全県的に展開された学校体系の中で学ぶのではなく、個々の学校の中で学ぶのだ、という当たり前の事実である。大切なことは、個々の学校の「学校づくり」が、子どもたちの現実に根ざしたものになるかどうかであり、「立派な計画」を机上でつくることでも、ましてそれを現場に押しつけることでもない。そして、子どもたちの現実に向き合った学校をつくるためには、まず現場の教職員が中心になる「学校づくり」が可能にならなければならない。
 この話に入る最初のところで、新聞紙上でつかわれた「削減校」という言葉を取り上げた。話を終えるにあたってそこに戻りたい。もし、この「改革計画」が、「統合」される学校のこれまでの積み重ねを生かすものになるのでなければ、計画はたんなる「県立高校削減計画」、「県立高校リストラ計画」に終わってしまうだろう。そうなったとき、新聞がつかった「削減校」という言葉は、誤解ではなく、計画の本質を言い当てた、的確な言葉だったことになる。この計画がどんな結果になるか、それを決定づけるのは、行政のこれからの対応である。これまで現場の声を聞こうともしなかった行政が、これからどれだけ現場の声に耳を傾けるか、どれだけ現場の要求に応えるか、行政の姿勢によってこの「改革計画」の行方は決まってくる。ボールは行政の手の中にある。

(ほんま しょうご:県立田奈高校教諭、教育研究所所員)

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