特集 : シンポジウム「減るの?変わるの?どうなるの?」
 

シンポジウム参加者の声    

(まとめ) 粒来 香

 

 シンポジウム会場では、アンケート用紙を配り、参加者の意見や感想を求めた。今回のシンポジウムでのアンケート協力者は41名である。この協力者の回答から、シンポジウムを通じ、改編計画に関してどのような問題点が浮き彫りにされたのかを、みていこう。
 回答者41名の所属を見ると、高校教員14名、中学教員1名、一般10名、高校生2名、無記名14名となっている。
 

1 共有されていない情報

1―1 全体的な感想

 まず、シンポジウムに対する全体的な感想を尋ねた。以下の表はその結果である。

  参考にな
った
物足りな
かった
少し疑問
が残った
その他
高校教員 10名 3名 1名 0名
一般 7名 0名 2名 1名
全体 30名 5名 4名 1名

 全体の7割以上が「参考になった」としている。1名の中学教員は「参考になった」とし、高校生2名は、1名が「参考になった」、1名が「少し疑問が残った」と回答している。

1―2シンポジスト報告に対する感想

 シンポジストの報告に対する感想は自由記述で回答してもらった。全体的な感想で「参考になった」としている回答者について、その自由記述を見てみよう。

  • 該当校が問題を抽象論でなく、具体的に考えなければいけなくなった時、どのようなことが問題になるかが出てきて、それを聞くことができて、将来、他の学校でも起こるかもしれないことが、少しずつ分かってきた。<所属無記入>

  • 学区内のトップ校が前期計画の最後に単位制になるだけの(もちろん、このことも問題点は大きいのですが)学区には、今日のような話題はほとんどきこえてきません。(とり残されているような気分になります。)対象校の直面している問題を知ることができて、一定の情報が得られたのはよかったと思います。<高校教員>

  • 上だけで決めたことを知って、良くないと思った。先生(現場の)、生徒、親の意見をちゃんと聞いて欲しい。<高校生>

  • よくわかって、よかった。<中学教員>

  • 矢張り計画が一方的に示されてきたために、そして教育の本質を通しての説明、実施にともなう影響が説明されていないために、大変な混乱が生まれていることがよく解るとともに、教師同士でも十分な話し合いが持たれていない現実に、問題の難しさを痛感した。<一般>

  • 問題になっているのは何か、もっと具体的にあげてほしかった。<高校教員>

  • 現実に該当者となっている方の話は参考になった。<高校教員>

  • どこの学校も、先が良く見えない中で苦しい対応をしている様子がよくわかった。いろいろな声が聞けて、今後の対応の参考になった。<高校教員>

  • 報告よりも、その後の意見が参考になりました。やはり、当局の考えを十分に聞きたかったと思いました。<高校教員>

  • 現場の教員以外の人達の声が聞けたのが良かった。これからは「学校評議会」のような、地域との連帯を具体化すべき時だと考える。<高校教員>

  • 該当校だけの問題ではないということがよくわかった。<所属無記入>

  • これから、対象校の職員が何をすべきなのか、見えてこない。<高校教員>

  • 計画立ち上げの檀家知恵で県教委の一人相撲だったことがわかった。現場の惑いの大きさが伝わってきた。計画がすべり出しで初めて見えてきたことが双方にあるはずで、この点に関しては、声を大にして現場からの要望として積極的に出していって欲しい。<一般>

  • 個々人の意見としてはわかるのですが、それを運動として、どのように展開しようとしているのか、とりわけ高等学校教職員組合の取り組みにどのように反映されているのか。<一般>

 全体的な感想として「物足りなかった」「少し疑問が残った」とした回答者では、シンポジスト報告に対する感想が記述されていない場合があるが、記述があるものについては、それほど大きな違いはない。

  • 問題点の大きさが十分にわかっていないのではないか。神奈川の高校教育全体に及ぼす悪い影響を考えていくべきである。<高校教員>

  • 現場の取り組みの実状、このシンポには相手校からも1名出してほしかった。青写真全体が細部に至まで県教委の役人等によって作られている点をどう打破するかが、未知。高校教育課は、具体的な青写真をどのように作るのかも明らかにしてほしい。<一般>

  • 様々な論点が提起され、それはそれとしてよかったが、逆に観点が絞れなかったように思います。<高校教員>

  • 情報が断片的でよく分かりませんでした。教育研究所の方で、一定の期間ごと(1月、2月、3月毎)に、各対象校で議論された内容を、動きが分かるよう、レポートを作って報告していただけたらと思います。これにより、多くの方々が問題点を認識し、議論が同じ土俵でできるのではないでしょうか。<所属無記入>

 こうした意見からも明らかなように、県立高校の改編計画に関する情報は、生徒や保護者だけでなく、高校の教員の内部でも、十分に共有されていない。このこと自体が、今回の改変計画における問題の一端を示しているといえよう。
 

2 改編計画に対する意見

2―1 県教委に対する意見

 県教委による改編計画に対して「何かがおかしい」という違和感を示した意見である。また計画の決定過程を問題だとする意見もある。シンポジウムに来て初めて改編計画について詳しく知ったという事情もあるのだろうか、こうした意見は一般の参加者に多く見られた。高校生も同様である。

  • 神奈川の場合は、文部省→県教委→現場へとストレートで下りてきたのではなく、少しは現場側(組合?)にも話を入れながらであったと思うが、やはり県教委は国側の方針に逆らって独自の学校づくりはできなかったのだろうな、というのが実感。<所属無記入>

  • この「改編計画」が現場の教師や、生徒・保護者にまったく相談や意見を求めず、決定・発表されたものであるということを知り、驚き・憤りを感じました。新聞で知ったときは、当然、下準備の期間に現場との相談があったと思い込んでいました。<一般>

  • 県は財政面で本当に大丈夫なのだろうか。もっと現場の声を強く、どんどん上げていくべきだと思う。<高校教員>

  • 県教委の基本計画が実際を考えていないひどいものであると思った。<一般>

  • 子どもたちのおかれている現実から出発した改編計画ではなく、県当局の財政面(問題)から出されたものではないか。また、それを受け止めるべき高校教育現場も、教職員の定数確保のために、しょうがないというあきらめがあるのではないか。それが該当校以外の教職員が関心を持とうとはしないということにつながっているのではないか。本来的には、再編計画に対しては、学級定数(40名)の改善という視点でとりくむべきではないか。そうでなければ、中学校の教職員等も含めた全県的な教育運動として展開することはできない。<所属無記入>

  • 「現場の声抜き」の改編計画に(いつものことながら)憤りを感じる。教師の不信・不満は生徒の中ではさらに大きく、動揺につながり、不登校に拍車を掛けはしないだろうか。これから高校進学を控えた2人の子供を持つ親として、大変、不満・不安です。<一般>

  • 何故に「統廃合」が必要なのか。今もって釈然としない。子どもの数が減ったとしても、1学級の生徒数が多いためにゆきとどいた教育ができないと言われている今、学級定員を減らせば、教職員数・施設は今以上に必要なのではないか。景気が不安定な今、公立高校の果たす役割は大きいと思う。<一般>

  • 改編計画そのものが対処療法的で、何ら本質的に教育の立場から十分に深められいない。このことは、現場の教師と生徒に深く関わってきてしまう。この点を改めて組織的に全教師に問題の本質と具体的問題を徹底して県教委交渉を深めてほしい。そして教師と地域・父母で創ってほしい。<一般>

  • やっぱり反対です。発言した先生も言っていたけれど、本当に、財政面が先に立っている気がする。県政の穴を教育で埋めようとしている気がする。<高校生>

  • 上の決断を押し付けて、先生・生徒に納得できる理由がない気がします。母校が存在するうちに、新しい学校のカリキュラムを導入して、みんなを納得させ、「ああこれなら母校がなくなってもしようがないか、まかせられるよ」と言わせられるようになってほしいです。<高校生>

  • 県教委は大綱のみを示し、拙速にならず、職場・保護者・生徒・地域の人々の声や要望や疑問等に、ていねいに答えながら、現場から新たな高校を構築してほしい。<一般>

  • 規模の問題と「あり方」の問題を整理して考える必要があると思います。計画の決定過程が不透明で、関係者の理解が得られていない点が、とにかく大問題だと考えます。<高校教員>

2−2 統廃合は必要だが・・・

 少子化や不況など、社会・経済的な条件から統廃合は認めざるをえないという意見である。ただし、統廃合を認めるにしても、改編計画そのものについては疑問を提示する声が多い。

  • この不況で、子どもの数が少なくなる中、ある程度の統廃合は仕方ないことでしょう。高校の存在価値が問われているのは、進学校でも課題集中校でも、突き詰めれば同じではないでしょうか。<高校教員>

  • 財政的に、また生徒減から、統廃合は仕方ないとして、何故、単位制であり、総合学科であり、フレキシブルスクールなのか。現在の形態の学校があってもよいのでは。また3つのタイプに限定したとしても、学校や地域で相談して選べないのはおかしい。<一般>

  • 改革は必要<所属無記入>

  • 当局の一方的決定は不可解であるが、いつかどこかでやらなきゃいかん問題であることは、よくわかった。<中学教員>

  • この統廃合計画は誰かがやらなければならないものであると思います。何か変化が必要な時代で、特にこの教育界では必要であると思います。それと、先生方はもっと夢と希望を持ってやるべきだ。前向きに考えろ!<高校教員>

  • 「統廃合」は一部やむを得ないと思うが、単位制や総合学科への再編は反対。単位制は普通の子どもたちの学力崩壊をすさまじい状況で発生させると予想している。<高校教員>

  • 「統廃合」の方針に疑問は残っているが、スタートするからには、現場サイドの声を集めて‘新しい学校’を探っていくしかないと思う。<所属無記入>

  • 新カリを考えるということが、全県・全高校で改革につなげられれば良いと思う。<所属無記入>

  • 新しい世界に踏み込んでいく、自力で新しいものを生み出す、そういった意味では面白いものなのかもしれません。他方、「再編整備」は、新しいタイプの学校を作ることによって、より学校化を進めるものなのだ、という本質的な意味での危惧というものも考えられます。<高校教員>
      

3 高校改革において重視する項目

 アンケートでは、一連の高校改革の流れの中でどのような項目を重視しているか、以下の12項目のうち3つまでを選択してもらった。

1. 生徒の多様な選択が保障されるような高校教育 18名
2. 専門性を重視した職業高校やコースなどが充実した高校教育 5名
3. 総合学科や単位制高校の増設 6名
4. 公立の中高一貫校の設置 2名
5. 生徒の自主性を尊重する高校教育 17名
6. 生徒のしつけやマナーなどをしっかり指導する高校教育 4名
7. 大学受験など進学に対応した高校教育 2名
8. 高校入試制度を廃止しすべての中学生に開かれた高校教育 14名
9. 施設や整備の充実 12名
10. 学級定員(現在40人)の減少 25名
11. 教職員の資質の向上 6名
12. 公立高校の統廃合 0名

 10.「学級定員の減少」を求める意見が最も多く、次いで 1.「生徒の多様な選択が保障されるような高校教育」、 5.「生徒の自主性を尊重する高校教育」、が多くなっている。さらに、 8.「高校入試制度を廃止して全ての中学生に開かれた高校教育」、 9.「施設や設備の拡充」が続く
 ぎゃくに 4.「公立の中高一貫校の設置」や 7.「大学受験など進学に対応した高校教育」、12.「公立高校の統廃合」を重視しているという意見は少なくなっている。
 

4 今後のシンポジウムに向けて

 研究所では毎年1回、シンポジウムを開催しているが、アンケートでは、このシンポジウムに対する意見も求めた。回答は大きく二つに分かれる、一つは、今回のテーマに関して議論を深めるために、より小さな単位で話し合う機会を求める意見である。もう一つは、今後の研究所の課題として提起された意見である。

  • 今回のような教職員の人たちが参加して、神奈川の教育問題を語り合える企画を、小さな単位で開催してほしい。<高校教員>

  • 本日の話し合いや現実の問題点の中から、1〜2に焦点をしぼって討議を深め、それが具体的に生かされていくように計画してほしい。<一般>

  • 支部単位で、この種のシンポジウムを開いてほしい。その際、中学の教員、教頭・校長にも参加の要請を。<一般>

  • 教職員以外の方の意見も参考になりました。また、該当校の先生方の生徒に対する思いに勇気づけられました。<所属無記入>

  • 県教委側のシンポジスト(責任ある立場の)も呼んでもらえるとありがたい。また、大学の教職員も交えてできればよいと思う。<所属無記入>

  • 今以上に様々な(教員だけでない)方の生の声が聞きたいです。<高校教員>

  • これまでに統合を経て新校が立ち上がった学校の報告と、総合学科の実践(特に開設科目について)を聞きたい。<高校教員>

  • 動員でもいいので、保護者(中高生の親)の方たちが、もっと参加できるといいと思います。教員だけだと、議論の世界の視野が狭くなる気がします。<一般>

  • 高校改革は否応なく進められていくことですから、常に関わりを持つ姿勢を、研究所はもっていくでしょう。できれば、その中で是非、理念と実践、双方についての提言をしていってほしい。研究所がもつ能力を、高校改革の中で発揮していってほしい。<高校教員> 

(つぶらい かおる 東京工業大学 教育研究所所員)

<<<ねざす目次
<<<25号目次>>>

次へ>>>