特集 : 問われる21世紀の高校像
 

数字で見る高校再編全国状況

三橋 正俊

 
 はじめに

 神奈川の高校再編計画が1999年8月に発表されて、1年以上が経過した。再編該当校での新校準備委員会の活動は、開校年度によって進捗状況のばらつきはあるものの、県教委は2000年10月を目途に「新校設置基本計画案」を策定し、発表する。ここには、新校の目玉となる系や系列、コース等の名称と科目名が入り、施設・設備概算要求を踏まえた内容が盛り込まれる。今後、移行期に向けた具体的検討が本格化されようとしている。
 前回の『ねざす』第25号(2000年4月刊)では、「大阪の高校再編整備計画」と題して、神奈川と大阪の再編計画を比較検討した。今回は全国の高校再編計画を概観しようと思う。文部省が毎年度作成してきた『高等学校の改革に関する推進状況』の冊子の今年度版(2000年4月刊)には、初めて「高等学校の再編計画等の検討について」という資料が掲載された。文部省が主として各都道府県及び政令指定都市の教育委員会に対して、高校再編の計画策定と検討状況をアンケート調査したものである。このデータをもとに、「表1 2000年度『特色ある高校』の設置及び再編計画の全国状況」を作成してみた。その数字を見ながら、高校再編の全国状況の一端を描いてみたい。
 なお、参考までに「表2 全国公立高校の学科数の増減」と「表3 全国公立高校の学科定員数の増減」を作成した。『ねざす』第20号(1997年10月刊)の「高校多様化政策と『特色ある高校』」において、やはり文部省調査結果をもとに、1995年度の全国の「特色ある高校」についてレポートしたので、その追跡調査の意味で1999年度に至ってどのように変化したのかを知るためである。
 

 全国の再編計画の検討状況

 「表1」の「高校再編計画等の検討状況」の欄を見ていただきたい。1999年度までに「策定済」となっている県(都道府県等として表記すべきところだが「県」と一括表記)は、神奈川を含め11県である。計画を策定した年度順に整理すると次のようになる。

   1995年度 山形   1996年度 鹿児島   1997年度 福島、東京
   1998年度 長野、鳥取   1999年度 神奈川、石川、大阪、島根、福岡

 次に、県の審議会の「報告・答申提出済」の県が16県となっている。1997年度にすでに報告・答申が提出された岩手県以外は、15県すべて1999年度中に報告・答申が出された県ないし予定の県である。そのうち2000年度までに県教委が計画を策定・発表するとしている県が、北海道、秋田、静岡、徳島の各県である。
 さらに、「審議会等で検討中」の県が14県あり、「今後検討予定」の県が6県あるが、1999年度中に報告・答申が出される県が、茨城、千葉、和歌山、岡山、沖縄の5県あり、2000年度中に報告・答申が提出される予定の県が、宮城、栃木、山梨、三重、香川、愛媛、高知、長崎の8県ある。これらの報告・答申に基づいて、各県教委は再編計画を策定していくとなると、早いところでは2000年度中に計画発表する県も出てきそうだ。
 2001年度以降に予定されているのは、群馬、愛知、奈良、宮崎のわずか4県である。「今後検討予定」でアンケート調査に検討項目が具体的にあげられていない滋賀、京都、佐賀の3県については、滋賀、佐賀では中高一貫教育などの検討は進められていて、京都は文部省の分類では「今後検討予定」に加えられているが、1992年の答申を踏まえてすでに計画が実施されていると受けとめることができる回答内容であった。
 このように見てくると、2000年度末を境にして、15県が再編計画を策定していて、京都を除いて6県が審議会等で検討中で、残りすべての26県が審議会等での審議を終了して県教委が発表まで至らなくても、再編計画の策定を行う予定となっている。21世紀へ向けて高校像に関する教育政策が出そろう状況にある。
 このように各都道府県が一斉に足並みをそろえて高校再編計画を発表する背景には、文部省の「特色ある高校」づくりや高校の多様化政策があるとしても、迫り来る少子化の波にどう対応するかという財政上の課題を抱えているからであろう。学級減だけでは乗り切れないとすると、高校の統廃合を考えざるを得ない。生徒減が進行していく普通高校や専門高校を、文部省の提唱している総合学科高校、単位制高校、総合選択制高校などの新しいタイプの高校へ、特色ある学科・普通科専門コースの設置された高校へと統廃合していく計画が目指されている。その中でも、中高一貫校(中等教育学校)については、多くの県で単独校方式や連携校方式など検討段階にあり、具体的な日程が設定されている県は少ないし、チャレンジスクール(東京)やフレキシブルスクール(神奈川)など目新しい高校を設置しようとしている県も少ないようである。しかし、まだ再編計画が完全に出そろったわけではない、どのような高校像が描かれるかは今後の計画の推移を見る必要がある。
 

 「特色ある高校」の設置状況

 「表1」に「特色ある高校」の設置状況を、文部省の調査結果をもとに独自に集計し直して、「2000年度までに設置」と「2001年度以降に設置へ向けて準備中」とに分けて整理してみた。すべて全日制の公立高校について調べたもので、定時制高校や普通科専門コースのデータは調査はされているが、割愛した。
 「2000年度までに設置」された総合学科高校は126校、単位制高校が39校となり、今後、総合学科高校は学区に1校程度設置するとしている県が多い。総合学科高校について、すでに2000年度まで5校以上設置している県は、宮城、三重、兵庫、広島の4県で、その中で広島が13校と圧倒的に多い。学区数(「表2」参照)との比較をすると、宮城が14学区に5校、三重が3学区に5校、兵庫が17学区に6校、そして広島が15学区に13校となっている。三重と広島は、単位制高校もそれぞれ5校設置していて、三重はさらに総合学科高校1校準備中という。この2県のように総合学科高校と単位制高校をトータル数で1学区1校を超えて設置している県は、他に石川、鳥取、島根の3県があげられる。石川は3学区のところに総合学科高校4校、単位制高校3校を設置していて、さらに総合学科高校を3校準備中であるという。鳥取は3学区のところに総合学科高校3校、単位制高校1校を設置していて、さらに単位制高校を2校準備中である。島根は2学区のところを総合学科高校3校設置していて、同じく総合学科高校を2校準備中である。
 総合学科高校と単位制高校に「新タイプ校」(総合選択制高校やコース制高校などの新しいタイプの高校)を加えて学校数が学区数を超える県は、上記以外に7県を数える。表にまとめてみると以下のようになる。
 

県名 学区数 総合学科高校 単位制高校 新タイプ校
栃木
群馬
埼玉
奈良
徳島
香川
佐賀

 しかし、これらの高校で2001年度以降にも新タイプ校を設置する県は香川の総合選択制高校1校にとどまる。他に新タイプ校を設置予定の県は、東京4校、鳥取3校、大阪2校などが目立つ程度である。
 次に、特色ある職業学科や専門学科をもつ高校をみてみよう。文部省の調査では学科ごとに別々に調査しているため、私の統計では、複数の特色ある学科をもつ同一校は1校として数えた。逆に、「理数科」「英語科」など同じ学科が複数校に設置されている場合は、学校数を数えている。特色ある学科をもつ学校数が合計で多い県から取り上げていくと、千葉49校、大阪48校、新潟31校、岐阜31校、熊本29校、北海道27校で、あと23校の埼玉、兵庫、福岡、沖縄の4県が並ぶ。しかし、これらの県で2001年度以降も新たな学科をもつ高校を設置する予定のところはない。既設の高校に新学科を設置したり、既設の学科を改編したりする計画の県は存在するが、職業学科・専門学科を統合して総合学科高校へ再編する傾向がうかがえる県がある。ただ、鳥取については、新タイプ校3校の設置とともに、特色ある職業学科を7校に、特色ある専門学科を4校に設置する計画である。 こうして見てくると、東京、神奈川の現在の再編計画の規模の大きさが浮かび上がってくる。「表1」に表れている東京の2001年度以降の準備中の校数は、計画全体を網羅したものではないので、計画数をまとめると次のようになる。1997年9月に都立高校改革推進計画の長期計画(1997〜2006)と第一次実施計画(1997〜1999)を発表、1999年10月に第二次実施計画(2000〜2002)を発表した。第三次計画(2003〜2006)は今後発表される予定だが、長期計画では総合学科高校を14学区のうち島しょ部を除く10学区に各学区1校程度設置するという。定時制のチャレンジスクールも総合学科で5校の設置を予定している。単位制高校は23校設置予定で、第二次計画までに11校設置して、残り12校は第三次計画で設置予定である。神奈川の2001年度以降の準備中の校数も、前期計画の数字(総合学科高校の8校の中には横須賀市立高校1校が含まれていて、単位制高校にはフレキシブルスクール3校が含まれている)であり、長期計画では総合学科高校が14校程度、単位制普通高校が8校程度、フレキシブルスクールが3校、新たな専門高校が4校程度生まれることになっている。学校数が学区数をはるかに上回ることになる。
 

 おわりに

 私の勤務する中沢高校は、都岡高校と統合されて、2004年度から新たに単位制高校として開校する。7月〜8月にかけて新校準備委員会では、新校(敷地・施設は都岡高校)の施設・設備の概算要求のまとめの作業に追われた。入学年次ごとの集会・発表会や芸術・表現系などの授業展開で多目的ホールが必須と考え、既存のトレーニングルーム等を改修して多目的ホールを設置しようと考えた。しかし、体育館に付属するトレーニングルーム等は国庫補助施設のため改修が不可能と判断された。都岡高校のような36学級規模の校舎の場合には、講堂等の新築はしないという方針もあって、手狭ではあるが現在の職員室を多目的ホールに改修するしかないことが分かった。
 そして9月には県教委が、「新校設置基本計画案」を作成して新校準備委員会で最終案が検討された。その経過の中から、中沢・都岡高校のように既設校舎の改修によってスタートする再編該当校から、期待したほどの施設の改修が認められなかったという落胆の声があがってきた。県財政が厳しい状況にある中で、なぜこれほど大規模な高校再編計画が神奈川で進められることになったのか、疑問視する声もあった。特に、普通高校が総合学科高校へ改編されるところでは、専門科目を含む教育課程を編成するために、かなり大幅な施設・設備の改修・増築が必要になるはずである。その予算が財政難という壁に直面している。
 しかし、神奈川の高校再編計画は、前期計画が発表されてから1年目を迎えたばかりである。2000年度から10年間にわたる長期計画というのは、かって1973年度から15年間をかけて達成した高校増設のための「百校計画」に匹敵する大規模プロジェクトになる。この「百校計画」も、計画当初からオイルショックに見舞われた前途多難の計画であった。そして「百校」のうち1校を除いてはすべて普通高校が建設され、1学年12学級規模のマンモス高校が次々誕生することになった。今回の計画は、全国一の普通科率(普通科の定員を普通科・専門学科・総合学科等の定員の合計で割ったもの、「表3」参照)を記録してきた神奈川が、公立中学校卒業予定者数が「百校計画」以前の水準へと戻る少子化社会を見越して、主として普通高校を新しいタイプの高校へと統合・改編させて、量から質への転換を図るという、いわば「百校計画」の補完計画ともいうべきものである。
 1999年度の全学科定員数(「表3」を参照)では、大阪、北海道に次いで神奈川は第3位、愛知に次いで東京は第5位というマンモス県である。そこでの大規模な高校再編計画は、三重や広島の経験をはるかに超える可能性をもっている。かっての「百校計画」は、県債、国庫補助を動員した県財政あげての計画達成であった。今回の高校再編計画も、財政当局の「百校計画」を上回る意気込みがなければ、達成が難しいと思われる。行政には新校の建設にあたって、現場の教員はもとより地域の生徒・保護者の要望を十分に汲んだ柔軟な計画の実施を望みたい。21世紀初頭の高校像を決定する重要な教育施策を、県民の創意を生かした形で実現したいものである。

≪表1≫

≪表2≫

≪表3≫

みつはし まさとし 県立中沢高校教諭 教育研究所員)

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