所員レポート
2002年度入学者選抜の諸問題
金 沢 信 之


 本稿は、神奈川県教育文化研究所の『教文研だより』(108 2002.6月)に掲載されたものを加筆・訂正したものである。なお、文中の入学者選抜制度・学区検討協議会は本年9月13日に本報告を公表した。

 はじめに

 現行の入試制度が大きな手直しをされようとしている。それは、子どもたち・保護者の立場に立ったものになるのか。また、学区外受検枠も大きく拡大されてきている。そして、今日までの行政主導のさまざまな選抜制度の改変に対して十分な検証がなされているとも思えない。そんな状況を憂いつつ、2002年度入試選抜の諸問題を不十分ではあるが思いつくままにまとめてみたい。

入学者選抜制度・学区検討協議会中間報告

 3月27日、県教委設置の入学者選抜制度・学区検討協議会は県内公立高校の入学者選抜制度を大幅に改める提言を盛り込んだ中間報告報告を発表した。それによると、協議会では、現行の複数志願制を廃止し、校長の推薦を必要とせず誰もが志願でき、学力検査を必要としない「自己推薦制」と1校志願の学力検査を伴う入試へと切り替える方向での検討がなされているらしい(1)。
 複数志願制は実質的な受検機会の複数化の機能を果たしていないことが見直しの理由としてあげられている。しかし、現状で多くの受検生が第一希望校と第二希望校を一致させているのは、彼らが受検機会の複数化を必要としていないことの証明ではなかろうか。ともかく希望は1校と理解するのが自然だ。現在、「自己推薦制」と1校志願の学力検査が複数志願の機能を果たすものとして考えられているようだが、それは受検生の期待に応えるものではない。中間まとめにもあるように、これは多段階の入学者選抜である。多段階選抜は志願者数に対して募集人員を段階ごとに割り振るため、各段階ごとの競争率を大きく押し上げることになる。意図的に過酷な競争をつくることが可能な仕組みなのである。競争の激化を期待する受検生はまずいないだろう。
 次年度入学者選抜で最後となる現行の複数志願制は、生徒・保護者、学校現場に多大な負担を強いるものである。このことについての総括をぜひ行ってもらいたい。複雑な仕組みは学校現場を混乱させ、子どもたちに心の傷を負わせた。
 合格発表当日、受検生たちは第一希望校で合否結果通知書を受け取る。それには、結果によって異なる3種類の記述がある。第一希望校合格、第二希望校合格、第一希望・第二希望校ともに不合格。一度の入学試験で二回不合格になったことを知る子ども。そして、合格通知書をもらいに第二希望校に向かう子ども。さらには、第一希望校合格と誤解し、合格通知書を受領する窓口で第二希望校へ行くよう友人の前で指示される子ども。必要以上に過酷な制度を解消する方向で、今秋に予定される最終報告がまとめられるよう願うばかりである。

 横浜総合高校をめぐる混乱

 横浜総合高校は県内初の昼夜間三部制・総合学科の定時制高校として本年度開校した。横浜市教育委員会は定時制を希望する生徒が中学卒業時点で進学先が決まっていない現状を改善するためとして、第1回募集を全日制と同じ日程で行った。
 2月18日、第1回三部合計141人の募集に対して737人が受検するという大激戦となった。さらに、課程が異なるので志願変更は同校の三部間でしか認められなかった。結果として、最後まで高い競争率は解消されなかったのである。三部の競争率の内訳は、志願変更B後、T部が7.87倍、U部が4.91倍、V部が3.03倍となっていた。結局、正規履修を午前に置くT部がもっとも倍率が高かった。3年間で卒業でき、定時制でありながらほとんど全日制と同じ時間帯の授業ということが受検生の心をつかんだのだろうか。詳しいところまでは分からない。
 結局、横浜総合高校の第一回選抜では約600名ほどが不合格となった。この問題は3月19日の参院文教科学委員会でも取り上げられ、遠山文科相が「それぞれの地方公共団体が必要な措置をとり、適切に対応してもらいたい」と答弁したことが報道された(2)。
 この異例な定時制大量不合格の事態に対して、横浜市教委は横浜総合・戸塚の両校に合格枠を可能な限り増やすよう要請した。県教委・川崎市教委も定時制23校で定員枠225人拡大の緊急措置を行った。だが、既に県立横浜翠嵐・希望ヶ丘の両校は定員オーバーの状況であった。
 横浜市教委の要請に対して横浜総合と戸塚の両校ではその対応に違いが出た。戸塚高校は受け入れ枠を増やすとしても志願変更をした生徒との公平性を確保するため二次募集の枠を広げることを選択し、横浜総合高校は3月19日(第2回選抜合格発表)の時点でT部に14名、U部に16名多い合格となり、V部は全員合格という二校で異なる対応となった。報道によると、横浜総合高校ではこの特例措置分の合格判定には教師がかかわらず校長の判断で合格が決定したとあり、現場の教職員を無視した対応があったことがうかがえる(3)。
 
 募集計画

 報道によると横浜市教委は一連の混乱の原因について、横浜市立定時制三校の募集停止の影響ではないとした(4)。例年通りの志願者総数であれば、県立・川崎を含めると受け皿は用意できていたと表明したのである。しかし、現実に600人からの不合格者が出たのであるから、原因の究明は次年度の募集計画策定までにはっきりさせねばならない。
 今回注目すべきなのは横浜総合高校がその第1回選抜を全日制と同日にしたことである。つまり、横浜総合高校が募集計画によって調整されていた全日制高校への進学希望を掘り起こしたという側面がありそうな気がする。さらに、不況の影響から公立高校への進学希望が増加しているという状況もあるのではないか。
 2002年度入試選抜受検者の2001年度10月20日現在の進路希望調査の結果によると全日制高校への進学希望は以下の状況であった(5)。
 ところが、募集計画は県内の私学に17321人の枠があり、県内公立は42301人となっていた。本年度の統計数値の詳細はまだ不明だが、2001年度入試選抜の実績によると私学枠17359人に対して進学者は15060人である(6)。県内私学枠は計画・実績双方に問題がある。県内私学希望者数と県内私学募集計画との格差の中に公立高校への進学希望が押し込まれているのではないだろうか。それが今回流れ出したとは考えられないだろうか。
 また、同希望調査によると、定時制への希望も2000年度が327人であったのに対して2001年度は605人となっていた(7)。希望の時点で例年とは異なる状況を予測できたのではないだろうか。
 再編該当校のクラス減も無視できない。競争倍率の高い上位6校中5校は川崎・横浜地区の再編該当校などであった。これも、混乱要因の一つかもしれない。あらかじめ高倍率を予想して定時制に希望が集中したとも考えらる(8)。

 推薦入試の拡大

 普通科への推薦入試導入は、2004年までには全校へ導入するという教育長の発言(2000年2月の県議会)以来拡大の一途をたどっている。そもそも神奈川における推薦入試の導入については不透明な部分がある。推薦入試導入に重要な役割を果たした高課研(神奈川県高等学校教育課題研究協議会の略称・第2次報告を1993年12月に出して審議終了)委員2名は教育委員会の改善案(中間報告)が実施の方向に変質したことへ抗議の申し入れを行った。(1994年6月24日、中野渡強志氏・飯田洋氏による申し入れ)両氏の申入書によると「全国的にも多くの問題をかかえている普通科高校への推薦制導入は、『特色ある学校・学科・専門コース等においても、推薦入学を実施できるようにすることが望ましい』としながらも、『普通科の一般コースへの推薦入学の導入については、今後の社会情勢の動向等を見極めながら、なお検討することが必要である』とし、今後の課題としたところです。」とある(9)。しかし、高課研報告を受けてまとめられた教育委員会の改善案に推薦入試は「普通科一般コースについては、学校の特色に応じて実施できるものとする」と記されたのであった。
 1980年代に宮崎県で「30%一律推薦制」が一方的に導入された。その当時から、推薦入試はその透明性・客観性の問題、中学校における人間関係への悪影響などが指摘され続けている。さらに神奈川では多段階選抜の第一段階としての機能を持ち、きわめて高い競争倍率を生じることになった。2002年度入学者選抜における推薦入試において、久里浜高校が8.70倍、鎌倉高校が8.48倍などである。中学生に対する受検プレッシャーは増大し続けている。
 現行の日程では推薦入試の発表の翌日から一般入試の願書受付となる。受検生の多くは同一高校を志願しているのではないだろうか。また、高校現場では推薦入試については志願受付・面接・合否判定・発表といった選抜日程がきわめて短いことが問題として指摘されている。

 おわりに

 高校再編の該当校はクラス減となった。その該当校の競争倍率はのきなみ高い。また、学区外受検枠の拡大による学区外受検者の増加も各高校が平均化しているわけではなく特定の高校が高い。受検競争は年々厳しさを増しているということか。生徒急減期になり、施設的には全入の態勢が整ったというのに、なんともやりきれない事態である。


(1)神奈川新聞(3月28日)
(2)神奈川新聞(3月20日)
(3)神奈川新聞(3月20日)、 記事は横浜総合高校の教師の話を紹介している。「試験とは、学校の裁量権とは何だろうと考えた。無力感を感じた。これからが大変」
(4)神奈川新聞(3月20日)、記事中、横浜市教委高橋三男・指導第二課長が、「例年通りの志願者総数だったら、県と川崎を含めれば(志願者全員の)受け皿を用意できていた」と表明、「志願者が増えたのは、定時制三校の募集停止の影響とは思えない」と語ったとある。
(5)神奈川の教育統計(教育庁管理部経理課調査統計班HP) 5.公立中学校卒業予定者の進路希望調査による。
(6)神奈川県教育委員会記者発表資料(2001年10月24日) 「平成14年私立高等学校・中学校・中等教育学校生徒募集及び生徒納付金概要」による。
(7)(5)に同じ
(8)神奈川新聞(9月14日)本報告には定時制と全日制を同じ入試選抜の日程にすることが盛り込まれたと報道された。全日制の受け皿にならないようにすることが目的と記事中にあるが、現状のように私学が募集枠を満たすことができないと、その分、定時制の志願者が増加する可能性がある。定時制が全日制の格差構造の中に組み込まれるかもしれない。
(9)『新神奈川方式へのシナリオ』中野渡強志 
 (1997年4月)神奈川県高等学校教育会館教育研究所

 
(かなざわ のぶゆき 教育研究所員)
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