寄稿

   総合学習で「普通科」を補完する
           
                            柴田  健

 今夏、「地理教育研究会」三瓶山大会における、筆者の表題での報告と、『新聞を素材にした「メディアリテラシー」―今年度中3の取り組み』(筑波大学附属駒場中高校・大野新さん)の報告をベースとして、本稿を構成した。

  [新羽高校では]
 新羽高校の「総合学習」は、県教委から求められている「特色」と連動させている。
 1年では「表現学習」を前面に出し、表現力をつける一環として「新聞学習」を創ろうとしている。
 2年はこの7月にようやく、「多文化共生」(社会科が主体となることを予定)と決定した。当初は「共生」であったが、テーマの絞り込みを必要とする校内事情で変更している。
 3年は「環境学習」(理科が主体となることを予定)をテーマとしている。
 今年度は、NIE(Newspaper in Education 教育に新聞を:日本新聞協会)の実践校に応募することをきっかけとして、1単位の「総合学習」(1年生を6クラス7展開し、それを2分割し17〜18人クラスで週1時間担当する)をおき、新聞を題材に情報リテラシーに取り組むことになった。
 「NIE」に選定されると、9月から神奈川で流通している一般紙7紙(朝日・毎日・読売・日経・産経・東京・神奈川)を一部ずつ6ヶ月送ってくれる。それを利用して、生徒に新聞を使った授業を展開し、後日報告するというものである。結果として、5月末に選定されている。
 選定前の一学期は、学校で朝日新聞と神奈川新聞の月曜日の朝刊20部を講読し(NIEのホームページ参照:新聞教育用価格、一部40円程度)、「総合学習」の時間に生徒に読ませる。注目記事を授業担当者が指摘し、一緒に読んだり、場合によっては感想を書かせる。ただし、週1時間では授業確保が難しく、筆者は1クラスにつき7コマしかなかった。二学期は上記7紙と朝日新聞の日曜日版を使っている。
 担当者は持ち時間調整のために、国語科3名・社会科1名・体育科1名・外国語科1名の6名体制で開講しているため、指導内容の調整が難しくなっている。NIE実践校にな
ったものの、次の手だてを作り出すことが難しい。 
 パソコンでの新聞づくりが獲得目標であるが、中国新聞の記者が開発した、「朝刊太郎」というフリーソフトが使いやすいという情報を得た。しかし「朝刊太郎」を使いこなして作成することは本校生徒・教員のパソコン能力では指導しきれないため、手書きのFAX新聞(B4版程度)などに収斂しそうである。
 筆者の発表に対しては、新聞の読ませ方として、他紙やほかのマスコミとの比較などの視点を入れることや、新聞づくりを具体的にやらせていくことで、事実をとらえることの難しさを体感することの重要性が指摘されている。


  [NIEとは] 
 新聞を講読していない家庭も増加している現在、新聞そのものにふれる授業は貴重な機会である。各新聞社がNIEに力を注ぐ理由はそこにある。かって、新聞購読は都市部に移動した労働者階層の知的ステイタスシンボルであり、高度成長とともに朝夕刊セットの全国紙購読が激増した。しかし岩波新書『新聞は生き残れるか』(中馬清福著)によると、90年代以降、若者だけでなく一般家庭も含めての新聞離れは深刻で、テレビやインターネットなどからの情報が主流となりつつある。これまで、新聞からは事実と真実を学べると考えられていたが、後者については疑義が出されている。「市民と新聞」の対立が生まれる状況が生じているからである。

  [筑波大附属駒場中では]
 大野報告は、本年度前期の中3の選択科目(15名)で、マスメディア分析・日本新聞博物館(横浜・関内)見学・朝日新聞社見学・朝日記者の講義・TBS「サンデーモーニング」への討論会録画出演・フリーソフト「朝刊太郎」利用の新聞づくりといった多彩な取り組みを行ったものである。
 授業は、全国紙(朝日・毎日・読売・産経)一面トップ記事・社説の比較、TVニュースとの比較から入り、新聞の特色をTVとの比較で考えさせている。
 5月3日の朝日・毎日・読売3紙の社説比較では、「改憲」に対しての社論の違いを考えさせている。また新聞の特色を速報性・一覧性・詳報性・解説性・記録性・保存性・資料性・双方向性とまとめている。
 「イラク侵略戦争」についての中学生の意見を求められた、TBSテレビ「サンデーモーニング」の取材は、1時間の録画が3分程度にまとめられており、放映映像では戦争への賛否が対等につなげられている。ここでも、生徒にテレビの取材準備の粗雑さと編集の思想性のなさを学ばせている。
 続いて、歴史の教員による「戦争と新聞」についての授業が行われた。「大本営発表の真相史」では、開戦当初半年位の報道は正確だが、架空の戦果と被害の辻褄合わせのためにしだいに国民を欺いていった。報道姿勢の転換(大阪朝日)は1931年の満州事変後であり、軍縮の社論を軍部支持にシフトさせている。 
 「戦後の新聞のあり方をめぐって」では、戦争責任の自覚と追求、新聞倫理綱領、新聞の積極的役割(ベトナム報道、リクルート事件・旧石器発掘捏造事件スクープ)、90年代に入ってからの新聞離れ、これまでの「新聞と権力」の対立が「新聞と市民」の対立に変化しつつあることなどを学んでいる。「第四の権力」ともいわれる新聞の持つ社会的影響力を生徒は理解したようである。
 朝日新聞社見学では、記者がパソコン・デジカメでデータ送信して記事を書いており、朝刊6版・夕刊3版の紙面変化があることなどを学んでいる。事例として、2月18日夕刊では、二版は歌舞伎町火災・三版は一部に韓国地下鉄火災が入り、四版では地下鉄火災がトップとなっている。
 朝日新聞記者を招いての授業では、広島出身で大学で原子核物理を学んだO氏が、レーガン政権のSDI計画への危機感、科学はなぜ原爆を作ったのかの二点で記者を志望したこと。また支局(長野では日航機事故・浦和では宮崎勤少女連続殺人事件・リクルート事件)・科学部(臓器移植でのスクープ・雲仙普賢岳爆発)・海外赴任・科学医療部での体験を具体的に語られている。O氏は、新聞記者の存在意義を「ジャーナリストとジャーニー・世界をめぐって情報を伝えること」とまとめている。
 フリーソフト「朝刊太郎」を使っての新聞づくりは、「東北校外学習」で学んだ内容をまとめさせている。現物を見せていただいたが、パソコンなどの技術では、公立の中高校生などとは一味異なる力を発揮する生徒たちである。
 担当の大野さんの見通しを立てた授業計画・準備の周到さと生徒の理解力がうまく融合されており、学ぶべき点が多い実践である。

  [まとめにかえて]
 社会科・国語科では新聞を使った授業は定番であるが、多くの教員は自己流で扱っているにすぎない。教員生活を新聞委員会(部)顧問から始めた筆者にとって、これまでNIEは新聞社の拡販政策そのものと映っており、一定の距離をおいていた。
 しかし「総合学習」の資料収集の必要に迫られ、今夏、松江市で開催されたNIE全国大会に出張で参加し、最新情報を入手している。情報そのものを検証する授業実践例は少ないものの(新聞紙面を批判するような授業)、新聞づくりやさまざまな教科での新聞を題材とした実践は参考になっている。NIEという機会に乗じて、改めてメディアの扱い方を検証しなおす意義はあるように思う。
 また、正攻法で構成した「総合学習」(表現・多文化共生・環境学習)の肉づけに一層の工夫を続けたいと考えている。


参考:「多文化共生」(構成私案) 《新羽高校の学区は鶴見・港北・神奈川区》
   *学年6クラスを1・2・3・6名のいずれかで分担して担当する。
    担当クラスはローテーションする。

 1学期  沖 縄 [沖縄戦まで・鶴見と大阪大正区・現状(VTR   )]
カナダ・オーストラリア[カナダ移民・オーストラリア移民・多文化政策]

 2学期 アイヌ [北海道開拓・ウタリ文化・現状(VTR「新・共生への道」)]
中 国 [人民公社の時代・世界の工場・現状(VTR    )]

 3学期 韓 国 [韓国の今・川崎と大阪生野区・
                   在日コリアンの現状(VTR    )]
ペルー・ブラジル[ペルーの今・ブラジルの今・鶴見と群馬大泉町]