海外の教育情報
イギリスの新聞記事を読む
翻訳 山 梨  彰
訳註 沖 塩 有希子
解説 佐々木  賢
                                       
能力別学級編成で生徒の 「成績は悪化」
Times 2003.7.2 (イギリス) トニー・ハルピン 教育編集員

「教育格差が著しい国では、最貧困層出身の生徒の
学業成績は最悪であった」 研究報告より

 昨日公表された国際研究の結論によると、 生徒を学業成績で選抜したり、 能力別のグループに学級編成したりするのは、 教育上の成果を妨げるという。
 これはOECD (経済協力開発機構) とUNESCO (国連教育科学文化機関) の研究だが、 15歳の子どもの読み書き能力の水準が最も高いのは、 社会的にも、 学業成績の上でも学校間格差が最も少ない国だと述べている。
 イギリスは、 OECD諸国の中で学業成績が平均以上とランク付けされたが、 同時に教育上の不平等が最大の国という特徴を持つ。
 イギリスは、 たとえばフィンランド、 カナダ、 スウェーデン、 香港のように、 学業成績や社会的な背景によって、 生徒を学校別に分け隔てしない国に比べると、 学業成績の結果が、 さほど良くないという総合的な結果が出た。 イギリス政府の教育プログラムの核心として、 生徒を能力別に編成することを校長に奨励し、 上位10%までの生徒を選抜するスペシャリスト・スクール (Specialist School) (1)の立ち上げを促してきたが、 今回の調査からはこの計画に疑問が生じる。
 本調査によると、 学業成績が良好な生徒がより良い教育資源を利用できるようにする政策は、 社会的な分断を深めるという。 政府はスペシャリスト・スクールに、 専門知識の育成のためということで、 他の総合制中等学校(2)よりも60万ポンド多く予算を充てている。
 OECD教育局次長のアンドレアス・シュライヒャーによると、 生徒の学業成績の水準は、 家庭的背景よりも学校運営のあり方から、 より強い影響を受けたという。 「この点は実に重要な発見です。 研究者の誰もが、 この点がこれほどはっきり明らかになるとは予期していませんでした。」
 生徒の所属する社会階層が、 15歳の時の読み書き能力の水準に影響するが、 イギリスでは、 どの国に比べても、 その影響力は大きかった。
 全389ページの報告書の結論によると、 社会的に高い階層や経済力をもつ階層に所属する生徒とそうではない生徒との教育格差が著しい国では、 最貧困層出身の生徒の学業成績は最悪であったという。

【訳注】 
(1)スペシャリスト・スクール (Specialist School) とは、 外国語・情報とコミュニケーション (Infor-mation and Communication Technology:ICT、 日本でのITと同じ)・芸術・スポーツなどの専門課程が用意され、 生徒のニーズに対応した教育が保障されることを趣旨とする学校。 この学校になるには、 地方教育当局 (Local Education Authority:LEA) と協議の上、 4 年分の発展計画を立て、 5 万ポンドのスポンサー契約を取り付け、 専門科目における教育内容と学習目標を設定して、 他校や地域社会が関与できるようにしなければならない。 認可されれば、 当初配分で10万ポンド、 生徒 1 人につき年間123ポンドの補助金が 4 年間つく。
(2)総合制中等学校(Comprehensive Secondary School)は、 いわゆる公立の中等学校。 かつてイギリスの中等学校では、 初等学校終了時の11歳に、 イレブンプラス・テストによって、 グラマー・スクール (主として大学への進学を目指す者のための 7 年制の中等学校)、 モダン・スクール (グラマー・スクールに進学しない生徒のための学校で通常は 5 年制)、 テクニカル・スクール (特に技術系の強化に重点を置いた 7 年制の中等学校) の 3 種類の学校に生徒を振り分ける複線型の学校システムをとっていたが、 1960〜70年代にかけて、 単線型の選抜のない総合制中等学校の普及が、 労働党により進められた経緯がある。 1980年代以降、 公立中学校全体の約 9 割の生徒が総合制中等学校に通うようになっている。

落ちこぼれは若者の5人に1人と、
教育基準局 (1) が発表

Times 2003.6.6 (イギリス) 通信員報告

「これほど多くの若者が落ちこぼれているような教育制度に満足する者が
いてはなりません。 なぜなら、 それは誰の利益にもならないからです。」

主任学校査察員デビット・ベル



 主任学校査察員(2)のデビット・ベル氏の昨日の発言によると、 現在の教育制度は全ての子どもの要求に応えているとはいえず、 制度の失敗を反映して、 学校や職場から落ちこぼれている16歳人口は全体の 5 分の 1 にもなる。 これはショッキングで憂慮される事態である。
 いまこそ、 政治家がこの問題に真剣に取り組むべき時である。 というのは、 「こんなにもたくさんの子どもたちが落ちこぼれてしまう教育制度には 1 人として、 満足すべきではないからです」 とベル氏は語る。
 私たちは、 若者とともにこの問題を解決するのではありません。 問題が続く限り、 私たちは誰一人仕事を終わりにして、 帰宅することはできません。 と教育基準局長でもあるベル氏は 『ニュー・ステイツマン』 紙の記者に述べた。 「16歳の 5 人に 1 人が、 義務教育の終了の時点で行き場がなく、 次の学校や教育機関に行くこともないし、 多くの場合仕事もしないのは、 すでに周知のことです。」
 教育基準局は、 来週、 イングランドでの14歳から16歳の子どもたちの学習到達度に関する報告書を発行する予定である。
 政府は、 学校と大学や職場をさらに密接に連携させることによって、 授業をより魅力的にするために、 中等学校のカリキュラムを大きく改革すると約束していた。
 同時に、 政府は、 最も貧しい家庭の10代の若者には、 学校を続けたり、 あるいは職業訓練を受けるために、 1 週間に上限30ポンドの教育扶助手当が支給されるという、 これまで成功してきた試みをイングランド全体に拡大すると、 表明している。
 しかし、 ベル氏は、 政府がもっとよいことをするだろうとほのめかした。 氏は脱落した20%の者の運命に関して、 「政治的には特にやっかいな問題ではないのです」 という。 さらに 「現実はそういうことです。 こうした若者やその家族は公民権を取らないので、 選挙地盤になる集団に比べて大切ではないと、 いいたくなります」 と付け加えた。
  「しかし、 私の頭に浮かぶのは、 本来の正義と社会的な重大性です。 これほど多くの若者が落ちこぼれているような教育制度に満足する者が、 いてはなりません。 なぜなら、 それは誰の利益にもならないからです。」
  「もし若者が社会に参加できず、 公民権を奪われたと思って、 犯罪に走れば、 結局のところ、 私たち皆にとって損失でしょう。 私としては、 この問題をそのままにしておく気はありません。 私がいいたいことは、 私たちがどれだけうまくやり、 信頼を勝ち得るか、 ということです。」
  「しかし、 それでも、 庭のバラが皆美しく咲くと考えるのは、 あてになりません。 このような若者のことを忘れてはいけないということです。 若者たちも、 良質の教育を受けるに値するのです。」

【訳注】 
(1)教育基準局 (Office of Standards in Education: Ofsted) は、 教育技能省 (Department for Education and Skills : DfES 日本の文部科学省に相当。 以前はDepartment for Education and Employment: DfEE 教育雇用省といい、 2001年 6 月に改称) から独立した政府機関である。 主な活動は、 4 年に 1 度学校を視察し、 評価内容を報告・公表することにより、 学業成績・教育水準の向上を目指すことである。 教育基準局の行う学校視察は、 非常に強権的な性格を備えており、 評価で 「失敗」 と判定された学校には改善命令が出され、 毎年の視察を受けることになり、 改善が見られなければ閉鎖に追い込まれる。 このような学校視察は教員にとっても大変な負担を強いているといわれる。 また、 教育基準局による視察は、 地方教育当局 (Local Edu-cation Authority: LEA) に対しても実施され、 評価で 「失敗」 と判定された場合には、 地方教育当局のサービスの独占が解除され、 他の民間業者にもサービスを提供させて市場で競わせる教育サービスの民営化の策がとられる。
(2)査察員 (Inspector) は、 実際に学校に視察に入って学校評価を行う者。 各地に登録・派遣をするエイジェンシーが存在しており、 学校視察の要請に応じて調査 (教師への面接も含まれる) に入り、 短期間に膨大な報告書をつくって公表する。 査察者には独自の資格があるわけではないが、 教育経験があるなどの一定の基準が要求されるという。
         
教育改革で、 教員は余儀なく退職へ
Times 2003.7.5 トニー・ハルピン 教育編集員

「相当な数の若い人が教職に就き、 教育現場を知り、
自分に向いていないと判断し、 やめるのです。」

スミザーズ教授

 政府の公式調査によると、 学校を去る教員の人数は、 トニー・ブレア首相が強力な教育改革に着手して以来、 ほぼ倍増した。
 金曜日に公表予定の教育技能省への報告によれば、 教員の仕事量、 政府の改革による圧力、 規律を乱す生徒への無力感がおしなべて、 この増加の原因になっているという。
 調査に携わったアラン・スミザーズ教授は、 退職者の数は昨年減少したが、 それでも労働党が政権の座に着く以前に比べ、 三分の二多いと語った。
 昨日ロンドンで開かれたイングランド教職協議会 (General Teaching Council for England) (1) 主催の会合でスミザーズ教授は、 次のように語った。
  「1998年以来この方、 学校をやめる教員の数は、 ほぼ倍増しました。」
  「こうした教員が、 41,800人に減少したのは喜ばしいのですが、 それでもまだ平均的な水準よりもおよそ64%多いのはゆゆしきことです。」
 退職する人数は、 1990年代半ばには、 早期退職規則が厳しくなる前年の1997年の大量退職という例外を除けば、 年平均25,000人ほどで一定していた。 この人数は1998年以降増え続け、 昨年41,800人に減少するまで、 2001年に最高の46,500人に達した。
 リバプール大学教育雇用研究センター所長のスミザーズ教授は、 「教えることをもっと魅力的にしたいのならば、 教員の仕事量と生徒の態度について考える必要があります。 この分野では、 政府は多くのことを行っています」 と語った。
 教育技能省大臣のデビッド・ブランケットは、 首相とともに、 読み書き能力と計算能力を向上させ、 学校さぼり(truancy)(2)と学校からの追放(expulsion)(3)をなくし、 失敗している学校を立て直し、 教員の給与を業績にリンクさせるという、 第一期労働党による一連の改革に着手した。
 スミザーズ教授によると、 50歳以上の大半の教員は、 変化に対応できないし、 その意志もないという。
 30歳以下の教員で、 やめる人数も不釣り合いに多い。 教授は 「相当な数の若い人が教職に就き、 教育現場を知り、 自分に向いていないと判断し、 やめるのです」 と語る。
 教育基準局長のデビッド・ミリバンドは、 教員を職に留めるには学校での規律が重要だと認めた。 局長は上記の会合で、 規律を馬鹿にしている少数の生徒もいると述べる。
  「口答えは格好いいという不良の文化がはびこっています。 これはおかしい。 格好いいどころではありません。 教員を職に留めておこうとする際に不可欠なのは、 教員の権威の尊重と規律正しい行動の価値を、 生徒に植え付けることです。」
 地方教育当局に期待されるのは、 規律破りの生徒の保護者に対して、 「反社会的行動法案 (Anti-Social Behaviour Bill)」(4)に規定された新たな権限を行使することである。 政府も、 法廷が幅広い制裁を加えることを望んでいる。

【訳注】
(1) イングランド教職協議会 (General Teaching  Council for England:GTC) とは、 イングランドの教員の独立した専門職の組織である。 主な活動は、 政府に対して、 教職・学習に関わる問題を、 教員の見解・専門的知識に基づき勧告することである。 また、 教職の高い水準を維持するための活動も重要である。 なお、 教員組合と違い、 政府などに対して行う勧告は法的効力を持っている。
(2) 学校さぼり (truancy) とは、 承認されてない、 無断欠席である。 毎年100万人 (全生徒数の15%) が学校を無断で休み、 小学校での無断欠席は生徒 1 人あたりの日数で 5 日、 中学校では10日になるという。 また、 中学校での15歳の生徒15人中 1 人が 1 週間に 1 日は無断で休んでいるという。
(3) 学校追放 (expulsion) については、 1996〜1997年のデータでは、 小学校・中学校からの永久追放は、 12,752人、 短期停学 (数日から 1 週間程度) は10万人にのぼった。 ここからわかるように、 イギリスでは、 義務教育段階でも追放や停学の措置がとられるが、 これが適用されるケースは学校ごとに異なっており、 服装違反のような軽い規則違反で適用される場合もあるようだが、 一般的には教師や仲間への暴行や暴言だとか、 喫煙、 飲酒、 薬物使用などの重大な違反行為に対して適用されている。 追放された生徒は別の学校を紹介されるが、 その内の 3 分の 2 はうまくゆかず、 生徒の家庭を教師が訪問する形などの教育が行われるという。
(4)反社会的行動法案 (Anti-Social Behaviour Bill)
 とは、 第 1 部麻薬が非合法に用いられた建物、 第 2 部住居、 第 3 部保護者責任、 第 4 部集団の解散、 第 5 部処罰、 第 6 部小火器、 第 7 部環境、 第 8 部総括規定 という構成になっている。 例えば、 第 3 部の前半部分は、 子どもが、 怠学や学校追放の状態にある場合の保護者責任に関する内容である。 第18条では、 該当する保護者は、 地方教育当局や学校理事会と、 保護者契約 (この契約文書は、 その中に明記された期間、 明記された要求に従うことに同意するという保護者の記述、 および、 そのような同意をした保護者に対して援助することに同意するという地方教育当局や学校理事会の記述を含む)を結ぶことが示されている。 第19条では、 子どもが学校追放されている保護者に対し、 地方教育当局は、 その子どもの態度の改善に望ましいと判断される場合に、 (保護者に発しようとしている命令を治安判事裁判所へ照会した後に、) 保護者への命令 (この命令は、 明記された期間、 明記された要求に従い、 かつ、 明記されたカウンセリングかガイダンスに出席することを求める内容を含む) を発することが示されている。 また、 第22条では、 子どもが怠学していて、 子どもの規則的な登校を保証せずに法律違反をしている保護者への罰則通知に関して示されており、 この通知を受けた保護者は記載された罰金を支払うことが要求される。
  いずれの項目においても、 反社会的な行動に対する命令・処罰などの法的処置が厳密に規定されている。



記 事 解 説

佐 々 木  賢

「能力別学級編成で生徒の成績は悪化」
この記事では 「能力別学級編成」 や 「学校間格差」 があると、 子どもたちの成績が全体としてよくない、 というOECDの調査を紹介している。 イギリスの場合、 国際比較をしたら、 上位の子どもたちはよいが、 中下位の子どもたちが他の国より低いという。 イギリスでは、 成績上位10%の子どもの通う学校に特別補助金を出している。 記事の著者は調査に基づき、 この政策を批判している。
 さて今日本の教育改革の一つの目玉は、 学校選択の自由や中・高あるいは小・中一貫校である。 端的にいえば、 選択の自由は学校間格差を拡大し、 一貫教育は受験エリート校をつくる可能性がある。 可能性というより蓋然性といった方がいい。 「特色ある学校作り」 と言われているが、 「特色」 は雲散霧消するに違いない。 なぜなら、 親の要求は子の学力向上であり、 「よき」 進学と就職にあるのが本音であるからだ。
 品川区の場合、 小学校が40、 中学校が18あるが、 2006年に開校予定の小中一貫校に予算を百億円かける。 区の教育予算が年90億円だから、 一エリート校のために他の数十校にシワ寄せがいくに違いない。 この教育改革に朝日新聞が賛成し、 品川区長を呼んでシンポジウムも開いている。
 要するにイギリスやアメリカの教育改革の真似をして、 「これが新しい」 と思い込んでいるのだが、 全体の成績を上げることには失敗に終わるだろう。 どうしてこの政策に賛成する人がいるのか。 教育を論ずる人のクセとして、 現象を見ずに願望を優先させるからである。 親は自分の子は上位10%に入るという願望を抱いている。
 ところで、 行政側の本音は 「これでいい」 と思っているのではないか。 「この社会には少数のエリートがいればこと足りる、 他の多数派はどうでもいいと」 ・・・。 これは斉藤貴男の 「機会不平等」 に書かれている。 つまり、 「行政は意識的に格差を拡大する政策を取っている」 という見方である。
 だがこの記事から、 もう一つの別の見方もできる。 子どもたちの成績はその国の社会構造の反映だ。 この記事によれば、 フィンランド・スウェーデン・カナダ・香港の子どもたちの成績がいい。 それも下位の子どもたちが底上げされ、 全体の成績が良くなっている。 つまり福祉や平等化を目指す社会では、 さほど競争する必要を感じないか、 もしくは階層を上昇する可能性がある国では全体として、 子どもたちの成績が向上するといえる。
 国の教育行政の結果として、 成績格差が広がるのではなく、 社会のありかた全体が子どもの成績に影響を与えたという見方が成り立ちうる。 子どもたちの身近な将来モデルがフリーターだとすれば、 子どもや若者たちは成績を上げようとは思わなくなるであろう。 階層構造と成績の関係は今後とも重要なテーマであり続けるであろう。

「落ちこぼれは若者の 5 人に 1 人」
 最近日本でも流行り出したことばにNEET (Not in Education, Employment, or Training) がある。 語源はイギリスにある。 この記事にあるように、 16歳人口の 5 分の 1 の若者が就職も進学もしていないからだ。
 記事によると、 国の対策として@授業を魅力的にする、 A後期中等学校が大学や職場と密接な連携を持つ、 B再教育のための扶助金を週30£出す、 という三つが提案されているという。 だが効果があるだろうか。
 学校に魅力を感じない若者が世界的規模で増えている。 OECDの 「15歳の生徒の学校満足度」 調査 (対象42ヵ国 2003年10月) によれば 5 人に 1 人が恒常的に欠席し、 4 人に 1 人が学校になじんでいない。 授業欠席が多い国はイスラエル45%、 ブルガリア40%、 スペイン34%等々で、 日本の 4 %や韓国の 8 %は少ない方である。 だが 「自分は学校になじんでいない」 と考える生徒の割合は日本38%、 韓国41%であり、 出席率のいい国の若者は学校嫌いになっている。
 一方若者の就職状況はやはり世界的規模で悪い。 学卒就職 (大卒・短大卒・高卒の平均) で正規職員として採用されなかった男子の比率は、 日本は10.8、 フランス21.8、 ドイツ16.3、 イギリス45.3、 アメリカ24.0である (2000年労働白書)。 イギリスはこの時点ですでに半数近くが正規職員に成れていない。 要するに、 グローバル経済が浸透した国では、 国際競争に耐える経営合理化のため、 長期労働を短期労働に切り換えたのだ。 それにME化やIT化は事務労働や技能労働を減らす、 いわゆる産業革命を進めた。
 若者が身近で魅力的に思う仕事が極端に減った。 フリーターやNEETがでると、 すぐに 「若者の労働意欲」 を問題にするが、 意欲と労働状況は相関関係にある。 身近に魅力的な仕事が多い時は意欲が増し、 そうでない場合は意欲がわかない。 現状は後者である。 学校での勉強が将来を保証しないし就職の当てもない。 「何もしたくない」 とか 「何に向いているか分からない」 という若者が多いのは、 現在の労働市場の変化を反映している。
 記事の著者ベル氏は政府の施策に冷やかな目を向けている。 NEET層は選挙地盤に関係ないから政治家は無関心なのだと仄めかしている。 イギリスの選挙制度は選挙登録をした者のみ投票できる仕組みであり、 NEETやその家族は選挙登録をしないから、 政治家は無関心でおれる。 だがベル氏は社会正義と犯罪予防の双方から警告を発している。 日本のひきこもりは家族が抱え込んでいるが、 そうでない国は、 犯罪の多発が予想されるのだ。

「教員改革で、 教員は余儀なく退職へ」
 ブレア政権が誕生したのは1997年 5 月である。 その後 6 年間で教員の退職が倍増したとこの記事では伝えている。 この記事に出てくるリバプール大学のアラン・スミザーズ教授は一貫して教員の動態を調査している。 2001年11月 2 日のタイムズの記事では、 同教授が調査した新任教師の60%が 3 年以内に辞めていることを報じている。 退職の理由は今回の調査と同じである。 第一は、 仕事量が多いこと。 第二は、 教育改革で行政圧力が強くなったこと。 第三は、 生徒が扱いにくいこと。
 政府の対策の第一は、 生徒の読み書き能力の向上。 第二は、 怠学や生徒追放を無くす。 第三は、 教員給与を業績にリンクさせる、 というものだ。 この施策は的が外れている。 第一と第二は、 先に見たようにグローバル化や労働市場の変化や、 それに消費社会や情報社会と関係する難しい問題が潜んでいて、 その状況を無視しているからだ。 だが世界中のどの国の教育行政も消費・情報社会と怠学との関係を調査していない。 そして、 生徒の怠学を家庭や教師のせいにしている。
 家庭に対しては 「反社会的行動法」 で対処し、 その第 3 部の22項では子どもが無断欠席した場合、 保護者への罰則を規定している。 その法に従って、 無断欠席した子どもの親に100£までの即決罰金を科すと政府は発表した (タイムズ2003年10月 4 日)。 これを報じた新聞記事では 「まるで駐車違反を取り締まるようだ」 と評している。 親は 「小さい子どもたちなら分かるが、 13や14歳になった子どもが学校をサボるのはどうしようもない」 と反発している。
 教師に対しては、 「個人別業績給」 で競争させようとしている。 そもそも教師は政府の強圧的な態度がイヤだといって退職者が増えているのに、 この政策はどう見ても的外れである。 また教師退職の原因が生徒の 「やる気のなさ」 にあるから、 怠学や学校追放をなくして、 学校を建て直そうという。 これは 「失敗した公立学校」 を廃校にし、 民間の教育業者に払い下げする政策である。
 対家庭・対教師の両方の政策とも対症療法であることは明らかである。 繰り返すが、 生徒の怠学は家庭や教師の努力を上回る社会状況変化が潜んでいる。 その状況変化は、 第一に世界的規模であること、 第二に生産より消費中心の社会になっていること (学校は生産向けの機関) 、 第三に情報社会の結果、 メディア情報が学校情報を凌駕していること、 第四に労働市場が変化し、 中下層の多数派の若者に魅力的な仕事を用意していないこと、 従って、 第五に教育の社会的人材配分機能が著しく低下していることである。
 ここで紹介した学力差の拡大・ドロップアウトの増加・教員退職の三つの問題は、 全て上記の五つの状況と絡むのだが、 行政はあまりの難しさのために、 結局、 効果的な施策を出すことが出来ず、 対症療法に陥っている。 実は、 イギリス教育行政のピンボケ政策は世界各国のピンボケ教育行政の一つに過ぎないことを確認しておきたい。

   
(やまなし あきら 県立藤沢養護学校教員)
(おきしお ゆきこ   教育研究所員)
(ささき けん 教育研究所共同研究員)