授業料減免問題を考える視点
〜全国の状況を数値データから見る〜

 
本間 正吾

1. はじめに
 研究所では授業料減免の問題を2007年度の独自調査のテーマとした。 その結果は所報 『ねざす』 前号にのせてある。 ただし、 研究所の調査は神奈川県の県立高校に対象を限っており、 他県との比較等には触れることができないままであった。 そこで前号の独自調査を補足する意味で、 公立高校の授業料減免の全国状況について情報の提供をしていきたい。 ただし全国情報といっても現地調査までは行うことができないままである。 外から手に入る情報だけで実態をつかむことはむずかしい。 その限界を承知の上で、 問題提起という視点からまとめてみた。

2. 授業料減免率はなぜ急上昇したのか
 最初のグラフを見ていただきたい。 これは文科省がまとめた調査結果に基づいて作成したものである。 授業料減免を受けた生徒の数は、 05年度に全国で全日、 定時、 通信制を合わせて23万人を超え、 全体の 1 割近くの9.4%に達した。 96年度の減免生徒数が11万人弱、 率にして3.4%だったことを考えると、 実数で 2 倍、 率にして 3 倍近くの大幅な増加になっている。
 昨年 4 月にこの数値を伝えた新聞 (毎日新聞2007年 4 月 3 日付夕刊) は、 「家庭の困窮鮮明」 と、 ここ十年の間に各地で経済的困窮が深刻化したことに主な原因を求めている。 いわゆるバブル経済が崩壊した後、 長期にわたり経済的停滞が続いている。 もちろん最近に限って言うならば、 日本の経済は回復したとも言われ、 企業収益は増大している。 それにもかかわらず、 「家庭の困窮」 は止まることなく進んでいる。 貧困 あるいは 格差という言葉は、 マスコミ等でもしばしば取り上げられ、 出版物のタイトルとしても数多く目にするところである。 おそらく生活実感としても、 多くの人が認識しているところでもあろう。 そしてこの実感は客観的な調査によって裏付けられる。 たとえばOECDがおこなった調査によると、 日本の貧困率 (所得中位の二分の一以下の比率) は2000年時点で15.3%に達し、 調査対象国中 5 位の位置を占めている。 94年の同じ数値が8.4%にとどまっていたことを考えると、 このわずか 6 年の間の貧困率の大幅上昇には驚かざるを得ないだろう。 さらに労働力人口に限定した計算をするならば、 日本の貧困率は13.5%であり、 アメリカ合衆国の13.7%に次ぐ 2 位になっている (OECD 「対日経済審査報告書」 2007年 7 月発表)。 ここには高齢化が貧困率を上昇させたなどという説明が入り込む余地はない。 働き盛りの年齢層の貧困が深刻になっているのである。 とうぜんのことながら、 この働き盛りの層に学齢期の子どもを抱えた層は重なる。 このOECDの調査結果を見るかぎり、 貧困層の増加が授業料減免者数を増やしたと言っても間違いはないだろう。 まさに 「家庭の困窮鮮明」 なのである。 ただし、 この貧困層の増加という要因だけで、 授業料減免率の上昇のすべてを説明してよいのか疑問が残る。 もうひとつ別の視点から見てみたい。
 いま触れた新聞記事では 「権利として積極的に申請する保護者が増えた」 という現場からの声も紹介されていた。 10年足らずでここまで増えた事実を、 権利意識の変化だけで説明することは無理である。 とはいえ、 この声は一面の真理を伝えている。 「積極的に申請」 せざるを得ない事態に、 生徒と家庭が追い込まれてきたことはたしかである。 1999年に広島県では 「県立高校授業料徴収取扱要項」 を一部改訂し、 滞納が 9 ヶ月を超える場合には校長が出席停止にできることを定めた。 この動きはその後各県に広がった。 たとえば沖縄では、 授業料未納のために卒業が延期になった生徒がいること、 また授業料滞納による出席停止者が448人出ていることが新聞により報じられていた (琉球新報 2006年 7 月 4 日)。 ただし、 授業料未納を直接の原因として退学になったケースは現実にはほとんどない、 と現場の教員 (広島県の定時制教員) からは聞く。 けっして見逃しているわけではない。 授業料納入が滞る生徒は、 学校から退学を申し渡される前に 自主的 に学校を辞める結果になっているからである。
 こうした ゼロトレランス 的対応が全国的に広がる以上、 生徒も家庭も授業料減免を、 「権利として」 というよりも、 高校生活を続けるための切実な手だてとして 「積極的に申請」 せざるをえなくなっているのである。 また、 現場の教員も事務職員も生徒を出席停止や退学に追い込まないために、 授業料減免の手続きをこれまで以上に勧めざるを得ない状況に立たされているのである。 とはいえ、 「積極的に申請」 する姿勢が授業料減免率を上昇させた主な原因だとは言えない。 授業料減免率の上昇は、 グラフで分かるとおり、 時間的にそれ以前から始まっているのである。 十年間で授業料減免者を急増させた主原因が貧困層の増加にあることに間違いはない。 ただ、 授業料を徴収する側の姿勢の変化が、 追い打ちをかけるように重なっていたことも忘れてはならない。

3. 地域的な比較から
 ここで地域的な比較に入ってみる。 まず各県の授業料減免率を比較した表Aを見ていただきたい (文科省が調査した05年度の数値をもちいた)。 トップの大阪府にいたっては26%を超えてしまっている。 学校によっては 6 割が授業料減免を受けている、 と大阪府の現場教員からは聞く。 他方で静岡県や北陸各県のような低率の県もある。 この問題を扱った先ほどの新聞記事も、 「地域差最大12倍 家庭の困窮鮮明」 と地域差の大きさに注目している。 このあたりをさらに探ってみる。
 3 つ並んだ表を見ていただきたい。 B表は各県の生活保護率を比較した表 (厚生労働省が調査、 公表した05年度の数値をもちいた) であり、 C表は各県の平均所得を比較した表 (内閣府がまとめた05年の数値をもちいた) である。 とくに生活保護率をとりあげたのは、 それが地域における経済的困窮者の数を考える場合の目安になるばかりではなく、 じっさいに授業料減免を適用するかどうかの基準にも、 「生活保護に準ずる程度に困窮している者」 というかたちで使われているからである。
 まずA表とB表を比較すると、 授業料減免率の上位の10都道府県は、 生活保護率を見ても一部を除いて上位を占めている。 これを見るかぎり、 授業料減免者の多い地域は経済不振の伝えられる地域と重なるように思える。 しかし、 平均県民所得で並べたC表と比較すると状況は変わる。 A表で網掛けをした上位10都道府県は、 C表ではバラバラになっている。
 授業料減免率でも生活保護率でも上位の東京は、 都民一人あたりの所得を見るかぎり全国トップである。 東京都の平均所得は全国平均の1.5倍以上、 最下位の沖縄県の 2 倍以上に達する。 また深刻な経済不振を伝えられる大阪にしても、 府民一人あたりの所得は全国平均を上回り、 むしろ上位に入っている。 あるいは、 生活保護率でトップを占める福岡県にしても、 平均県民所得の順位では中の下という位置にとどまり、 九州 7 県の中ではまだ恵まれた位置にある。 地域経済が置かれている状況と、 生活保護率や授業料減免率の位置はかならずしも一致していない。 たしかに東京や大阪といった大都市には産業構造の変化に取り残された中小企業の集中する地域が存在する。 あるいは福岡はすでに過去の遺物となった巨大な炭田地帯をかかえている。 そこに原因を求めることもまったくの間違いではない。 しかし筑豊炭田の閉鎖からは30年以上の歳月が流れている。 あるいは産業構造の変化に取り残されていく中小企業の存在は、 はるか以前から指摘されてきたところである。 問題を解決するための時間は十分にあったはずである。 膨大な貧困層を抱えることになった原因は、 時間がありながらも問題を解決してこなかった怠慢と、 ここ十数年の間におこった経済のしくみの急激な変化にある。
 実際、 東京における生活保護率は92年までは低下し続けていた。 大阪も同じく92年まで、 福岡は98年まで低下し続けていた。 そこに無理があった可能性は十分にある。 とはいえ今はそこに立ち入らない。 ともかく下降傾向にあったものが急速に上昇に転じたのである。 しかもこの間、 東京都の平均所得はほぼ一貫して伸び続け、 96年から2005年までの10年間に11%以上も増えていた。 同じ期間に上昇した県は、 静岡、 三重、 和歌山、 山口のわずか 4 県にすぎず、 その伸び率は東京にはとうていおよばない。 この 一人勝ち とも言える東京都で、 92年の 6 万 4 千をボトムとして2002年の12万へと生活保護世帯数は急増したのである (東京都福祉局報道記者発表 2004年 6 月)。 各県ごとの生活保護率あるいは授業料減免率の上昇下降は、 おもてに現れる地域経済の成長、 後退といった動きだけで説明することはできない。 それぞれの地域における所得の分配構造とその変化にまで立ち入った分析が必要になる。
 他方、 生活保護率でも授業料減免率でも低い数値を示す北陸諸県についても、 手放しで安定した地域と評価するわけにはいかない。 この地域は製造業が比較的よく維持され、 就業機会もやや多いと言われている。 世帯の規模が比較的大きいという特徴も指摘されている。 この就業機会の多いことと世帯規模の大きさによって、 たとえ一人ひとりの収入が少なくとも、 家族で支え合うことが可能になっていると言われる。 また、 社会移動が比較的少ない、 狭い地域社会であるために、 周囲の目を気にする傾向も指摘されている。 ようは家族と地域社会が下支えをしているのである。 家族や地域が支え合うのは美徳かもしれない。 だが裏返して言えば、 貧困を隠しているだけだとも言える。 そして、 その状況も変化しつつある。 生活保護率でもっとも低い数値にとどまっている富山県について、 地域の研究者の一人はこんな見方をしている。

 家族や地域社会に関する富山県民の意識が大きく変化したという調査があるが、 今後、 生活保護に関する姿勢はどのように変化していくのであろうか。 周囲の目を気にすることが無くなれば、 老人ホーム入所者数が最低水準から全国水準に急速に推移したように、 急速に拡大する可能性も否定できない。 (「富山を考えるヒント」 浜松誠二 富山国際大学)

 耐えうる限界を超えたとき、 あるいは意識が変わったとき、 隠れていた貧困が一気に表面に出てくる可能性がある。 たとえば、 北陸の一角の能登半島では急速に高校の統廃合がすすめられている。 その結果、 多額の交通費の負担に家計がたえられなくなっている、 と現場の教員も報告している。 表面にあらわれた数値を比較しても実態は見えない。 ここでも、 数値の背後にある現実を一つひとつあきらかにしていく作業が必要になっている。

4. 制度の視点から
 ここでさらに減免制度の観点から注目したい府県が 3 つある。 大阪、 鳥取、 沖縄の三府県である。 大阪府と鳥取県は授業料減免率で 1 、 2 位を占めている。 また沖縄県は、 平均県民所得全国最下位、 東京都の半分という経済的にはもっとも苦しい状況にありながら、 授業料減免率については全国平均を下回っている。 ここにどんな経緯があるのか調べてみたい。
 まず沖縄の状況からみる。 じつは沖縄の授業料減免率が全国平均を下回る7.3%にとどまっている理由はきわめて単純明快である。 一昨年の夏、 沖縄の新聞に次のような社説が載っていた。

沖縄タイムス 社説 (2006年 7 月20日朝刊)
[高校授業料減免] 上限枠の再検討が必要だ
 生活困窮家庭などの県立高校生の授業料を減免する制度で、 全国の都道府県の中で沖縄県だけが、 学校在籍生徒数の 「 8 %」 という減免者数の上限枠を設定していることが判明した。 他県の場合、 一定の認定基準を満たせば減免措置が受けられる。 県の上限枠について、 文部科学省は 「制度の趣旨に合わない」 と指摘している。 本土復帰時に制定された沖縄県立高等学校授業料等徴収条例の施行規則に 8 %上限枠が定められた。 県教育庁は 「長年の制度なので、 すぐには撤廃できない」 としている。
(もっとも、 この記事の後に開かれた 9 月県議会で教育長は上限枠撤廃の方向を言明するにいたった。 …筆者)

 沖縄では授業料減免率が 8 %以下におさまるように、 政策的に上限枠がもうけられていたのである。 この上限枠の結果、 2004年度には5,791人、 05年度は5,333人が授業料減免を申請したにもかかわらず、 それぞれ3,732人、 3,809人しか認定を受けることができなかった。 沖縄で授業料滞納者が多発し、 出席停止や卒業延期が問題になった背景には、 この上限枠の存在があったのである。 もっともこの上限枠設定の責任は沖縄県のみが負うべきものではない。 もともとは沖縄の"本土復帰"に際し、 財政健全化を図るために求められた施策のひとつであった。
 次に鳥取県をみる。 最初にふれた新聞記事において、 鳥取県の授業料減免率が高いことについて、 行政担当者は 「親の病気にも対応したきめ細かい基準としている」 と答えている。 その鳥取県の授業料減免基準は次のようになっている。
【授業料の減免制度について】
 経済的な理由などにより、 授業料の納付が困難な家庭につきましては、 授業料の全額又は半額を免除される制度があります。
【減免の対象となる事由】
火災、 風水害等の非常災害
保護者が疾病、 障害又は死亡
通学 (定期代が 1 年間に85,000円以上) 又は下宿等に要する費用の多額の負担 (下線筆者)
生活保護を受けている世帯
保護者が市町村民税非課税者又は均等割のみ課税されている世帯
世帯全員の総所得額が基準額に満たない世帯
その他家計が困窮し、 授業料の納付が困難な世帯 (多額の債務は除きます。)
【申請に必要な手続き】
 授業料の減免を受けるためには、 在学中の高等学校へ申請が必要となります。
 申請に必要な書類等、 詳しくは各県立高等学校 (連絡先一覧へのリンク) へ問い合わせください。

     【鳥取県教育委員会HPより】

 この中で特徴があるのは、 「通学 (定期代が 1 年間に85,000円以上) 又は下宿等に要する費用の多額の負担」 も減免条件にしているところである。 他の県ではあまり見ることのない条件である。 高校数の少ない鳥取ばかりではなく、 神奈川のような人口稠密で高校の数が多い域であっても、 通学に要する経費は家計を大きく圧迫する要因になっている。 神奈川を含めどこの都道府県も、 学区 (通学区域) は廃止されるか、 きわめて広域になっている。 近隣の高校への通学を保障していない以上、 通学に要する経費が授業料減免の条件に加えられるのは当然の措置とも言える。
 また、 鳥取県のある高校 (鳥取県立商業高校) のHPには、 授業料減免について世帯人数に応じた所得基準が次のように例示されていた。 かなり細かく、 減免を受けようとする保護者にとってもわかりやすいやり方だといえるだろう。 申請しやすくすることは、 制度をつくる側がとらなければならないとうぜんの配慮である。
所得基準額
世帯人員 H18年分の総所得金額適用分
 1人  1,589千円
 2人  2,984千円
 3人  3,449千円
 4人  3,914千円
 5人  4,379千円
 6人  4,844千円
 7人以上 1人増すごとに465千円加える
      【鳥取県立商業高校HP】

 他方、 授業料減免率でトップに立つ大阪府では、 基準の見直しがすすめられている。 府教委は、 「…生活保護や失業率、 離婚率等が全国平均に比べて高い状況にあることなどが原因になっていると考えられるが、 いずれの指標も減免率が全国平均の 3 倍に至っていることの理由を十分に説明できるものではない。」 と説明している。 そして、 これまでの 「生活保護に準じる程度に困窮している者」 という基準が 「市町村民税所得割非課税の保護者」 へと06年度より変更された。 具体的な金額を見ると、 両親と子ども二人の標準家庭で 「年収436万円以下」 という免除基準は 「年収288万円以下」 まで引き下げられたのである。 436万円という基準額は全国でも最も高いとされていたものであり、 その引き下げによって授業料減免者の大幅な減少を期待したのかもしれない。 結果は 2 割の減少であった。 ただし、 ここまで大幅に基準を変えても減ったのは 2 割にすぎない。 つまり 「年収288万円以下」 の層がなお相当な数で存在するのである。 しかも、 生活保護費の中に高校の授業料相当分を含めることなったため、 生活保護世帯は減免対象から外された。 したがって、 減少分の中の相当部分は、 生活保護世帯が減免申請をしなくなったために減った分とも考えられるのである。 そうなると基準額の引き下げによって対象から外された家庭はごく僅かしかなかったことになる。 大阪における生活困窮の根は深い。
 ところで、 大阪府が基準額とした288万円という数字は、 年間授業料14万 4 千円の20倍である (大阪の府立高校授業料は全国で最も高いが、 これに加えて冷暖房費年額5,400円も加わる)。 そもそも高校生を含む 4 人家族が年間288万円で生活することはけっして容易ではないだろう。 その家計から月ごとに 5 %、 支払い月には月収の15%が授業料として引き落とされるのである (大阪は 4 期制で納付)。 おそらく年収1,000万円の家計から年間50万円を教育費に当てたとしても、 その負担は大きいとしても耐え得ないものとはならないだろう。 だが、 稼ぎのすべてを費やしてやっと生活を維持している家庭にとっては、 授業料のみで年収の 5 %という負担はかんたんに耐え得る重さではない。 しかも授業料以外に通学の費用、 私費負担分、 さらに修学旅行費等も加わるのである。

5. 高校進学率の視点から
 ここで経済的視点、 あるいは制度的視点とは別の見方を紹介したい。 高校進学率から見る視点である。 4 番目の表、 全日制、 定時制高校への進学率で各都道府県を並べた表Dをみていただきたい。 表Dの下位10府県を授業料減免率の表Aと比較すると、 大阪と鳥取を例外として、 他の 8 県は平均以下の数値になっている。 授業料減免率最下位の静岡県も進学率では下位グループに入っている。 「ねざす」 前号に収めた本研究所の独自調査において、 "学力"の上で下位に位置づけられた高校ほど、 授業料減免率が高くなる傾向が指摘された。 全日制、 定時制の高校への進学率が低くなれば、 進学を断念せざるを得なくなる生徒は、 一部の例外を除くならば家庭の経済力が弱い生徒ということになってしまうはずである。 ただし、 進学率の違いそのものは数パーセントにすぎない。 したがって影響もその程度にとどまるだろう。 しかし、 経済的に不利な立場に置かれている生徒を高校に入れないことが、 授業料減免率を抑制する結果になることには間違いがない。 それにより授業料減免率が抑制されたとしても、 それは恥ずべき結果というべきだろう。

6. 授業料減免問題を考える視点
 授業料減免率が一割近くに達しているという調査結果は驚くに値するものだろう。 しかし、 10%代半ばに達する貧困率を考えれば、 この数値はまだ低いのかもしれない。 各県のもつ授業料減免のしくみが、 その制度を必要とする高校生と家族にとって適切なものになっているかどうか、 それをかんたんに評価することはできない。 各地域にどれほどの貧困層が蓄積され、 その人々の生活実態がどうなっているか、 現実を詳細に見た上で評価はくだされなければならない。 少なくとも、 表面にあらわれた数値を見て、 平均に近づけなければならないとする判断は、 悲劇的な結末をもたらすだけだろう。
 授業料減免率をはじめとする社会保障の制度は行政の姿勢によって大きな影響を受ける。 そもそもこの10年間で減免率が大幅に上昇した背景にも、 最初に指摘したように授業料滞納者を出席停止さらには退学にまでするという対応の変化が重なっていたのである。 あるいは高校への進学率、 授業料減免制度の基準のつくりかた、 その運用の仕方は、 減免率を上下させる。 基準が妥当かどうか、 その運用が適切かどうか、 現実に照らしながらつねに検証していく作業がともなっていなければ、 必要とする人々を救済できる制度にはならない。
 最後に神奈川県に触れる。 神奈川の授業料減免率は5.7%である。 全国平均と比較するならば低い水準にとどまっている。 まだましな数字と言うのかもしれない。 だが数字を競っても意味はない。 高校への進学率について言えば、 神奈川は全国でも最低ランクであり、 とくに全日制高校への進学率では90%を切っている。 進学率の低さによって授業料減免率は当然抑制されているはずである。 それ以外のどのような要素がこの数字をつくっているのか、 今の段階では速断できない。 神奈川県において貧困がどのように進行しているのか、 高校生を抱えている家庭がどのような状況にあり、 授業料以外の費用も含めてどのような負担をしているのか、 さらに詳細に見ていく必要がある。


(ほんま しょうご  教育研究所員)
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