所員レポート

本格実施二年目 教員免許更新講習を受講して
 
金 沢 信 之

■大学は夏休みなし
 本格実施二年目となる教員免許更新講習をこの夏に受講した。 必修領域 2 日、 選択領域 3 日の計 5 日間。 1 日あたり90分の授業が昼休みを挟んで 4 コマ設定されており、 一講座あたり 2 コマ、 必修と選択を合わせて10講座である。 講座の最後にはほとんど全て試験があり、 最終日には 1 時間超の時間で与えられたテーマによる文章作成も課せられた。 もちろん講習の内容は各大学で異なるし、 インターネットなどによる受講もあるから、 ここで述べる講習についての感想は、 あくまでも私の受講した講習についてということになる。
 私が受講したのは渋谷にあるK大学。 家から最寄りの駅まで歩き満員電車にゆられての通学 (?) であった。 渋谷駅からも徒歩で大学へ。 ただし折からの猛暑のため大学に着く頃には汗だくという日々。 必修領域は座学とグループ討議、 選択領域は座学中心であった。 各講義の最後には試験が待ちかまえているため教室は居眠りもほとんどなく緊張感が漂っている。 気のせいか講師陣もいつもと違う生徒達 (?) に緊張気味のようであった。 昼は学食で学生に混じってランチ。 K大学は最近建て替えが終了したとのことで、 まさに街中のレストランの趣きである。 実にきれいであり、 私の学生時代の学食の面影は微塵もない。 (もっとも私はK大学の出身ではないのだが。)
 8 月というのに学食は学生達で満員であり、 受講期間中にはオープンキャンパスの高校生も大勢いた。 そのせいか、 これと目を付けたメニューは常に売り切れ状態である。 大学は 8 月になっても忙しいのだろう。 いくつもの教室で授業も行われていた。

■受け入れ枠が足りない
 私はいわゆる更新講習第 2 グループに属する。 第 1 グループは来年 3 月が講習期限であり、 昨年受講していない人たちが今年受講している。 私は二年後が期限となる。 つまり、 今年は第 1 グループの未受講者と第 2 グループが受講する年なのである。 第 2 グループは来年受講してもよいのだが、 両グループを合計すると今年の受講該当者は10万人程度になる。 それに対して今年の受入予定人数は、 前年比半減の 6 万人にも満たない。 その結果、 一部の県では第 1 グループの未受講者の受入人数でさえ確保できなかったという。 (文科省推計) こうやって大学が更新講習から手を引き始めると、 教育委員会が講習を実施することになるのだろうか。 だとすれば、 教育委員会の教員管理には好都合かもしれない。 更新の権限を握られては自由闊達な議論は難しいだろう。

■当分継続か
 政権交代もあり免許更新制は早期に廃止になると多くの教員は考えていたと思う。 しかし、 参院選の民主党敗北による 「ねじれ国会」 のため法案成立のメドがたたなくなった。 また、 当初より民主党は免許更新制を見直し、 教員養成制度改革 ( 6 年制教員養成など) の中で生かしていくと言っていた。 廃止ではないのだ。 民主党案のように新たな免許状や養成年数との関係性もあればそう簡単に法案成立とはならないだろう。 さらに、 参院選で一部の党には教員の政治活動を全面的に禁止し罰則規定も設けるといった主張もあり、 日教組との調整を考えれば民主党の法案成立のハードルは高い。 また、 公務員バッシングと相俟って世間では教員免許更新制には賛成の声も多い。 (『ねざす』 44号、 綿引光友氏) 当面は中教審答申待ちであるとしても、 来年の早い時期に廃止になるとは考えにくい。
 そんな事情からか今年の更新講習はどこも大盛況であったらしい。 (『朝日新聞』 8 月14日朝刊) K大学も例外ではなく、 必修領域は定員40名のところ60人を受け入れた。 行き場の無い教員をつくらないために大学が精一杯頑張ったのであろう。 誠実な対応に感謝である。

■負担感
 必修領域では受講者名簿が配布された。 それを見ると、 福岡、 山形、 新潟、 栃木など宿泊しなければとうてい受講できない方達が何人もいる。 交通費も含めるとその費用負担は重い。 K大学の受講料は必修と選択を合わせて 3 万円、 最近給与は低下傾向だからそれもズッシリとのしかかる。 さらに、 受講者には非常勤講師の方や臨時的任用の方も含まれている。 正規雇用より給与は低い。 一般教諭より給与の高い管理職・主幹教諭などは受講しなくても良く、 給与の低い者が受講する仕掛けである。 なんとも腹立たしい。 こうやって怒りがこみ上げてくると、 教員を分断するにはうまくできた制度なのだという実感もわき、 相手の作戦にのってはいけないと自戒する気持ちも強くなる。    
 
■10年の期間雇用
 さてK大学ではこの制度の持つ問題を講師の方達が共有している中で、 教育の最新事情について講義が行われた。 しかし、 大学によっては伝達講習と同じような講義もあると聞く (『ねざす』 44号、 岩崎民枝氏)。 法律や学習指導要領の上辺だけの講義。 講習の内容や認定試験は講師の良識しだいなのだろう。
 もし、 「大学側が魂をカラにしたなら」 「無表情な声と顔の試験監督官による認定試験を行うことはできる」 という指摘は忘れてはならない。 さらに 「どんな制度にも 『少しはいいところもある』 と信じることにも慎重であるべき」 (『ねざす』 44号、 池田賢市氏) であるという警告も、 教員は肝に銘じておくべきである。 更新講習後のアンケートで内容は良かったとするものが多いと聞く。 教員が自らこの制度を存続させることに手を貸すのはどんなに些細なことでも避けたいと思う。 確かに、 職専免で職場を離れて研修が自由にできるのであれば良いことだが、 これはあくまでも免許 「更新」 のための講習であり、 教特法に明記された教師が主体となって行う研修ではないのである。  
 講習の休み時間、 ある講義の終了後、 隣の私立学校の教師が真面目な顔で話しをしているのが聞こえてきた。 「試験、 あまり書けなかった。 認定されなければ失職だよ。」 一緒に来ていた友人がそんな事はないと慰めていたが、 これほど穏やかで配慮に満ちたK大学の講習であっても、 受講生はこんな思いになる。 もちろん、 免許の失効がすぐに失職につながらないのかもしれない。 (『ねざす』 44号 小林正直氏) だが、 こういう声は決して大学が実施するアンケートには出てこない真実の声である。 組合組織もない、 あるいは非正規雇用であれば、 そういう立場の弱い者ほど辛い気持ちに追い込まれ、 もし、 「無表情な認定試験」 が実施されれば、 結果を自己責任として受け止めてしまうだろう人たちがいることを忘れてはならない。
 10年の区切りの更新講習とは、 事実上10年の期間雇用なのである。 そういう意味では、 この法律が存在する限り、 管理職や主幹教諭といった長期雇用グループと多数の期間雇用 (ある意味非正規雇用) に学校は舵を切ったままなのである。 法律は国会答弁があろうとも、 運用で実態が様々変化していくのは 「国旗国歌法」 成立後の学校現場を見れば明らかである。 免許更新が存続して 「無表情な」 人々による運営となる前に、 何としてもこの法律を廃止しなくてはならないとの思いを強くした。 そんな講習体験であった。

【注】本文中に 『ねざす』 44号とあるのは全て該当号の特集U 「教員免許状更新講習始まる」 の論考を参照している。

【注】研修については教員とそれ以外の公務員では考え方が根本的に違う。 以下に引用したように教員は自らが主体となって研修を行うことができるし、 絶えず行わなければならない。 それに比較して一般の公務員は 「職務能率の発揮及び増進」 のために任命権者が研修を行うのである。
教育公務員特例法
第21条 教育公務員は、 その職責を遂行するために、  絶えず研究と修養に努めなければならない。
第22条 (研修の機会)
教育公務員には、 研修を受ける機会が与えられなけ ればならない。
2教員は、 授業に支障のない限り、 本属長の承認を受 けて、 勤務場所を離れて研修を行うことができる。
地方公務員法
第39条 職員には、 その勤務能率の発揮及び増進のた めに、 研修を受ける機会が与えられなければならな い。
2前項の研修は、 任命権者が行うものとする。

【注】教育免許状更新制について鈴木寛文部科学副大臣 (民主党) は次のように述べている。 「教員免許更新制度自体が、 専門免許制度に発展・進化しますから、 今ある事業をベースに、 もっとボリュームと質を充実させていくということで、 発展、 進化させることがわれわれの想定です」 (『季刊教育法』 163号)
民主党が準備している 「教育職員の資質及び能力の向上のための教育職員免許の改革に関する法律案」 によると、 教員は教職大学院で新免許を取得する 「ストレート新免教員」、 旧免許状から新免許状への取得努力義務が課せられる 「旧免更新教員」、 その努力義務が果たせなかった 「更新義務不履行教員」 に三分割されるという。 「旧免更新教員」 は10年ごとに100時間の更新講習を課すことになるという。 (『季刊教育法』 165号 「民主党の20の教育法案」 大森直樹)

 (かなざわ のぶゆき 教育研究所員)
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