特集T 検証 「高校改革推進計画」
教育討論会に参加して
公立と私立の一体的な改革を
 
岩 崎 長 久
  1999年に策定された県立高校改革推進計画が2009年度に完結し、 神奈川の県立高校はモザイク模様となった。 以前の普通科・専門学科/全日制・定時制・通信制という二次元の図式に、 総合学科・「単位制」・「フレキシブル」・「中等教育学校」 などの枠組みが導入されたことで複雑に多元化し、 最早、 県教委の担当者ですら何の資料も見ることなしに神奈川の県立高校の全体像を説明することはできないのではないだろうか。
 その結果、 受検生の選択肢は格段に拡がり、 多様化したと見なされているニーズに応える構図ができあがった。 しかし、 学区の撤廃もあって、 中学校の進路指導は混迷を深め、 予定調和的な指導は不可能となった。 受検生は塾や予備校のデータを頼りとしつつ、 リスクを伴う公立一本の出願を避け、 大多数が私立を併願せざるを得なくなった。
 これにより、 合格を保証する私立の 「併願基準」 が流動化し、 年によって入学者数が大きく変動する事態を招いている。 受検生や入学者の増加は私学経営にプラスの要素ではあるが、 予想を超える場合は、 施設の遣り繰りが困難となり、 必要な教員の確保が大きな課題となる。 年度によって入学者数が変動するため、 教員の増員は非常勤で対応することとなり、 限られた専任教員に学級担任や学校運営の負担が集中するようになる。
 入学定員がはっきりしている公立でも非常勤職員の勤務条件の課題は少なくないが、 私立では教員の二極化が進行し、 常に学校運営が不安定になっている。 その実態は、 必ずしも明らかになっていないが、 県立高校の 「改革」 が私学にもたらした大きな構造上の問題点である。 約 6 割の生徒を受け入れる公立高校が約 4 割の生徒を受け入れる私立に改革のツケを払わせて良いはずはない。
 また、 「特色」 を掲げるようになった県立高校においても、 新校の立ち上げのスタッフが異動した後、 「特色」 の維持に困難を極めているという話をよく耳にする。 総合学科の新校で、 立ち上げ後に着任した管理職の中に 「総合学科など要らない」 と発言する者もいる。 そもそも10年以内に必然的異動を繰り返す公立の教員に 「特色」 の継承を期待すること自体に無理がある。
 公立は普遍的な教育課程を旨とし、 私立は 「建学の精神」 に則った特色を継承する図式が合理的かつ機能的である。 県立高校は私立の模倣をして改革に臨んだことで、 普遍的な基盤を見失いつつある。 せっかく掲げた 「特色」 も経年疲労によって色あせていくのであれば、 生徒や保護者の信頼を裏切ることとなり、 改革の意義は失われてしまう。
  「神奈川の高校改革」 を目指すのであれば、 公立と私立の一体的な改革を議論しなければ、 事態は空回りするだけに終わってしまう。 公立と私立の構造的な基盤の相違を前提とした議論により、 それぞれの条件を生かした改革こそが求められていると思う。


   (いわさき ちょうきゅう 県央地域県政総合センター)
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