特集Ⅰ 公開研究会に参加して
若者支援の現場から
 
堀田 悦子
 
  1. 通信制高校について知ろうと思った理由
     強風と雨が降りしきる2011年11月19日。かながわ県民センターには、教育関係者を中心に研究者や有識者など多くの方が、「通信制高校は今」という神奈川県高校教育会館教育研究所主催の報告会へ参加しにやってきていました。この報告会は、神奈川県立修悠館高等学校、神奈川県立厚木清南高等学校、第一高等学院という県内の通信制高校・サポート校3校の関係者をパネリストにお呼びして、通信制高校の最近の状況や取り組みについていろいろとお話をお伺いするというもので、私も通信制高校の現状について、少しでも知りたいと思い参加いたしました。
     私は、一昨年に定年退職を迎えるまで、県内の全日制高校や定時制高校などの公立高校で養護教員をしておりました。その中で、これまでに勤務した高校で様々な事情で中途退学をしていく生徒たちの姿を見送ってまいりました。その度に自分自身の力の至らなさを歯がゆく感じておりました。今回の報告会に参加したのも、そんな生徒たちのその後の進路について、どのように対応するべきだったのか関心があったからでした。例えば通信制高校について、もう少し詳しく説明・紹介できていたなら、ひょっとしたら生徒たちの進路は違うものになっていたのかもしれないと思ったからです。

  2. 様々な問題を抱えた生徒たちと向き合って
     パネリストの先生方のお話の中では、通信制高校の生徒の40%が不登校経験者であるということも報告されておりました。これに私は思わずうなってしまいました。私が知る限り、こういった生徒たちは、メンタル、学力、友人関係、家庭と、様々な面で問題を抱えていて、卒業までしっかりと学校に通いきる事自体に困難を抱えている場合も少なくないからです。私も精神科医にアドバイスを求めるなどしながら、スクールカウンセラーや担任、学年主任とともにチームを組んで、何十年もこういった生徒への対応に悩んでまいりました。教員は日常の業務で手一杯になりがちです。私は、養護教員として、問題を抱えた生徒やその保護者の相談にのり、校内の環境整備や他機関への橋渡し役を担っておりました。
     しかし、それでも一度、中退してしまえばせっかくの支援の手も及ばなくなります。こうなると生徒たちは社会との接点を失い、時には引きこもり状態に陥る場合さえありました。私が、ねばって保護者を通じて精神科医等を紹介しても、生徒が繋がる事はまれで、すぐに支援は行き詰まってしまうのです。また多くの福祉施設やその支援サービス制度は、生活困窮者や高齢者、障がい者を対象としたものばかりで繋ぐべき先も当時は見当たりませんでした。
     パネリストの先生方のお話の中では、それぞれの通信制高校で、こういった生徒の抱える問題の一つ一つに対応するようになった経緯も報告されておりました。神奈川県立修悠館高等学校では「受身の生徒指導から抑止の生徒指導へ」ということをスローガンに学内でのセーフティネットの充実を目指しているとのことでした。神奈川県立厚木清南高等学校では実活動生(年度始めに単位履修を行った生徒のこと)の割合を把握し、ここからこぼれている生徒への支援に着手していることが報告されていました。第一高等学院では少人数クラス制とキャリア支援プログラムを展開していることが話されておりました。
     学習面での、学び直しや基礎的な内容の充実。生活指導面でも、転編入生への個別のサポート体制の強化など。私は、それぞれの学校で行われている個別の支援について非常に感心させられました。お話の端々から先生方の熱意とご苦労が伝わってまいりました。しかし、一方で生徒たちが抱える多様な問題に対して学校が立ち入る事のできる範囲は限られてもいます。ですから地域にある様々な支援の手を借りながら生徒が卒業までしっかりと通いきる具体的な手段が求められているのだと私は思うのです。

  3. 新しい地域の支援サービスに関わり始めて
     私は、高校を定年退職した一昨年度から「さがみはら若者サポートステーション」という施設に勤務しております。平成21年に「子ども・若者育成支援推進法」がスタートしたことに象徴されますように、現在10代後半から30代までの、いわゆる若年者を対象とした支援サービス制度が、次々と生まれてきております。この「さがみはら若者サポートステーション」もその一つで、相模原市を中心とした東京都南西部から神奈川県北西部を管轄する若年者の自立を支援する公的な相談窓口になります。例えばニート状態にある若年者やその保護者、生活困窮に陥っている若年者などに対して、就職を支援したり、地域の福祉サービスに繋いだり、地域の相談窓口として相談員が様々な支援を行っております。
     私はといえば、これまでのキャリアもあって、この施設では「アウトリーチ事業」という事業の担当をしております。この事業は、高校等の教育機関に訪問して、様々な問題を抱えた生徒に対して、学校と連携し、個別相談に乗りながら伴走的な支援を行っていくものです。中途退学など学校からこぼれてしまいそうな生徒には卒業までの学生生活を応援し、既に中途退学が決まってしまった生徒には編入や就職などの次の行き場が見つかるまでを支援します。また現在の雇用情勢では、生徒たちは卒業後も不安定な進路を歩まざるおえない場合も少なくありません。息長く関わる事ができる地域の相談窓口として在学中から繋がり支援を行うことで、学校から社会へ移行する狭間にある「フリーター」や「ワーキングプア」など、様々な溝(=リスク)を若年者(=生徒)がうまく回避、あるいは乗り越えられるように、サポートすることを目標にした事業なのです。

  4. これからの生徒への支援の在り方について
     私は、通信制高校をはじめとした課題のある生徒の受け皿としての学校が独自に実施する様々な学内でのサポート体制と、地域の自立に困難を抱える若年者の受け皿としての「さがみはら若者サポートステーション」、その双方で勤務した経験を踏まえて、この両者が連携し、一人の生徒にチームを組んで対応することができれば、これまで以上に充実した学校生活と卒業後の進路を保障できる環境造りができるようになるのではないかと思うのです。
     生徒にとって卒業はゴールではなく一つの通過点と思います。この通過点を有意義なものにするには、「さがみはら若者サポートステーション」などの地域の支援機関を上手に活用しながら、実り多い在学期間を過ごせるようにコーディネートする教員の力がいよいよ重要になってくるのではないかと思うのです。全日制高校、定時制高校、そして今回ご報告いただいた通信制高校、それぞれの教員には、まず一度「さがみはら若者サポートステーション」をはじめとした、若年者への取り組みに着手している地域の支援機関に足を運んでみていただければいいのではないかと日々思っております。


  NPO法人 文化学習協同ネットワーク
(ほった えつこ
さがみはら若者サポートステーション
アウトリーチ事業 担当)

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