特集 運動部活動

 運動部活動の国際比較
 
中澤 篤史

  1. はじめに
     日本の運動部活動は、 諸外国の運動部活動や青少年スポーツのあり方と比べてみたとき、 どのような特徴を持っているのだろうか。 日本の学校では、 授業ではなく課外活動として、 放課後や休日に運動部活動が広く行われている。 2001年の調査によれば、 7 割以上の中学生と 5 割以上の高校生が運動部活動に加入し、 ほぼすべての学校が運動部活動を設置しており、 半分以上の教員が運動部活動の顧問に就いている (運動部活動の実態に関する調査研究協力者会議、 2002)。 このような運動部活動の風景は日本では馴染み深い。 それでは、 諸外国の青少年スポーツも、 日本と同じように、 学校で運動部活動として行われているのだろうか。 もしそうだとしたら、 諸外国の運動部活動と日本の運動部活動には、 どのような違いがあるのだろうか。
     本稿では、 運動部活動の国際比較と題して、 第 1 に青少年スポーツの国際状況を概観し、 第 2 に学校間対抗スポーツの国際状況を比較し、 第 3 に日本・アメリカ・イギリスの運動部活動を比較する。 それらを通じて、 日本の運動部活動の特徴を示してみたい 1。
  2. 青少年スポーツの国際状況
     まず、 青少年スポーツの国際状況を概観してみよう。 各国の青少年はどこでスポーツを行っているのか。 表 1 は、 世界34カ国における中学・高校段階のスポーツの場を、 「学校中心型」 「学校・地域両方型」 「地域中心型」 に分けたものである。 「学校中心型」 とは、 学校の運動部活動が青少年スポーツの中心になっている国であり、 「地域中心型」 とは地域のクラブが青少年スポーツの中心になっている国であり、 「学校・地域両方型」 とは、 学校の運動部活動と地域のクラブの両方で青少年スポーツが行われている国である。
     これを見ると、 「学校・地域両方型」 が、 欧州の大部分や北米を中心に20カ国でもっとも多い。 多くの国の青少年たちは、 学校の運動部活動と地域のクラブの両方でスポーツを行っている。 ただし、 その内のほとんどの国では、 運動部活動が存在するものの、 地域クラブの方が規模が大きく活動も活発である。 つぎに、 「地域中心型」 は、 ドイツやスカンジナビア諸国など 9 カ国である。 このように運動部活動がほとんど存在しない国も、 珍しくない。 そして、 「学校中心型」 は、 日本を含むアジア 5 カ国ともっとも少ない。 ただし、 日本以外の 4 カ国が 「学校中心型」 である理由は、 地域のクラブが未発達なためである。 これらの国では、 たとえば中国や韓国の運動部活動がわずか一握りのエリートのみしか参加していないように、 運動部活動そのものの規模はとても小さい。 青少年スポーツの中心が学校の運動部活動にあり、 かつ、 その規模が大きい日本は、 国際的に珍しい国なのである。
  3. 学校間対抗スポーツの国際状況
     つづいて、 運動部活動を元とした学校間対抗スポーツの国際状況を比較してみよう。 表 2 は、 Saunders (1987、 p.117) が調査した、 アジア・環太平洋地域22カ国の中学・高校段階における学校間対抗スポーツの状況である。 調査項目は 「実施状況」 「生徒の参加率」 「種目の数」 「連盟の数」 「全国/地区大会の有無」 である。
     この表を見ると、 学校間対抗スポーツのそもそもの有無、 そして種類や規模は、 各国で多様であることがわかる。 その中で日本は、 学校間対抗スポーツの機会が 「すべての学校」 で用意され、 「21%の生徒」 がその機会を享受し、 「30のスポーツ」 が提供され、 「30の学校スポーツ連盟」 がそれを支援し、 全国/地区大会が 「有」 る。 「30のスポーツ」 「30の学校スポーツ連盟」 という数は、 この表でもっとも多い数である【2】。 運動部活動を元とした学校間対抗スポーツの状況を見ても、 その規模が大きく、 盛んな日本は、 やはり珍しい国なのである。
  4. 運動部活動の日米英比較
     さいごに、 日米英の運動部活動を比較してみよう。 アメリカとイギリスにも運動部活動はある。 「extracurricular sports activity」 「s c h o o l a t h l e t i c s 」 「 i n t e r s c h o l a s t i c sports」 「varsity sports」 と呼ばれる活動がそれであり、 授業ではなく課外活動として、 放課後や休日に学校でスポーツが行われ、 それを元にして学校間対抗の試合や大会も行われている。 では、 日米英の運動部活動には、 どんな違いがあるのか。 表 3 は、 日米英における中学・高校運動部活動のあり方を 「設置学校の割合」 「各学校の部数」 「生徒の加入率」 「活動状況」 「全国大会」 「指導者」 「指導目的」 の観点から整理したものである。
     順に見ていくと、 三カ国ともほぼすべての学校に運動部活動が設置されている。 日本とイギリスでは、 多数の部を持つ学校が一般的である。 対してアメリカでは、 アメリカンフットボールやバスケットボールなどの代表的な少数の部だけを持つ学校が珍しくない。 また入部に際してトライアウトを設けて、 競技能力により入部希望者を選抜する場合もある。 生徒の加入率は、 日本が約50%〜70%で高く、 イギリスが約50%で続く。 アメリカは、 ほとんど参加しない名目的な部員も含めた加入率は50%に達するが、 それらを除いた実質的な割合は30〜40%であり、 やや低い。 活動状況は、 日本とアメリカは活発で高度に組織化されている。 ただし、 アメリカはシーズン制を敷いており年間を通して活動しているわけではない。 対してイギリスは、 参加生徒の多くは週 1 〜 2 日気晴らし程度に活動するに過ぎず、 活発とはいえない。 全国大会は、 日本とイギリスで有るが、 国土の広いアメリカでは無く、 州レベルの大会で留まっている。 ただし、 アメリカの高校のアメリカンフットボールやバスケットボールの州大会は、 多くの観客を集めるビッグ・イベントである。 指導者は、 関心や経験の有る教師が担う点は、 三カ国とも共通している。 違いは、 アメリカで教師とは別に雇われる専門のコーチも担当する点、 日本で関心や経験の無い教師も担当する点である。 そうした指導者の違いに関連し、 指導目的にも違いが見られる。 アメリカとイギリスの指導者は競技力向上を挙げるのに対して、 日本では第一に人間形成を挙げる。
     これらを踏まえて、 日米英の運動部活動の総括的特徴を対比的に述べると、 日本は 「一般生徒の教育活動」、 アメリカは 「少数エリートの競技活動」、 イギリスは 「一般生徒のレクリエーション」 として、 まとめることができるだろう。
  5. おわりに
     以上を踏まえると、 多くの国で、 青少年スポーツの中心は学校の運動部活動ではなかった。 また、 学校に運動部活動がある場合でも、 規模が小さかったり、 活発ではなかったりした。 そして、 アメリカとイギリスの運動部活動は、 教育活動というよりも、 競技活動やレクリエーションとして行われていた。 こうしてみると、 日本では馴染み深い運動部活動の風景が、 国際的に見れば、 とても珍しいものであることがわかる。 つまり、 日本以外では、 スポーツは教育と別に行われるのが一般的である。 しかし、 日本では、 運動部活動として、 スポーツは教育に結びつけて行われる。 運動部活動の国際比較から見えてくるのは、 スポーツと教育が互いに強く結びつくという日本のユニークな姿なのである。
【注】
【1】本稿は、 中澤篤史 (2011) 「学校運動部活動研究の動向・課題・展望」 『一橋大学スポーツ研究』 30、 pp.31-42. を元にしている。
【2】ただし、 生徒の参加率が21%というのは、 シンガポールの80%やモンゴルの60%に比べれば低い。 これは、 日本では大会以前のそもそもの活動への加入率が非常に高いため、 そこから選ばれた少数のエリートのみしか大会へ選出されないことを示していると思われる。 このように大衆化と競技化が混交した点が、 日本の運動部活動の特徴ともいえる。

【文献】
運動部活動の実態に関する調査研究協力者会議 (2002) 『運動部活動の実態に関する調査研究報告書』
文部省編 (1968) 『外国における体育・スポーツの現 状』 文部省。
Bennett, B. L., Howell, M. L. and Simri, U.(1983) Comparative physical education and sport (second  edition), Lea & Febiger.
De Knop, P., Engstrom, L. M., Skirstad, B. and  Weiss, M. R. eds. (1996) Worldwide trends in  youth sport, Human kinetics publisher.
Flath, A. W.(1987)"Comparative physical education  and sport", 『体育学研究』 31 (4) , pp.257-262.
Haag, H., Kayser, D. and Benett, B. L. eds.(1987) Comparative physical education and sport (volume  4), Human kinetics publisher.
National Center for Education Statistics (2005) Youth indicator 2005.
Saunders, J. E. (1987) "Comparative research in regard to physical activity within schools", in  Haag, H. et al., eds., Comparative physical education and sport (volume 4), Human kinetics  publisher, pp.107-126.
Sport England(2001) Young people and sport in  England 1999.
Wagner, E. A. ed.(1989) Sport in Asia and Africa,  Greenwood press.
Weiss, M. R. and Gould, D. eds.(1986) The 1984  Olympic scientific congress proceedings (volume 10) Sport for children and youths, Human   kinetics publisher.
     
  (なかざわ あつし 一橋大学)

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