公開研究会 「若者支援〜学校はどうかかわるか〜」

 公開研究会に参加して
 
関口 昌幸

 貧困の中で、 家庭に居場所がない若者たちに対して、 学校がどう関わるべきか。 横浜・神奈川でも、 心ある現場の高校教師たちは、 悩み続けている。 県の高校教員を主たるメンバーとする調査研究集団 「教育研究所」 が、 関内で開催した公開研究会 「若者支援  学校はどうかかわるか」 は、 そんな高校教師たちの嘘、 偽りのない率直な声を聴き、 多くの 気づき と 学び を得ることの出来る場であった。

○若者支援団体と高校現場が語り合う必要性
 今回の研究会の趣旨は、 県内の定時制高校など、 いわゆる困難を抱える若者達が多く通う高校の現場で、 若者たちの自立支援をどのように進めて行くのか、 その課題や方向性について、 民間の若者支援団体K 2 インターナショナルの岩本真実さんを招いて、 話を聞き、 語り合おうというもの。 K 2 が高校現場で切り拓いて来た若者支援の実践については、 NHKで番組化されるなど、 様々なメディアで紹介されているので、 私がここであえて、 繰り返し述べる必要もないけれど、 横浜修悠館高校の生徒が、 K 2 と出会うことで、 人生に明るい希望を見出していくエピソードなどを聞くと、 やはりこの団体の持つ支援の底力には、 舌を巻かざるを得ない。 同時に、 心ある人たちとは言え、 教職についている者が、 若者支援団体のスタッフの問題提起を、 しっかりと受け止め、 同じ土俵で、 ここまで語り合えるようになったことは、 凄いことだと思う。 数年前までは、 若者の自立支援に取り組むNPOのスタッフにとって、 教育委員会や学校現場の壁は、 高く、 分厚かったからだ。 例えば、 地域若者サポートステーションが、 高校にアウトリーチをかけようとしても、 「お前らのような部外者 (教育の素人) が、 うちらの生徒に関わるんじゃない」 という排除の空気が、 職員室に充満していなかったか。 それが、 まがりなりにも、 教職員の側から、 若者支援団体に対して、 「話を聞かせて欲しい」 と声がかかるようになったのだ。 逆に言えば、 それだけ、 今の若者たちを取り巻く情況と課題が深刻になっているということなのだろう。

○包括的な支援プログラムの大切さ
では、 この研究会によって、 明らかにされた、 これからの若者支援の方向性とは、 どのようなものか?それは、 教育現場と若者支援団体が共に手を結び、 多様な 「相談者」 と 「居場所」 と 「就労体験プログラム」、 そして 「働く場」 を包括的に提供することなのではないか。 「相談」 という入口から 「就労」 という出口まで、 一貫して、 きめ細やかな支援のプログラムがあってこそ、 若者たちは、 自立することができる。 K 2 が、 全国の若者支援団体の中でも、 稀な存在と言われるのは、 それらのプログラムを全て、 自前で提供できてしまうからだろう。 一方で、 県立田奈高校で取り組まれているように、 様々なNPOや地元企業、 行政が、 教育現場と結びつくことで、 包括的な支援プログラムを提供しようという動きもある。 その意味でも、 横浜・神奈川は、 若者支援の先進エリアだ。 いずれにしろ、 実践のありようは、 それぞれの高校現場の状況に応じて、 多様で、 柔軟であれば、 あるほど良いと思う。

○支援の 「出口」 をどう創るか
 最後に、 こうした若者たちに対する包括的な支援プログラムを進めて行くうえで、 いつも課題になるのが、 出口としての 「働く場」 をどのように、 創り上げていくかだ。 研究会の話し合いのなかでも、 意見として出されていたが、 折角、 育て上げた若者たちの行く先が、 若者たちの人生を搾取し、 命を奪う 「ブラック企業」 では、 あまりにも、 やるせないからだ。 10代後半の若者たちが、 世の中に出て行く際に、 まず 「労働基準法」 を学ばなければならい現実は、 やはり変えて行かなければいけないと思う。 そのためには、 たとえ、 困難を抱えていたとしても、 若者たちが、 生き生きと働くことの出来る場や仕組みを、 社会に、 数多く生み出していくことが必要なのだ。
 グローバル化が進む今の社会経済システムの中で、 困難を抱える若者たちのために、 そのような就労の場を生み出していくことが、 どれだけ難しいかということは、 良くわかっている。 しかし、 一人ひとりの若者たちの、 そして私達の社会の未来を考える時、 高校教育現場や若者支援団体と連携する横浜市のような基礎自治体が、 その事に本気で取り組まなければならないのだと思う。
              
  
 (せきぐち よしゆき 横浜市政策局政策課)

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