特集 運動部活動
部活動に携わって
学校・地域全体で支えたい部活動
 
鈴木 功

  1. 引率責任者は誰が担う
     少々古い話になるが、 平成15年 7 月付けで全国高等学校体育連盟会長より、 各都道府県教育委員会あてに 「高体連各種大会における 『引率・監督』 についてのお願い」 と称した依頼文書が発出された。 この時機会があって、 この問題に関して、 全国高体連事務局と意見交換をすることができた。 依頼文書の内容は簡略化すると以下の通りである。 高体連の規定として、 引率・監督について 従来は 「@引率責任者は当該校の教員とする。 A監督については、 学校長の認めた教職員とする。」 これを改正して 「@引率責任者は、 団体の場合は校長の認める当該校の職員とする。 個人の場合は校長の認める学校の職員とする。 A監督、 コーチ等は校長が認める指導者とし、 それが外部指導者【1】の場合は傷害・賠償責任保険 (スポーツ安全保険等) に必ず加入することを条件とする。」
     全国高体連大会参加規定をこのように変更したので、 各都道府県においても見直しをお願いする、 といった内容であった。
     こうした見直しに至った経緯は、 私立高校からの要請が強くあった。 部活動顧問・指導者の担い手として、 私立では既にかなり以前から、 学校教育法上の 「教員」 以外の職員や卒業生・保護者はもとより、 地域住民まで含めて、 広範な人々によって支えられている実態が先行していた。 このような背景から規定を見直してもらいたい、 といった要望が相当数の県から寄せられ、 規定の見直しを余儀なくされたようだ。
     この後、 各都道府県段階においても多くのところで見直しが図られ、 「教員」 以外の方々も含めた引率が可能となり、 現在に至っている。
  2. 神奈川の先進的部活動支援
     神奈川の現場では、 この見直し問題が他県のように大きく取り沙汰されることはなかった。 既に神奈川では 「部活動嘱託員」 の複数配置や一定の条件や制約の下ではあるが、 「部活動嘱託員」 も含めて対外試合 (公式戦、 練習試合) の引率が以前から認められていたからに他ならない。 現在でこそ、 他県でも 「部活動嘱託員」 (部活動インストラクター) に相当する非常勤職員の配置が広がりを見ているが、 その業務が 「引率」 にまで及んでいるところは、 現在でも数えるほどしかない。  また、 体育センター主催の 「運動部活動における部活動インストラクター育成研修講座」 や県教育委員会主催の 「文化部活動指導者研修講座」 も年間を通して開催され、 研修の充実もはかられている。 こうした部活動支援は、 多様化する生徒のニーズに対応し、 現場からの期待に呼応する形で変遷を重ね、 定着をしている点は評価をしたい。 最近はむしろ学校現場の方が、 この制度を活用することに慎重になっているように思える節があり、 懸念している。 以前から 「学校部外者」 に依頼するといった点では、 受け入れ難いといった学校現場の保守性も起因している。 今後は卒業生・大学生・地域住民等とのコーディネーター役としての職員や再任用者の活用、 「部活動嘱託員」 の服務、 報酬の見直しといった点に関してもさらなる制度拡大に期待したい。
  3. 教諭以外の職員の単独引率指導は問題か
     神奈川県教育委員会は平成24年 5 月 7 日付けで県立高等学校長、 中等教育学校長に対して 「部活動における養護教諭及び実習指導員の単独引率指導について」 通知を発出した。 この通知は、 これまで公式な問い合わせには否定的な回答をしていた養護教諭や実習指導員の単独引率について条件を付してではあるが、 認めようとする趣旨で出されたものであった。 そしてこの通知はなぜか即撤回された。 当局が撤回した通知ではあるが、 実は学校現場では 「通知」 が発出されたことに関して、 皮肉なことに大きなマイナス効果が残ることになってしまった。
     通知の内容は 「部活動における養護教諭・実習指導員の単独引率指導に関する取扱要領」 を定めたということで、 養護教諭と実習指導員が単独引率を認める条件として、 前述した体育センター主催の 「運動部活動指導者研修講座」、 文化部については、 県教委主催の文化部活動指導者研修講座に出席せよ、 というものであった。 通知は直ちに撤回されたが、 問題なのはこの通知を読んだ各県立高校の校長の多くが、 養護教諭と実習指導員の単独引率指導に関して、 県教委は一定の問題意識を持っている、 ということが明らかになったということだ。 現在、 残念なことに従来単独引率が認められていた学校にまでブレーキがかかってしまい混乱を来たしている。
  4. 引率者の選任は校長の専決事項
     この 「単独引率」 問題の背景には、 週休日・休日業務、 多忙化をはじめ様々な要因があげられるが、 基本的にはコンプライアンス上の問題なのだろう。 特に実習指導員に対しては、 全国的にも約半数の県で日常的な指導実績、 経験年数等、 一定の条件を課して認められている傾向にある。 また、 文部科学省も 「引率」 に関する規則をつくるなどして、 設置者が判断できる、 としている。 県教委がこの問題を長年にわたってあいまいにしてきたことは、 部活動支援・活性化推進を先駆的に実践してきた神奈川のとりくみとも大きく矛盾する。 県教委として現実的な判断基準を明確にし、 これらの単独引率指導の場合も校長判断で何ら問題がないことを示すべきである。
【注】
[1] 外部指導者:非常勤講師、 スポーツクラブ指導者、  社会体育指導者、 当該校の卒業生・保護者等で校長の 認めた者とする。    
(すずき いさお 城郷高校教員)

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