学校から・学校へ (VI)

クラスに1人は居る性的マイノリティの自尊感情を高めるための取り組み

星野 慎二

  1. 性的マイノリティ
     性別は一般的に男と女の二つに分類されがちですが、実は、男と女の性別にはっきり分けられるものではありません。性には身体的性の「体の性」、こころで感じる「心の性」、好きになる人の性「性的指向」の3つがありますが、その性は人によってさまざまです。
     多くの人は体の性と心の性が一致していて、好きになる相手は自分と違う性ですが、体と心の性が異なる「性同一性障害」や、同性を好きになる「同性愛」、同性と異性の両方を好きになる「両性愛」などがあります。
     また、自分自身のセクシュアリティを決められない・分からない「クエスチョニング」もあり、人によってさまざまな性があります。こうした性的マイノリティは人口の3〜5%はいると推定され、学校のクラスに1〜2人の割合で存在すると考えられます。
  2. 自分の性的指向に戸惑う思春期
     性的マイノリティは、中学・高校という思春期にいろいろな体験を通じて自らのセクシュアリティに少しずつ気づいていきます。その年齢には個人差はありますが、性同一性障害の場合は身体が大きく成長する第二次性徴期に性別の違和感を感じます。また、同性愛や両性愛は恋愛を経験する中学の時期になんとなく気づき、はっきり自覚するのは17〜18歳のころです。
     この間に多くの性的マイノリティが直面することは、周囲の異性愛者の友達との違いを知り、そのことを誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまうことです。
     苦悩が深刻な場合は、周囲から孤立してしまうことや、自傷行為や不登校になることもあります。
    ゲイ・バイセクシュアル男性の4割が抑うつ傾向であることや、人生で一度以上自殺を考えたことがある割合は65.9%、実際の自殺未遂の経験割合は14.0%という調査結果【1】もあります。
     【1】 http://www.j-msm.com/report/report02/index.html
  3. 孤立した子ども達へのサポート
     SHIPでは2007年度から2011年度まで神奈川県との協働事業により性的マイノリティが自由に集えるコミュニティスペースをオープンしてきました。そして2012年度からはNPO法人化し独自の資金で運営しています。
     主な活動内容は、同じ仲間同士で自由に話をしたり、情報を得ることができるコミュニティスペースを週4日間オープンする他に、セクシュアリティや年齢別に様々な交流会を週末に開催しています。また、臨床心理士による対面カウンセリング、電話相談など総合的なサポートを行っています。
  4. これまでに出会った子ども達から見えること
     性的マイノリティの子どもたちは自らのセクシュアリティに気づいたときに、インターネットでいろいろな情報を得たり、同じ仲間を探そうとします。
     インターネットは性的マイノリティの子どもたちが知識を得たり、同じ仲間に出会うためにとても有用なツールであることは確かです。しかし一方で、自ら情報を探した時に手に入るものが必ずしも肯定的、中立的なものとは限りません。偏った情報を信じてしまったり、肯定的な情報が得られないために、肯定的な将来像が描けなくなり、不安を強く感じる子どももいます。また、同じ仲間と出会えたとしても、傷つくような体験をしてしまう場合もあります。
     それらの問題はセクシュアリティによって異なりますが、ゲイ男性の場合ですと、同じ仲間と話してみたいという考えからインターネットで仲間を探すことが多くあります。その場合、大人からのセックスの誘惑があり、一回限りのセックスの繰り返しや、お金をもらってセックスをする援助交際などで自尊感情が低くなったり、HIVなど性感染症に感染することがあります。
     また、性別に違和感のある性同一性障害の子の場合は、インターネットでホルモン療法などの間違った情報を信じてしまい治療を始めてしまう高校生がいます。ホルモン療法を始めてしまうと基本的に逆戻りができないため、短期間でホルモン療法に進めてしまうのは危険な行為です。
  5. 親の悩み
     ほとんどの子どもは親にも話ができずに悩んでいます。たとえ親にカミングアウトをしたとしても、直ぐに受け入れられるものではありません。
     子どもが自らのセクシュアリティに気づいたとき戸惑いを感じるのと同じように、親が自分の子どもが性的マイノリティであるということを知った時に、ショックを受け、子どもの主張を拒否したり、自分の育て方が悪かったのではないかと自分を責めることがあります。親から受け入れられないことは、思春期の子どもの自尊感情にも悪影響を及ぼしますので、子どもと同様に親のサポートも行う必要があります。
     SHIPでは、親同士で悩みの共有ができる「SHIPかぞくの会」を奇数月に開催しています。
  6. ポジティブな環境づくり
     今まで学校の中では、同性愛や性同一性障害についてはタブー視されてきたと思います。そのことが偏見や差別を生み、当時者の自尊感情を低くしていると思います。
     子どもの自尊感情を高めるために大切なことは、セクシュアリティを理解し尊重することです。そのためには、常日頃からセクシュアリティの多様性について認識を深め、性的マイノリティに対する偏見のないメッセージを児童・生徒に伝えることが大切です。
     図書室や保健室等に性的マイノリティに関する本を置いたり、ポスターを貼るだけでも当事者である子どもにとっては貴重な情報獲得の機会になります。また、日常的に使われている「ホモ」「オカマ」といった言葉で傷ついている当事者が身近にいるということを授業で取り上げることも大切です。
     また、性同一性障害の子ども達が治療に急ぎすぎないためにも、性別の違和感を軽減する取り組みとして、名前の呼び方や制服などを配慮する学校も増えてきています。
  7. 学校の取り組み
     学校の中で差別や偏見を無くすための取り組みとして、教育委員会や学校の人権研修で性の多様性が扱われるようになりました。また、生徒向けの授業も行われており、SHIPではそのようなニーズに合わせていろいろな講演会のプログラムを用意しています。
     生徒向けの授業の一つとして、SHIPから高校生や大学生のゲストスピーカーを派遣し、生徒が5〜6人グループに分かれて当事者のゲストスピーカーと話をする授業を実施しています。

                   
(ほしのしんじ 特定非営利活動法人SHIP代表)

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