●特集 T● 2014年度研究所討論会 講演記録
「雇用・労働の現場を取材して」
東海林 智
  1. はじめに
     みなさん、 こんにちは。 毎日新聞の社会部の記者で東海林といいます。 10年ほど前に横浜支局のデスクをやっていました。 これはほんとにもう過労死寸前の日々でした。 僕はずっと労働問題をやってきたので、 長時間労働がいかに人間の身体に悪いかとか、 どういうことを招くかというのはよく知っていたつもりですが、 僕が横浜支局で 2 年デスクをやっている間、 朝は 8 時ぐらいに出て帰るのは夜中の 2 時でした。 デスクが終わるころには、 僕は過労鬱だったと思います。 もう仕事はしてないと不安でしょうがない。 たまに休みがあるともう朝から泣いているんです。 飯も食えません。 体重も10キロぐらい減ってしまいました。 そういう長時間労働を 2 年間続けてデスクを外れ、 記者に戻ったとたんに食欲も戻って、 日曜日とかパチンコに行くようになり一気に回復しました。
     今あらゆる労働の場面で過労、 長時間労働が広がっています。 今日はたぶん学校の先生が多いと思いますが、 学校現場っていうのは、 ホワイトカラーエグゼンプションじゃないですけども、 労働時間の概念をもう捨てていますね。 東京都のある区の教育長に、 「教員の労働時間長いんじゃないですか」、 「もう時間規制ないじゃないですか」、 「こんなんじゃ教員もうバタバタ行きますよ」、 と話しました。 ところが、 教育長はこう言いました。 「東海林さん、 教育の現場は普通の仕事の現場とは違うんです。 私たちには勤務時間はあっても労働時間はないんです」。 勤務時間はあっても労働時間はない、 まさしく 「労働時間の規制なんか受けない」 と言ってるのと一緒です。 それがまかり通るのが今の教育の現場なのかと思うと、 ちょっと背筋が寒くなりました。
     今日は、 こういう過重労働の現実ももちろんありますが、 とくに若者がどういう雇用の環境にいるのか、 どういう労働の現場で働いているのか、 今の政権がどういうことをやろうとしているのか、 あるいは今やっているのかということをお話したいと思います。
     
  2. 「労働は商品ではない」
     フィラデルフィア宣言というものから話を始めます。 この宣言は1944年にILOが労働に関する根本原則を確認したものです。 この宣言が実現されていない、 むしろ反対の方向に今の日本が動いている、 ここに問題の核心があります。 その宣言の中でとくに重要と思うものを 3 つあげます。
     一つ目は、 「労働は商品ではない」。 これは 「労働力は商品ではない」 という訳もありますが、 僕は 「労働は商品ではない」 という方を採用しています。 資本を持たない労働者は自分の労働力、 あるいは労働を売って飯を食うしかないわけです。 しかし、 その働くという行為、 これが商品のように扱われてはいけない、 人が尊厳を持って働くということを忘れるな、 そういう意味で 「労働は商品ではない」 ということを宣言している。 こう僕は解釈しています。
     二つ目、 「表現及び結社の自由は不断の進歩のために欠くことはできない」。 これは労働組合と捉えてもらってもいいと思います。 労働組合をつくり、 声を上げていくこと、 これが進歩のためには欠かせない、 労働組合もなく、 声もあげられないような雇用社会では進歩はないと言っているのです。
     三つ目、 「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」。 貧困を見逃してはならない。 自分とは関係のないことだと言ってそれを放っておいたら、 将来自分のもとに帰ってくる、 あるいは社会全体が危険な方に歩んでいく、 このことを言っているのです。
     今言った 3 つが若者の直面している雇用の問題と重なってくるわけです。 このあと詳しくお話ししますが、 派遣法の改悪、 非正規雇用の急増、 そんな中で人が商品のように扱われている。 そして若者は、 何が原因とはここでは申し上げませんが、 なかなか労働組合に結集できない、 声を上げることができない、 そういう中で不満や不安を抱えているということです。 そして貧困、 低賃金で使い倒され、 若者の半分はワーキングプアです。 若年労働者の賃金が低いのは昔からですけども、 それでも働いて飯が食えないという状況ではなかったわけです。 今はちゃんと働いても飯が食えないという状況が生まれています。 この問題意識を持って、 若者の雇用、 今の働き方を見ていきたいと思っています。
     ここで非正規雇用について話します。 僕は若者に取材をして思いますが、 意外にこの非正規雇用を若者がわかってなかったりします。 ひょっとすると学校の先生も誤解しているところがあるかもしれません。 あらためて非正規雇用についておさらいします。 正規と非正規雇用のどこが違うのか。 正社員というものは別に法律に定めはありません。 だから法律に基づく解釈ではないのですが、 正規と非正規を分けるものは一般的には契約期間です。 正規雇用は期間の定めのない契約、 定年まで勤められるという契約です。 それに対して期間の定めがある契約、 半年更新であるとか3か月更新であるとか、 最近はどんどん短くなって1か月更新なんていうものも多いですけども、 そういう短い期間の契約を繰り返すのが非正規、 と大くくりに分けることができると思います。 パート、 アルバイト、 契約社員、 派遣社員、 これは全部非正規労働者にくくられる働き方になります。
     派遣社員に関して言うと、 常用型派遣というかたちがあります。 常用型派遣というのは、 派遣元ですね、 派遣会社と1年以上の継続を見込まれる契約を結んでいるのが常用型派遣と言われます。 一部で 「常用型派遣は無期雇用だから正社員なんだ」 という人がいます。 しかし、 例えば 「半年更新を3回やります」 と書いてある場合、 これは常用型になるわけです。 たしかに1年を超える契約が見込めるわけですが、 これは正社員ではない。
     そして正規と非正規の間には、 賃金格差があります。 だいたい、 正社員の半分、 よくて60から70%の間ですね。 この賃金格差をつける理由として経営者が言っていることは、 正社員は異動もあるし、 場合によっては長時間の残業もやると、 いろんな部分で会社に従う縛りが大きい、 だから正社員はそういう賃金になる、 それに対して非正規は異動もないし、 ずっと使う社員ではなから賃金は安い、 ということを説明しています。 これは世界的な流れである同一労働・同一賃金という立場からまったく反対の考えです。 正社員は毎年賃金が上がり、 もちろん定期昇給制度がない正社員もいますけども、 基本的には毎年いくばくか上がっていく、 そして退職金もつきます。 これに対して非正規労働者は何年たっても基本的に賃金は上がらない、 もちろん経営側が他社との競合を考えて突然上げたり、 恩恵的に上げたりすることはありますけども、 基本的に何年つとめたから上がっていくという制度は非正規にはありません。 もちろん退職金もありません。 もちろんボーナスもありません。 ボーナスは会社によっては寸志という形で渡すとこはありますけども、 正社員の10分の 1 とかいうのがせいぜいです。
     こうした違いがあることを、 数年前までは自己責任という言葉で片付けていたんです。 「非正規が非正規をやるのは自己責任ではないか、 自分で選んで何言ってるんだ。 そのような自分で選んだ、 あるいはその人が努力しなかったから非正規でいるんだろう。 努力不足だよ」。 こいうことが平然と語られていました。 でもそれは一方的な見方であるということは次の数字を見ればわかるでしょう。 非正規労働者で働いている人の60%以上が女性なわけです。 15歳から23歳までの若年者でも約半分が非正規労働者で働いています。 この二つの数字を見た時、 それでも自己責任といえるかということです。 女性の 6 割が非正規で働いている、 それは女性のせいなのか。 女性が自ら選んで非正規で働いているのでしょうか。 若者の半分が非正規で働いているとき、 それを選んでいると言えるのでしょうか。 若者、 女性は非正規を選ばざるを得ない雇用状況になっているということです。 能力不足、 本人の努力不足、 本人の趣味、 そういう言葉で片付けることはできません。
     もちろん悪意はないと思いますけども、 ある高校の進路指導の先生は、 「お前このまま勉強しないと非正規しか仕事がないぞ」、 というふうに言うわけです。 それは生徒に叱咤激励するという意味だというのは理解していますが、 「勉強しないから非正規になる」 という言い方が引っかかります。 若年雇用の枠がものすごく絞られているという実態がまずあるわけです。 そして知識のない若年労働者に付け込んで、 長時間労働を強いて、 パワーハラスメントをして無理やり働かせ、 残業代もろくに払わないようなブラック企業がはびこっています。 だから高校では、 これから働く生徒たちに、 職場で役に立つ法的な知識、 自分を守る知識、 それを教えてほしいと思っています。 最初から注文つけて申し訳ありません。 不利な雇用条件の不安定な雇用、 非正規雇用を多くの若者が押し付けられているということ、 そしてそれは自己責任だけでは説明がつかない事態だということ、 これを最初に申し上げておきたいと思います。
  3. 政府の雇用政策を見る
     あともうひとつお話しします。 これも若い人の雇用にものすごく大きな影響が出てくると思われる話です。 限定正社員制度っていうのを知ってますでしょうか。 これも安部政権で出てきました。 これは慶応大学の先生で、 規制改革会議雇用ワーキンググループの座長である鶴光太郎さんが言い出したことです。 簡単に言うと、 正社員と非正規の間に、 限定正社員という階層をつくろうという案です。 正社員ほど安定はしていないけど非正規よりは安定している。 今正社員と非正規の二極化がはなはだしい、 だから限定正社員というミドルをつくる必要がある、 そして非正規を限定正社員に引き上げていこう、 と彼は説明しているわけです。 では限定とは何か。 地域、 職種、 労働時間、 これらの限定のある人を限定正社員と言います。 何とかスーパーの南区にある店だけで働きます、 他の港北区とかそういうところに行きません、 というのが地域限定社員です。 魚売り場の刺身を盛りつけるそういう仕事だけをします、 あるいは魚をさばくとか加工だけの仕事をします、 というのが職種限定社員です。 自分は介護をする親を抱えているので 1 日 8 時間以上は働けません、 残業できません、 あるいは 8 時間よりもっと短い 6 時間しか働けません、 という限定があるものが労働時間限定社員です。 これを限定正社員としましょうという案です。 限定はあるが、 定めがない契約で働くから、 一応安定しているわけです。 地域、 職種、 労働時間などの限定が付くから、 賃金は正社員より安いわけです。 もう一つ言うと、 地域限定、 職種限定だから、 例えばスーパーが南区から撤退します、 南区からもう店を出しませんとなった場合、 そこから店がなくなったから、 もう解雇されても仕方がないということになります。 お刺身を作っている労働者に対して、 今度うちの店では自動お刺身製造機っていうのを導入することにしましたから、 あなたの仕事はなくなったので解雇します。 けっきょく、 安くて解雇もしやすい、 それが限定正社員です。
     この限定正社員というのは誰がなるのでしょうか。 さっきの話で言えば、 正規と非正規の二極化を解消するのだから、 非正規労働者が限定正社員になっていく、 という説明でした。 新しい労働契約法では、 非正規でも同じ職場で 5 年以上契約を更新して働いた人、 5 年過ぎた人には 6 年目の一日目から無期転換権というのが発生します。 つまり 5 年以上同じ職場で働いたら 6 年目から期間の定めのない雇用に変えてくれという権利が労働者に発生します。 それを申し込まれたら経営者は拒否できません。 だから有期のアルバイトが 5 年過ぎたら期間の定めのない無期のものに変わっていく、 そういうものが限定正社員になっていきます、 と鶴光太郎さんは説明しました。 でもこれは大ウソです。 安部政権が雇用特区という戦略特区構想を出しました、 その中で雇用特区っていうのを提案したのですが、 政府は有期労働者の 5 年で無期転換する権利を雇用特区では無効にすると言いました。 特区というのは国がこれからやりたいことをやるところです。 そこで彼らは 5 年間無期転換権を無効にすると言ってるわけです。 ですから非正規が限定正社員になるのは、 ごくまれなケースということになるでしょう。
     ではどういうふうに限定正社員が生まれるのでしょうか。 おそらくこういうことです。 正規、 今の正社員の中から限定正社員というものにしていく。 例えば学校の先生で言えば、 今勤められている校区ですね、 いろいろあるでしょうけど校区の限定教師にされちゃうわけです。 もう一つの道としては、 新規学卒者です。 採用に二つのコースをつくります。 限定正社員コースと無限定正社員コース、 に分けてしまいます。 こうして限定正社員というミドルを増やしていこうとしているわけです。 すでに日本郵政はこの春から限定正社員を採用し始めました。 新一般社員という名前で。 新一般社員というのは、 地域限定、 例えば、 横浜の南区の郵便局に勤める労働者で、 南区の中だけで異動する労働者、 年収は460万円頭打ち、 局がなくなったら仕事もなくなる、 そのように言われる契約です。 この460万円というのは最高到達点です。 60歳の定年になるまでの長い人生の中で最高到達点が460万円ということです。 ご丁寧にも新一般社員の規定の中には、 「管理職登用は絶対ありません」 と書いてあるわけです。
     では郵政では非正規から限定正社員というケースはあるのか、 鶴光太郎さんの、 非正規から限定正社員に上げるという言葉を信じるならば、 郵政においてもそれがおこるはずですけども、 今年郵政が新一般社員を採用した際、 非正規から限定正社員に上がった人は 1 %ぐらいでした。 募集するって言っておきながら 1 %です。 郵政の非正規は49%、 正社員は51%です。 その中で今回 1 %しか非正規から限定正社員には上がらなかったのです。 そこで組合は聞きました。 鶴光太郎さんは非正規問題を解決すると言っていた、 そのための限定正社員ではないか、 限定正社員という制度を日本郵政が取るのであれば、 この51対49という割合はどのように変わるのですか、 と。 ところが会社側はこの割合を変えるつもりはありません、 と答えています。 非正規は非正規のままです。 非正規のボトムアップなんかないのです。
     今年の就職状況を見ていると人手不足があって、 今朝の朝刊に僕も書きましたけども、 かなり就職の状況はいいんです。 しかしそれは一時的なものにすぎません。 今どんな雇用状況に向かっているかはあきらかです。 鶴光太郎さんはもうひとつ恐ろしい言葉をつくりました。 限定正社員に対し、 限定でない正社員、 この人たちを無限定正社員と呼ぼう、 と。 無限定正社員なんてものはおよそこの世に存在しません。 なぜかというと労基法があるからです。 何時間働かせてもいい、 どこへでも行かせ、 何をやらせてもいい、 そんな労働者は存在しません。 労働契約法もあります。 でも彼はそれをあえて限定正社員がいるんだから、 無限定正社員もいるはずだと言うのです。 いつの間にか正社員を無限定正社員だと規定するわけです。 この無限定正社員はホワイトカラーエグゼンプションに重なります。 無限定正社員というのは、 残業代ゼロ、 過労死促進のホワイトカラーエグゼンプションだということです。 死ぬまで働く労働者、 安くて不安定な労働者、 どこまでも流れていく労働者、 これを彼らは目指しているわけです。 意図は見え見えです。
     今提案されているホワイトカラーエグゼンプションは年収1000万円以上、 専門職の人を対象にすると言っています。 この人たちを、 1 日 8 時間、 週40時間と労働基準法に定められた労働時間規制から外すわけです。 労働時間規制から外されるわけですから、 残業という概念がなくなる。 だから残業代ゼロと言われます。 これは深刻ですけども、 より深刻なのは何時間でも働かせ放題ということです。 もちろん自分の意志で働くという説明になっています。 ホワイトカラーエグゼンプションは自分で労働時間を判断できる者が対象だから、 長時間労働を強いるものではないと言っています。 しかし、 今の日本の働き方の中で、 管理職であっても自分で自分のノルマを決めてその通りできる人はほとんどいません。 次々と仕事は来ます。 昨日10時間働いたら今日は 2 時間しか働かないとか、 そんなことが自由に決められるわけがありません。 際限のない労働に追い込まれていきます。 これがホワイトカラーエグゼンプションです。 命の危険があります。 このことを僕らは何度も指摘しているのです。 そうすると厚労省は、 「それは長時間労働対策でやる」、 と言います。
     さらにおかしいと思うのは、 今言った1000万円以上、 専門職という対象です。 この1000万という金額に意味はありません。 1000万以上収入がある人は不死身でしょうか、 体が丈夫なんでしょうか。 そんなわけないです。 1000万越えても人は人、 体が壊れないという保証はないのです。 意味があるとすればこうです。 1000万越えた人、 専門職だけが対象、 そうすると400万とか600万の労働者、 普通のサラリーマンは思うでしょう。 「ああそうか、 俺らには関係ないんだな」、 「1000万ももらっている人は残業代ぐらいなくてもいいよね」、 「1000万もらっている人は、 ちょっとは働いた方がいいんじゃない」、 と。 労働者分断のための数字です。 1000万なんていう数字はあっという間に下げることができます。 僕たちはもう派遣法で経験しました。 労働者派遣法がたった13業務から始まったのが、 いつの間にか全業務に拡がりました。 そして臨時的一時的という根本原則まで崩そうとしています。 1000万で専門職の人だけですよと始まっても、 1000万が 800万になり 800万が 600万に600万が400万に、 400万になったらもう全部です。 ホワイトカラーエグゼンプションというのは労働基準法、 働く上での最低限の労働条件をなし崩しにするものです。 労働者を守る法律は骨抜きにされようとしています。
  4. 最後に− 『15歳からの労働組合入門』 から−
     もう時間がありません。 ほんとは若者がどんなふうに働いているか、 どういう状況にあるのかということを話したかったのです。 でも、 若者がこれから労働者を守るルールがなくなろうとする雇用社会の中に入っていくのだということをぜひ知っていただきたいので、 大きな雇用政策の流れをお話しさせていただきました。 現在の若者の厳しい状況とか、 ネットカフェ難民の話とか、 これは後の討論の部分で時間があれば話したいと思います。 また、 今日 『15歳からの労働組合入門』 という本を持ってきました。 タイトルから労働組合の本だと勘違いしている人が多いのですが、 中身はルポルタージュです。 若者がどのように働かされているのか、 どういうふうに立ち上がっているのか、 そんな話がここに書いてあります。 たとえば、 連合系の組合の話ですが、 ガソリンスタンドの倒産争議を闘って自主再建した話とか、 若者なりに闘っている話などが書いてありますので、 ぜひお読みください。
     とくに読んでほしいのは、 あの派遣村があった2008年末の話です。 あの年末、 日比谷の派遣村には500人を超える労働者が居ました。 その労働者を連合、 全労連、 全労協、 いろんな労働組合が支えて、 ともに飯を食って生活再建の場をつくっていきました。 しかしあの派遣村に来たのはほとんどが男性労働者です。 派遣労働者の 6 割以上が女性なのに、 あそこに来たのは男ばかり、 504人のうちに女性は 3 人だけです。 もちろんあんな男ばかり 「うわーっ」 とやってるところに女性はなかなか来られません。 そういうこともありますが、 あの年をほんとに死ぬ思いで生き抜いた派遣の女性たちがいたのです。 12月の中旬くらいからいろいろ取材を重ねる中で、 女性派遣労働者がどんな悲惨な目にあっているのか、 何となく想像はしていたのですが、 あまりにも生々しいので取材もちょっと躊躇するほどでした。 たぶんその間の女性派遣労働者のことを書いた記事はほとんどないはずです。 あの年から何年か取材を続ける中で、 女性の派遣労働者たちがようやく口を開いてくれました。 こっちも聞きづらいことを聞きました。 最後は体を売るかどうかの世界です。 そこも含めて書きました。 何で読んでほしいかというと、 彼女たちが今回取材に応じてくれたのは、 今ここで自分たちが自分たちのあの時の体験を語らなければ、 2008年は派遣村だけで終わったことになってしまう、 女性労働者たちはこうやって生き延びたということを知ってほしい、 そういう思いで僕の取材に応じてくれたからです。
     この本では組合の重要性を書いています。 「もはや労働組合がなければ生きてはいけない」 とまで書きました。 労働組合が労働組合として機能することが、 今後の日本の雇用社会の中で労働者が人として人らしく生きていくために欠かせない、 僕はそう認識しています。 これを最後の締めにしたいと思います。 どうもありがとうございました。

     
 (とうかいりん さとし 毎日新聞記者)

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