●特集 U● 研究所独自調査
「教員の意識調査」インタビュー調査の分析
大島 真夫
  1. 変動期における教員の意識
     神奈川県の高校教育はこの10年ほどの間に大きく変化してきた。 総括教諭や企画会議といった新しい学校運営体制の仕組みが導入され、 団塊の世代の退職にともなう教員の世代交代が進んだ。
     こうした変動期において、 教員は日々の仕事についてどのように感じ、 学校を取り巻くさまざまな制度に対してどのような意見を持っているのだろうか。 こうした関心から、 教育研究所では 「教員の意識調査」 と題して 2 つの調査を続けて実施した。 すなわち、 2012年のアンケート調査と、 2014年のインタビュー調査である。 アンケート調査の結果を利用した分析については、 本誌 『ねざす』 51号に中間報告という形で既に発表させていただいている。 本稿は、 その続編としてインタビュー調査に関する分析を報告するものである。
  2. アンケートとインタビュー
     読者の中には、 調査方法が異なるとはいえ同一テーマで立て続けに 2 度も調査をするのはなぜなのかと疑問に思われる方がおられるかもしれない。 その疑問に対する私なりの回答はこうである。
     意識調査を行う際、 代表的な方法としてはアンケートとインタビューの 2 つがある。 これらは、 それぞれに長所と短所をあわせ持っている。
     アンケートの長所は、 その簡便性である。 定まった質問文を利用することから、 インタビューと比べると簡単にかつ大規模に調査を実施することができる。 たとえば、 「総括教諭制度に賛成ですか、 反対ですか」 という質問文でアンケートを実施すれば、 賛否の分布はたちまちに判明する。 ちなみに2012年実施のアンケート調査では、 賛成が 9 %、 反対が66%、 どちらとも言えないが25%であり、 神奈川県では反対が多数を占めていることがわかった。
     他方で、 アンケートは質問文が定まっているがゆえに、 回答者の個別具体的な事情にまで踏み込んで物事を明らかにすることは難しい。 これが短所である。 66%もの教員が反対しているという情報は確かに興味深いが、 総括教諭制度の是非を考えるときにより重要なのは、 反対という判断に至った経緯や理由である。 新制度が導入されて以降、 おそらくは予期せぬ出来事や混乱などに巻き込まれる中で多くの教員が反対という判断に傾いたのではないかと推測されるが、 学校の状況は細かく見ていけば千差万別であり、 アンケートのような型にはまった質問文では状況を明らかにするのが難しい。 そこで有益なのがインタビューである。 インタビューには個別具体的な事情を丁寧に聞き取ることができるという長所があり、 まさにこのような場合にうってつけの方法である。
     アンケートとインタビューを併用することのメリットはここにある。 アンケートの短所を補うためにインタビューを実施する。 本稿でも、 まずアンケート調査の結果を振り返り、 そこでは十分に明らかにならなかった点についてインタビュー調査をもとに考察していく。
  3. 世代差と職位差
     では、 インタビュー調査の分析に入る前に2012年のアンケート調査の結果を振り返っておこう。 本誌51号では総括教諭制度に関連した 2 つの項目について次のような分析を行った (図1、 詳細は 『ねざす』 51号23〜28頁を参照)。
      「学校運営にかかわっている感じがしない」 と思っている人は回答者全体のうち58%で、 肯定派と否定派はほぼ半々の状況である。 また、 「職員会議での議論が尊重されていない」 と感じている人は76%で、 これは肯定派が圧倒的に多い。
     そこで、 どういう人がなぜ 「学校運営にかかわっている感じがしない」 と思っているのか (あるいは思っていないのか)、 「職員会議での議論が尊重されていない」 と多くの人が感じるのはなぜなのか、 という問題を考えるために、 本誌51号では世代別・職位別の分析を試みた (図 2)。 20〜30歳代で総括教諭だった方はアンケート回答者の中におられなかったので図 2 に示したような 3 分類となっているが、 世代や職位によってだいぶ感じ方が異なっていることがわかる。
     世代や職位によるこうした違いを生み出す要因として、 本誌51号では次のようなことを仮説的に示した。 すなわち、 総括教諭制度をはじめとした学校運営の新しい仕組みが、 40歳代以上の総括教諭でないベテラン教員の当事者意識を奪っているのではないかということである。 一般的に言って当事者意識が薄れると仕事に対するモチベーションを保ちにくくなるので、 組織としては非常に危機的な状況と言える。
     実際のところ、 世代や職位によって総括教諭制度のとらえ方が異なるのだろうか。 以下ではインタビュー調査の結果をもとに検討をしたい。 なお、 インタビュー調査は18人に対して行われ、 その世代別・属性別の分布は表 1 の通りである。
  4. 総括教諭の選び方が問題
     40歳代以上の総括教諭でないベテラン教員の間で当事者意識を弱めてしまう人が多いとしたらそれはなぜだろうか。
     40歳代のP教諭は、 総括教諭制度の導入が職場における教員間の人間関係を分断していると指摘する。 「分割統治 (管理職/総括/教諭の分断など) が職場の関係を阻んでいる。 一致してあたれないことのマイナスが大きい。 職員室にいない校長には職員の雰囲気がわからない。 相談してくれたらみんなで考えるのにと感じる。 (生徒という) 同じ対象にあたる集団として機能しにくくなっている」 とP教諭は述べ、 さらに職員会議については 「話し合いがなくなった」 と指摘する。
     ただ、 企画会議でどの程度決まってしまうかは学校によって差があるようだ。 最近勤務校が変わった40歳代のC教諭は 「この学校はましな方。 (前任校) では総括教諭と企画会議で全部決まっていた。 ここは職員会議で誰でも発言できる」 と述べている。
     しかし、 職員会議での発言が比較的容易な学校においても問題がないとは限らない。 C教諭と同じ勤務校である50歳代のA教諭は、 同校の総括教諭制度に対して批判的である。 「企画会議があるのは仕方ない」 としながらも、 「企画会議が機能していない。 総括 (教諭) の登用の仕方に問題がある。 手を挙げさせてくれればいいのに」 と評価する。 どういう基準で人選が行われているか不明瞭であると、 たとえ職員会議で発言ができたとしても結果としてP教諭が言う 「分断」 が生まれ、 学校運営に関わっている感じが低下してしまうのではないだろうか。 こうした事態を防ぐには、 A教諭が述べるような 「総括=リーダーでなくともいい。 グループのリーダーは互選すればいい」 という指摘が非常に説得力を持つ。
  5. 総括教諭自身が感じる問題点
     次に、 現に総括教諭を務めている人々は総括教諭制度をどのようにとらえているのかを見ることにしよう。
     40歳代のE総括教諭は、 学校運営に 「自分は関わっている」 と思っているが、 それでも総括教諭制度に問題なしとはしない。 「企画会議で議題が整理されスムーズにはいくが、 意見をたくさん聞く場が減っている感じがする。 グループになると少人数の話し合いで話がまとまるが、 違う立場の人の意見を聞く機会がない。 まとめやすくはなっているが、 「そういう考えもあるんだ」 という機会が減った気がする」 というようにメリットと引き替えに犠牲になっているものがあることを指摘している。
     40歳代のG総括教諭は、 総括教諭制度や企画会議は 「個人的には必要ないと思います。 トップダウンは教育の現場にふさわしくない」 と述べる。 また、 職員会議についても 「基本的にほとんどの案件が 「報告事項」 ということで、 修正案が出しにくくなっている」 と指摘し、 「企画サイドの意見が前面に押し出され、 職員のモチベーション低下にもつながっている」 と評価している。
     50歳代のB総括教諭は、 総括教諭とそうでない教諭との間の生じている分断が深刻であることを述べている。 「総括制度が入ってきて、 みんなの気持ちが一つになりにくくなった。 無理矢理総括を作っている。 やりにくいことがあると総括がやれと言われ、 説明してやりましょうと言ってもやってくれないし意見も出してくれない」 と述べ、 分断が生じていることが、 総括教諭にとってしんどい状況を生み出している様子がうかがえる。
     アンケート調査の結果を見る限りでは、 教諭と比べて総括教諭は学校運営に関わっている感じを持っている人が多い傾向にあった。 しかしこのことは、 「学校運営に関わることができてモチベーションが維持できている」 というハッピーな状況を示しているわけでは必ずしもない。 B総括教諭の証言は、 そのことを如実に示している。
  6. 総括教諭制度が所与の世代
     次に、 20〜30歳代について検討しよう。 図 2 で示したように、 20〜30歳代では40歳代の教諭と比べると学校運営に関わっている感じがする人の割合が多い傾向にある。
      「(学校運営に) 関わっていないと感じる。 与えられた仕事をやっているだけだと感じる」 と述べる20歳代のQ教諭や、 「学校運営に自分が関わっているのか疑問がある」 と述べる20歳代のT教諭のように、 学校運営に関われていないと述べるケースも見受けられるが、 一方で学校運営に関わっているとする回答もあった。 20歳代のJ教諭は 「グループの仕事をしているときには (姉妹校訪問など)、 そこそこ感じる」 と述べ、 20歳代のH教諭は 「クラス担任や部活動」 をしているときに学校運営に関わっていると感じると述べていた。 若年世代ではこうした日々の業務をこなすことで学校運営に関われているという感じが生じていることがうかがえる。
     その一方で、 職員会議に対する評価は厳しいものが多かった。 学校運営に関われているとするH教諭やJ教諭ですら、 「議論が少ない」 (H教諭)、 「協議事項が少ない。 先生の机上にプリントをおけば済む話もある」 (J教諭) と述べ、 職員会議のあり方に批判的である。 また、 20歳代のM教諭は職員会議を 「資料があって、 説明があって、 それを聞いている会」 と評価し、 「(総括教諭制度や企画会議があるせいで) 職員会議が意味ないのかなと思う」 という見解を述べている。 同様に、 20歳代のS教諭は 「開催する前に企画会議でほとんど決まっている。 意味があるのだろうか」 と述べ、 「職員会議前に調整があって議論が少ない」 と不満を述べている。
     また、 特に20歳代の意見の中で興味深かったのは、 採用時からすでに総括教諭制度が存在していたのでそれらはあるのが当たり前だというものであった。 M教諭が述べるように、 「それ (総括教諭・企画会議) がない状態を知らないので、 いま、 それらがあってうまくいっているのならそれでよいと思う」 というのが代表的な例である。 ただ、 すでに存在していたものであってもそれがうまく機能しているかどうかを批判的に検討する、 という観点も同時に見られた。 H教諭は、 「すでにこの制度 (総括教諭・企画会議) はあるので、 そういうものだと思っていた」 と述べる一方で、 「リーダーは必要だと思うが、 こちらの意見をすくいあげてくれているのかなと思う」 という疑問を同時に投げかけていた。 20〜30歳代の教員が、 教員生活を重ねてさまざまな経験を批判的に検討する機会が増えてくるにしたがって、 学校運営に関われているという気持ちに変化が生じることは十分に考えられる。
  7. 次世代の育て方
     学校運営に関われているかどうかというのは現在進行形で行われている仕事の良し悪しに影響を及ぼす問題であるが、 インタビュー調査の回答に目を通すと、 将来を担う次世代の育成について懸念を示す声が総括教諭の意見の中に散見された。 「学校現場には多様な意見が存在することを知ることが重要だ」 という点で、 それらの意見は共通している。
     G総括教諭は、 「以前は、 懇親会 (飲み会) やスポーツ交流などを通して、 いろいろな先生方と意見交換をすることができた。 校長や教頭とも良好な関係を築けていたので、 いろいろなアドバイスをもらうことができ、 素直にその指導・助言に従うことができた。 現状はそうではなくなってしまったのがとても残念である」 と述べる。 同様にE総括教諭も 「若い頃の方が、 時間はかかったけれど平場の会議でいろんな話が聞けて勉強になり、 職員会議で議論が紛糾することもあったが、 今はそれがなくなった」 と述べ、 多様な意見を聞く機会が減少していることに問題を感じている。
     B総括教諭は、 自身が 「若い先生を育てる立場だ」 という認識に立って、 「(中間管理職などが無い) 平らな方が育つ。 皆がリーダーを経験する中で支えあうとか、 いろんな人がリーダーをすることで支え方も変わってくるのがわかる方がよい」 と述べている。 ピラミッド型の組織を構成して管理職や総括教諭が責任を持って仕事を進めるやり方は、 問題の発生を減らすという点ではなにがしかの効果があるのかもしれない。 しかし、 その代償として若年世代の教員が失敗を経験しながら育っていくという機会が奪われているのだとしたら、 それは本当に良いことなのだろうかという疑問も生じてくる。
  8. 昔には戻れない?
     インタビュー調査の結果に目を通すと、 アンケート調査では明確にできなかった細部の事情が見えてきた。 世代や職位によっておかれている状況は異なり、 結果として総括教諭制度に対する感じ方や考え方も異なっている様子がうかがえた。
     実は、 先般の学校教育法の改正によって、 この 4 月から大学でも教授会の位置づけが大きく変わり、 学長によるトップダウンの運営が行われるようになっている。 教授会における審議事項はほとんど消えて無くなった。 高校現場から何年か遅れて大学にも問題がやってきたわけで、 今の高校の姿は何年後かの大学の姿でもあるのかもしれないと感じている。
     私にとって今回の調査が示唆的であったのは、 組織の変更は組織内での人材養成にも影響を及ぼしうるという点であった。 ピラミッド型の組織を目指す方向性が変えられないのだとしたら、 昔を懐かしむのではなく、 新しい組織において何をすべきかを考える必要があるのかもしれない。 多様な意見の存在を認めて自由闊達な意見交換が可能な雰囲気を作り、 仲間で支え合いながら若手人材を育てる方法はいったいどういうものなのか考えていく必要があるように感じた。
 (おおしま まさお 教育研究所員)

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