●特集T● 「止まらない多忙化、その行き着く先は・・・」
公開研究会報告(小・中・高校の現状から)

 学校における教職員の多忙化が指摘され、その対策が打ち出されているにもかかわらず、現実的には多忙化は解消されていません。むしろ、夥しい量の書類・点検・事故防止の名の下に、教職員の仕事量は増え、忙しさが増している状況です。
 先の教育研究所アンケートでは、多くの教員が「教材研究の時間が足りない」と訴えています。この状況の行き着く先は、まさに教育の質の低下、さらに「教育のブラック化」ではないでしょうか。
 本公開研究会では小中高校の状況を報告していただいて、多忙化の問題点をあぶり出し、その解決へ向けた議論を深めたいと思います。

以上の趣旨をもとに行われた公開研究会は、小学校からはN先生、中学校からはS先生、高校からはK先生にそれぞれの教育現場について語ってもらい、その後、フロアーも交えて質疑応答を行った(内容は要旨)。
 教育研究所
小学校の様子
 小学校では現在、就学援助事業が問題になっている。今までは該当者のみの書類提出だったが、これが全員提出になってしまった。個人情報ということで封筒に入れて全員に出してもらい、教員は内容のチェックをし、書き漏れがあった場合は差し戻して出してもらう。申請をする場合は源泉徴収書・課税証明書などを用意してもらい回収する。これらすべてが教員の事務作業になっていて、負担がある。チェックに夜9時・10時までかかる。行政の方で外部委託してもらえないかなと思う。
 給食の会計も大変である。通帳に落ちていればいいのだが、誰が未納なのか、準要保護なのか要保護なのか、返金するのかしないのかなどの事務仕事で、毎月その時期になると深夜までかかる。もともと教員になる前に会計の仕事をしていたので何とかなるが、そうではない先生方は負担になると思う。担任の先生は保護者に「いつ払ってくれますか」とか請求しなくてはならないので、担任と保護者の関係もよくなくなると思う。電話も取ってくれない保護者もいる。
 就学時健康診断も自分たちでやるが、医者じゃないのにやっていいのかなと思う。受付から検査までやっている。修学旅行・卒業式の会計処理もある。学校が請求すると、学校だから払わなくてもいいだろうと思っている親もいる感じがする。また、衛生士ではないのに児童の歯のチェックもして、親御さんに連絡しなくてはならない。日直があり、全部の教室を目視し、鍵・窓しめもする。5時以降の仕事である。ワックスがけや扇風機やカーテンをはずしたり、机の搬入もしたりする。
 前の学校の話だが、そんな状況のなかでも管理職は無理矢理に研修を入れてくるので、とても困る。教師は教えるということに徹することができないのかと思う。

中学校の様子
 生徒が1クラス40人、41人といるので、多忙化を促進している。教員の数を増やしてくれると何とかなるだろうが、それも叶わない。私は26時間の授業をやっている(当校では平均は22時間)。ほとんど空き時間がないので事務作業は終わらない。それゆえ、放課後にやるが、放課後は部活をやるため、7時8時まで学校にいる。これに朝練が加わるので、大変である。私の場合はこれに加えて初任研の仕事もしている。出張も多いが、基本的には自習時間を作らないので、授業の入れ替えをする。さらに空き時間がなくなる。
 土日も部活で休めない。4月から数えて学校に行かなかった日は、土日もいれて今日まで5日だけである。生徒指導が多発する中学校では、校舎巡回も出てくる。授業が増えているのに教員の数が増えないので、持ち時間が増える
 。最近は学習支援が必要な生徒の増加に伴う取り出しや学習室登校の生徒への対応が増加したと思う。また、インターン制度による学生の受け入れによる負担も増加している。そんなシステムが勝手につくられ、実際は学生の後始末などをしなくてはならない。
 校務支援システムも大変。今までのデータが校務支援システムに合致していないとうまくいかない。校務支援システムになると、いろいろなことが解決するよって言われているが、解決しない。今の業務を教員で全部やるのは無理がある。地域の人に手伝ってもらうことが必要だと思う。

高校の様子
 進学重点校も最近は多忙化している。進路行事として、勉強合宿、土曜講習、夏期・冬期・春期講習、OB・OGによる進路学習会(職業人、大学生それぞれ1回)など様々な進路行事を行っている。生徒の夢を実現するための履修指導、個々の希望を最大限反映させるための時間割編成に多くの時間をかけている。グローバル人材育成のために参加型学習を取り入れた授業の改善、学校外からも多数を招いての公開授業研究会、生徒自身でテーマを見つけて研究し発表する総合的な学習の時間、英語即興型ディベートの実践などに取り組んでいる。
 生徒は学業だけでなく部活動や文化祭、体育祭、合唱コンクールなどの学校行事についても一生懸命である。ほぼ全員の生徒が部活動に加入し熱心に活動していて、週末や夏休もほとんど休めない教員もいる。
 成績処理については、事故防止のための「成績処理シート」の作成や点検に多くの時間をかけ、かなりの神経を使っている。観点別評価をやっていない他県と比べて成績処理にかかる時間と労力はかなり多い。今年に入り授業確保のために、文化祭の片づけが終わった後の午後も授業をしたり、夏休みを減らしたりしている。スケジュールが過密になっていくなかで生徒も疲れているが、教員も疲れている。
 様々な仕事がある一方で、最も大事な授業の教材研究の時間が十分にとれないと感じている。新しい仕事が増えていく一方で、仕事を減らそうという話は進んでいない。仕事の整理が必要である。学校の中で仕事の偏りも課題である。

フロアーも交えて
質疑応答の中では次のようなやりとりがあった。

Q 多忙化の解決策として、地域の人の協力はどれくらい可能か。

A 学校はなかなか外部の方を受け入れない体質があるが、PTAのOBとか地域に根差した人は受け入れやすい(中学校)。

Q 休日に部活に行かなくてはならない理由は何か。

A 安全指導上ですね。事故があった時のことがある(中学校)。

Q 地域の人を入れるということで、授業に入ると教師の専門性はどうなるのか。教員を増やさずに地域の人を増やすのはどうか。

A 授業までは考えていない。子どもに関する守秘義務もありますし(中学校)。

Q 事務職の方は給食費のことはやってくれないのか。

A 変な話だが、栄養士がいるところは給食費のことはやってくれる(小学校)。

Q 事務員の数はどれくらいか。

A 生徒700名くらいまではひとりである(小学校)。

Q ワックスは教員がかけるのか。

A ワックスは教員がかけるということになっている(小学校)。

質疑応答の後、各シンポジストの報告を基に意見交換を行った。ここでは、その主なものを記述する。
  • 勤務時間を考えれば、学校は立派なブラック企業である。人員を増やすか業務を減らすかである。新聞記事で「保護者に理解を」求めるのはどうしようもない(次頁の新聞記事を参考のこと)。
  • 新聞に関しては、ひとつの手としてはいいとは思う。保護者はいまだに「教員は夏休みがあっていいな」とか言っている状況である。部活がない日があってもいいかなという理解にもつながる。
  • 経済は資源が有限だということでどう配分するかということが前提だが、教育は無限であることが前提になっている。何かできないのは教員の力量がないという風になっているのは、よくないと思う。
  • 私は80歳代、私の趣味は囲碁とテニスだが、それはすべて教員になって覚えた事である。それくらい暇だった。それで、卒業生がボンクラかというとそんなことはまったくない。みなさんの話を聞いて、今やっていることの99%はいらないと思う。そのことをわれわれが認識しなければならない。教育行政は、成績向上とか部活向上とかのシステムを作っている。それに対してサボタージュしなくてはならない。奴隷制を廃止したのは、一揆ではなく、働かなかったから。エクソダス(集団脱出の意)でいくといい。勝手に仕事を減らさなければならない。やっちゃいけない仕事を誰かに頼んではいけない。仲間を増やさなくてはならない。世界的に教育商品化が進んでいて、教育によって利益を上げようとするグローバル資本が大きくなりはじめている。日本ではベネッセとSAPIXが受験を握り、ビッグデータを持っている。実は世界のグローバル状況のなかに教員の多忙化も置かれている。それに対して、教員は、現場で抵抗して、サボタージュもすることが大切である。
まとめ
 小学校・中学校・高校の教員が一堂に会して、学校現場の状況を話し合う機会はあまりない。そうした意味でも当公開研究会の意義はあったと思う。そして、小学校では、とにかく事務作業が増え、中学校では部活と生徒指導に多くの時間が割かれ、高校では「教育改革」に翻弄されている印象がある。加えて、どこも報告書などの書類や研修・点検が押し寄せている構図である。増やすなら、何かを減らすべきだ
 。一方、そうした現実の前に、「真面目な」教員は仕事をこなすことに全力を尽くすが、やらないという選択があってもいいのではないかと思う。
 「教員が疲れきっている状況では、いい教育ができない」「県立高校改革も多忙化を視野に入れてほしい」(シンポジストのまとめの発言)という切実な訴えをどうしていくのか、今後を見守っていきたい。

(教育研究所)


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