教育研究所独自調査2003
「教育改革期における教員の意識」調査
                      
 はじめに

   T.超過勤務・休日出勤に見る教員の勤務実態

   U.教員志望の動機と自己評価

   V.教員の意識実態

   W.教育改革と教員

 まとめ

   資料 
アンケート用紙と全体集計結果
 
 
 
財)神奈川県高等学校教育会館
                  教育研究所
 
 
はじめに
 神奈川では現在さまざまな教育改革が進んでいる。2000年度を初年度としてほぼ10年間を見通した高校再編計画の前期計画が一段落して、これから後期計画が発表されようとしている。文部科学省サイドでは2002年度から完全学校五日制が実施され、2003年度入学生からは新学習指導要領に基づいた新しいカリキュラムがスタートしている。さらに、神奈川においては全国的な動向と軌を一にして、職員会議に関する管理運営規則の改定、教員の服務に関する綱紀粛正が進められている。まさに、教育改革期と呼ぶにふさわしい時代である。
 その改革の波の中で、教員の勤務の実態と意識はどうなっているのか、教員の教師像はどう変わろうとしているのか、現在進行している教育改革に対して教員はどのような考えを抱いているのか、今回の教育研究所の独自調査ではそれを探ろうとした。
 教育研究所の独自調査は1994年度に始まって、『神奈川の高校 教育白書』にその結果を報告してきている。教員の意識調査はその初年度に「教員の生きがいと健康」調査(今回の調査とほぼ同規模、全・定・通の県立高校40校847人)として実施し、1995年度に「学校間格差と教員の意識」調査(1学区のみ抽出205人)として実施されている。今回はほぼ10年ぶりに教員の意識調査に取り組むことになった。先行調査との比較をとおして、教員の意識の変化を捉えられないだろうか、問題関心の二つ目はそこにあった。
 さらに、他調査との比較も考慮した。ベネッセコーポレーションの教育総研が2002年度に実施して発表した「教育改革期の高校教師」という調査結果(全国の全・定の公立・私立高校77校774人、以下「ベネッセ調査」と略記)と比較ができるように、アンケート項目作成の段階から同じアンケート項目をいくつか用意した。神奈川の教員はベネッセ調査と比較してどのような意識をもっているのか、必要に応じて分析を試みた。
 さて、今回の私たちの調査方法にふれておきたい。神奈川県立高校の全日制163校、定時制18校、通信制3校のすべてを調査対象として、2003年4月に全日制高校には各校10枚、定時制・通信制高校には各校5枚のアンケート用紙を配布した。全部で1,735枚を配布して、そのうち111校865人から5月までに回答を得た。回収率は約半数の49.9%であった。
 Q1〜Q5までは、いずれの課程か、高校再編計画の該当校か否か、性別、年代別の年齢、教職経験年数をおたずねした。それらの項目に従って、Q6超過勤務からQ12教育改革までの集計結果をクロス集計して、分析を行った。それに加えて、進学予備校の作成した全日制高校の偏差値によるランク表をもとに、課題集中校、中堅校、進学校のグループによるクロス集計分析も行った。それらのデータすべてを掲載することはできなかったが、全体集計結果については巻末に掲載した。分析に必要なクロス集計データに関しては、本文中に表ないしグラフの形で示した。
 今年度から『神奈川の高校 教育白書』は発行しないことになった。教育統計や教育関連新聞記事については、インターネットで入手することが容易になったことが大きな理由である。ただし、教育研究所の独自調査結果については、小冊子として配布して、現場の少しでも多くの方に読んでいただだきたいと考えている。
 
T.超過勤務・休日出勤に見る教員の勤務実態
 相次ぐ教育改革と並行して、2002年4月から学校五日制が完全実施された。今回のアンケートは2003年4〜5月に実施したので、ちょうど学校五日制が完全実施されて1年後の実態調査ということになる。「生きがいと健康」調査が行われた1994年の時点では学校六日制の時期(月2回の学校五日制は1995年4月に始まった)であり、それと今回の調査を比較して検討したい。
 
1.10年前に比べ超過勤務が増える
 Q6では「勤務時間の前後に、1日に平均してどのくらい学校で超過勤務をしていますか」とたずねている(この「超過勤務」には給特法で定めている教職調整額の範囲内のものと、範囲外の超過勤務とが含まれている)。超過勤務の年代別の傾向でみると、若い世代ほど超勤をしていることが分かる(図1)。勤務時間終了後60分までであれば、教員の3割が学校に残っていて、50代、40代の人たちの超過勤務が目立つ。ところが、90分を過ぎると20代、30代の人たちが多くなる傾向にある。
 学校六日制の結果と比較するとどうなるだろうか。回答の項目を前回調査にあわせて比較したグラフを見て欲しい(図2)。終了30分以内に下校している教員の割合が、前回が53.9%だったのに対して、今回は16.3%と大きく減っている。終了後1〜2時間経っても残っている教員の割合は、11.0%だったのに対して、42.0%と大幅に増加している。教育改革に伴うさまざまな日常的業務の増加と学校五日制の実施が超過勤務を増加させていると考えられる。
 
2.休日出勤も増加傾向
 私たちはQ7「1カ月のうち、土曜日や日曜日、祝日などに、部活のために平均してどれくらい出勤していますか」とQ8「1カ月のうち、土曜日や日曜日、祝日などに、部活以外の仕事のために平均してどのくらい出勤していますか」とに分けてたずねた。20代から30代までの若い世代の部活のための休日出勤が目立っている(図3)。
それ以外に注目されてよいのは、課題集中校と中堅校、進学校の教員との違いである(図4)。
課題集中校での部活による休日出勤は少なく、休日出勤の日数が多くなるほど進学校の教員が目立ってくる。しかし部活以外の仕事となると状況は異なってくる。グラフにしていないが、年代を問わず1〜2日の休日出勤は35%前後でほぼ同じであり、課題集中校とそれ以外の学校でも大きな差は見られない。
 前回との比較のグラフを見ると、ここでも質問項目は異なっているが前回の項目にあわせて集計し直してみると(図5)、1〜2回の休日出勤が、部活では39.9%、部活以外では36.9%と、どちらも10年前の28.0%を超えている。
新たな教育改革の流れの中で、土曜・日曜の休日に学校説明会、オープンスクールなどの学校行事を実施する高校が増えている。またPTAの活動が、保護者の平日の参加が難しくなって休日に行われる傾向にあり、部活も平日の授業時間が増加するなどして、休日に行う傾向にあるのではないか。
 
 
U.教員志望の動機と自己評価
Q9は、「どのような理由から教員になろうと思いましたか」とたずね、自分が教わった教員の良い意味での影響・専門分野の研究・部活動の指導・生徒とのふれあい・時間的ゆとり・安定した収入や処遇・利潤を追求しないの7項目に関して、「とてもそう思った」「まあそう思った」「なんともいえない」「あまりそう思わなかった」「ぜんぜん思わなかった」のいずれかを回答してもらう、教員志望時の動機に関する項目である。従来、様々な機関によって様々な教員の意識調査が実施されてきたが、以上のような観点からの質問項目は、異色と思われる。
Q10は、「高校教員の仕事をどのように評価していますか」とたずね、社会的に尊敬される・経済的に恵まれている・精神的気苦労が多い・専門に関する高度な知識が必要・体力がいる・生徒と接する喜びがあるの6項目に関し、「とてもそう思う」から「ぜんぜん思わない」までを回答してもらう、教職に対する自己評価に関わる項目である。Q9とQ10のそれぞれの結果を個別に分析するとともに、Q9とQ10のクロス分析も行った。
 
1.「ゆとり志向」から「ふれあい志向」へ
教員の志望動機7項目について因子分析を行った結果、2つのグループに分類することができた。1つは、教員の良い意味での影響・部活動の指導・生徒とのふれあいの3項目から構成されるのだが、これを「ふれあい志向」と名づけた。もう1つは、専門分野の研究・時間的ゆとり・安定した収入や処遇・利潤を追求しないの4項目から構成され、「ゆとり志向」と名づけた。そして、「とてもそう思った」を5点、「ぜんぜん思わなかった」を1点として、個々の回答者について、各志向を構成する質問項目の点数を合計し得点化を行った。
つまり、「ふれあい志向」や「ゆとり志向」を強く持つほど、得点が高くなる。この得点の世代による違い(平均値)を見たのが図6、性別による違いを見たのが図7である。ただ一言しておきたいのは、この志望動機のグループ化というのは、あくまでデータ分析上の1つの試みであるということで、各教員はそれぞれに、(度合いは異なるが)「ふれあい志向」と「ゆとり志向」の両面を兼ね備えているのである。
 図6からは、年代が低いほど「ふれあい志向」が強く、年代が高いほど「ゆとり志向」が強い傾向がうかがえる。教員志望時の動機において、「ゆとり志向」から「ふれあい志向」へと重点が移ってきていることが示されている。
この「ふれあい志向」への移行の原因としてはさまざまな推測が可能であろうが、1つには、教員採用試験の狭き門を通過する際に、教職独特の直接的な志望動機が強く働いたと考えられる。ただし、この「ふれあい志向」がややもすれば自分本位の情熱へと傾斜する危険性をはらむものであり、年代の高い世代の「ゆとり志向」も教職にとって必要な動機である。教育活動が、安定した処遇の中で、効率ばかりを追求せずに、教員自身が研鑽を積むことによってその目的をよく達成し得るものだという点に留意する必要がある。
図7からは、男性が「ふれあい志向」が強く、女性が「ゆとり志向」が強い傾向がうかがえる。女性が「ゆとり志向」を示すのは、やはり、教職が性別に左右されない対等な勤務条件を整えていることにあると思われる。
 
2.教職は気づかいと体力が必要
Q10は、2002年度実施のベネッセ調査との比較検討をあらかじめ想定し、あえて同一の内容を質問項目に設定した。両者の比較において浮き彫りになるのは、ベネッセ調査に比して、神奈川の教員が精神的・身体的疲労をより強く感じながらも、これをいとわずに自身の職務に向き合う姿である。例えば「精神的気苦労の多い仕事だ」について、「とてもそう思う」「まあそう思う」と答えた教員は、ベネッセ調査89.5%、神奈川92.5%であり、さらに「とてもそう思う」に限定した場合、ベネッセ調査43.7%に対し、神奈川53.9%と半数以上の教員が精神的気苦労を痛感している実態がある。「体力がいる仕事だ」についても、「とてもそう思う」「まあそう思う」と答えた教員は、ベネッセ調査85.5%に対し、神奈川92.8%と高い数値を示している。神奈川の教員は、生徒や保護者などへの気遣いを必要とし、生徒とのふれあいにも体力が必要であると思いながら勤務している姿が浮かび上がってくる。
 
3.教職の喜びは生徒と接すること
表1 「生徒とのふれあい」志向と
「喜びのある仕事」評価のクロス集計
         生徒と接する喜びのある仕事だ
生徒とのふれあいを望んだ とてもそう思う まあそう思う なんともいえない あまりそう思わない ぜんぜん思わない  人数計
とてもそう思った 163 69 9 1 0 242 
67.4 28.5 3.7 0.4 0
まあそう思った 99 263 36 3 0 401 
24.7 65.6 9 0.7 0
なんともいえない 19 65 28 5 1 118 
16.1 55.1 23.7 4.2 0.8
あまりそう思わなかった 4 28 12 6 0 50 
8 56 24 12 0
ぜんぜん思わなかった 0 13 8 3 1 25 
0 52 32 12 4
人数計 285 438 93 18 2 836 
34.1 52.4 11.1 2.2 0.2
Q9とQ10との関連については、それらの質問に含まれている42項目全てのクロス集計を行って検討した。その中で特筆すべきは、Q9の中の「生徒とのふれあいを望んでなりたいと思った」とQ10 の中の「生徒と接する喜びのある仕事だ」との関係である(表1)。前者で「とてもそう思った」か「まあそう思った」と答え、後者に「とてもそう思う」か「まあそう思う」と答えた教員は、71.1%と圧倒的に高い傾向がうかがえる。教員志望時に、生徒とのふれあいを動機とした教員が、実際の教員生活において生徒と接する喜びのある仕事だと継続して感じているのは評価すべき点である。加えて、Q9で「あまりそう思わなかった」か「ぜんぜん思わなかった」と答え、Q10で「とてもそう思う」か「まあそう思う」と答えた者、つまり教員志望時では、生徒とのふれあいを志望理由にしていなかったが、実際の教員生活の中で、生徒と接する喜びのある仕事だと感じている教員が5.4%存在することも喜ばしい。
 
V.教員の意識実態
 Q11は「ふだん、次のようなことを感じますか」と聞いたものである。出勤時刻に始まって教員に対する管理まで13項目について、「いつも感じる」「ときどき感じる」「あまり感じない」「まったく感じない」のいずれかを回答してもらった。教員の日常の勤務のなかで感じた意識実態である。
 
1.出勤時刻になると気が重くなる
 年代別、ランク別の表を見ると(表2)、年齢が上になるほど「いつも感じる」が増え、課題集中校でも1割を超えている。
 しかし、中堅校で「いつも感じる」「ときどき感じる」が、それ以外の学校に比して55.1%と半数を超えていることが気になる。
 ベネッセ調査のデータと比べると、神奈川の教員が「いつも感じる」「ときどき感じる」をあわせて49.9%と半数に及ぶのに対して、ベネッセ調査では22.3%と2割程度に収まっている。神奈川の教員が出勤時刻になると気が重くなっている割合が異常に高い。
 
2.教員をやめたいと思う
 ここでも年齢が高くなるほど「教員をやめたい」と「いつも感じる」人が多くなっている(表3)。50代以上が14.7%と多く、「ときどき感じる」の41.0%をあわせ、55.8%が「教員をやめたい」と思っている。それに続いて40代が52.9%、30代が41.6%、20代が14.3%の順となっている。ランク別では中堅校で55.1%と半数を超える人が「教員をやめたい」と感じている。中堅校の教員のストレスが高まっているように思われる。
 ベネッセ調査では、同じ質問に対して、「いつもそう思う」「数回あった」「1〜2度あった」「1度もない」と回答の仕方が違っている。「いつもそう思う」「数回あった」とをあわせた数字で比較してみると、ベネッセ調査では29.9%であるが、神奈川の「いつも感じる」「ときどき感じる」の全体合計が51.4%とこれも異常に高い。
 参考までに、「教員をやめたい」と思った人の志望動機とのクロス集計表を用意した(表4)(表5)。
「生徒とのふれあいを望んだ」人は「教員をやめたい」と思う割合が低く、「あまりそう思わなかった」「ぜんぜん思わなかった」という人は「教員をやめたい」と思う割合が高いことに気づく。「時間的なゆとりがあると思った」に関しては、「とてもそう思った」「ぜんぜん思わなかった」という人は「教員をやめたい」という傾向が高く、「なんともいえない」「あまりそう思わなかった」という人は低くなっていることが分かる。教員の志望動機と「教員をやめたい」という意識実態については、何らかの相関が考えられるため、今後も調査研究が必要である。

3.職員室にいると同僚の視線が気になる
 神奈川では「同僚の視線」を「いつも感じる」「ときどき感じる」人が13.9%なのに対して、ベネッセ調査では10.8%とやや少ないという程度であるが、「まったく感じない」人を比べると、神奈川が28.3%なのに対してベネッセ調査は49.6%と半数近くに上る。神奈川の教員の方が同僚の視線を気にしていることになる。
 
4.職員会議で自由に発言できない雰囲気がある
 ここでは、学校ランクがやや意識の違いを示している(図8)。「いつも感じる」「ときどき感じる」をあわせて、進学校では44.6%と多く、中堅校では33.3%、課題集中校では24.8%と減っている。全体の割合ではベネッセ調査との違いはないのだが、神奈川では伝統校の重みが影響していると考えられるのだろうか。
 
5.授業を楽しくやれない
 「授業を楽しくやれない」と「いつも感じる」「ときどき感じる」をあわせると(表6)、課題集中校が49.7%と高く、中堅校が39.9%、進学校が35.1%の順となっている。20代が15.4%、30代が37.0%、40代が43.6%、50代以上は44.6%と年齢が上がるごとに「授業を楽しくやれない」人の割合が高くなっている。
6.生徒とのふれあいを苦痛に感じる
 課題集中校で「いつも感じる」が1.0%、「ときどき感じる」が28.9%と、合計で3割の教員が「苦痛」を感じている(表7)。中堅校が合計で21.5%、進学校が15.9%となる。年代別では、20代は0.0%、30代は17.7%、40代は23.5%、50代以上は25.9%と年をとるごとに「苦痛」に感じる人の割合が高くなっている。
 
7.コンピュータを扱う仕事に苦痛を感じる
 全体では「いつも感じる」が12.3%で、「ときどき感じる」が32.8%で、両方の合計では45.1%となる。年齢が上がるにつれて、20代が14.3%、30代が31.6%、40代が43.6%、そして50代以上ともなると57.2%が何らかの「苦痛」なしにはコンピュータと向き合えないという数字になっている。
8.教材研究をする時間が足りない
 「教材研究する時間が足りない」と感じている教員があまりにも多いのに驚かされる。全体では、「いつも感じる」が57.6%、「ときどき感じる」が33.0%で、合計では90.6%を数える。教員のゆとりのない実態が浮かび上がってくる。
 
9.生徒と接する時間が足りない
 全体では「いつも感じる」が37.9%、「ときどき感じる」が47.8%で、合計では85.7%となっている。「教材研究」とあわせて、多忙化が進むなかで教員の悲鳴を感じさせる数字である。
 
10.生徒の基礎学力を保障する取り組みが不足している
 全体で「いつも感じる」が30.8%、「ときどき感じる」が55.8%で、あわせて86.6%の教員が取り組み不足を感じている(図9)。生徒の学力低下の実態を何とかしなければいけないと考えながらも、歯がゆい思いをしている教員の気持ちがこの数字に表れている。特に課題集中校で89.9%、中堅校で88.6%と割合が高い。
 
11.生徒の興味・関心に応じた授業の工夫が不足している
 全体では「いつも感じる」が15.2%、「ときどき感じる」が63.9%、あわせて79.1%が「生徒の興味・関心に応じた授業」の必要性を感じているし、その工夫が思うようにいかないことにいらだちを感じているのではないか(表8)。再編該当校で85.9%と多くなっているのも、総合学科、単位制、フレキシブルスクールなど多様な教育課程を用意する必要性を意識してのことではないか。
 
12.教員の間で教育に関する議論が少なくなっている
 20代では33.4%、30代で74.5%、40代で77.8%、50代以上で81.0%と、年齢の上昇とともに議論の少なさに不安を抱いている(図10)。20代で、58.3%が「あまり感じない」、8.3%が「まったく感じない」と答えているが、教育論議が盛んだった時代を知らない年代が登場してきている。
13.教員に対する管理が強まって仕事がやりにくくなっている
 全体では「いつも感じる」が75.7%、「ときどき感じる」が21.3%、あわせて97.0%に及んでいる(図11)。ただし、20代で84.6%とやや低くなっているのが特徴的である。
 ベネッセ調査では「全般的に、教師に対する管理が強くなっている」との意見に対して、「とてもそう思う」が33.0%、「わりとそう思う」が36.2%とあわせても神奈川と比べて69.2%とやや数値が低くなっている(図12)。神奈川では管理規則の改定や綱紀粛正の通知がここ数年矢継ぎ早に出されてきていて、その急激な変化に戸惑う現場教員の意識が、神奈川とベネッセ調査の差異を示しているのではないかとも考えられる。
 
W.教育改革と教員
 Q12は、ここ数年の文科省や神奈川県教委の高校改革の動向に対する教員の意識を聞いている。分析の都合上、「とても賛成」「やや賛成」をあわせたものを『賛成』、「とても反対」「やや反対」をあわせたものを『反対』とまとめた。なお、ベネッセ調査との比較も試みたが、ベネッセ調査には回答選択肢に「どちらともいえない」がないことや、神奈川と他県や私学の制度の違い、ベネッセ調査は回答者に管理職も若干含んでいることなどから、単純に比較はできなかった。
 
1.学校五日制
 「とても賛成」が37.9%、「やや賛成」が23.2%と約6割の教員が賛成している。他方で、この制度への『反対』も16.7%ある。また、ベネッセ調査(「とても賛成」が34.4%)と比較しても、神奈川の教員は学校五日制を歓迎している傾向が見える。
 『反対』は20代(30.8%)、30代(23.7%)に高い。年齢が上がるにしたがって『反対』は減り、『賛成』が増える。また、超過勤務との相関がうかがえる(図13)。勤務内容の整理や仕事の均分化が行われれば、五日制への賛成はより増えると考えられる。
 
2.「総合的な学習の時間」の実施
 再編該当校と非該当校でかなり意識の差が出た。「どちらともいえない」はほぼ同じものの、『賛成』は該当校21.9%に対し、非該当校では11.5%。非該当校での「とても反対」は40.4%となっている。また、課題集中校と進学校に比べ、中堅校は『賛成』が少なく(8.3%)、『反対』が多い(69.2%)。課題探求的な学習を導入しやすい進学校、進路保障的な内容や選択科目の多い課題集中校や該当校に比べ、中堅校においては、とりくみへのとまどいや教科指導の充実を望む声もあるのかもしれない。
 ベネッセ調査と比較すると、「とても賛成」は低く、「とても反対」は高いという傾向を示し、神奈川の教員がこの件に関してはやや消極的な傾向にあるといえる。しかし、ベネッセ調査はさらに詳しく聞いているが、「実際にどのようにやったらよいのかわからない」の質問に対して「ややそう思う」が21.4%、この科目や「情報」は「教師への負担が大きい」という質問に、「とてもそう思う」が46.4%あり、全国的にも負担感が大きくなっているともいえる。
 
3.教員の人事評価システム(5段階評価)
 「とても反対」が73.1%と、反対がきわめて多い。年齢が上がるごとに「どちらともいえない」が減り、「とても反対」が増える。
 
4.「指導力不足教員」の認定と研修
 これも『反対』が多い(53.6%)。また、「どちらともいえない」も30.0%であり、はじまったばかりのこのシステムに不安やとまどいを感じる者も多いことが考えられる。各年代層ごとにみても前項の人事評価システムと似た傾向を示す。
 
5.教員の民間派遣研修
 これも33.6%が「どちらともいえない」と答えている。全体の『賛成』は18.5%と多くはないものの、20代では、46.2%、30代では29.0%と若い層ほど『賛成』が多く、柔軟に考えている傾向がうかがえる。
 
6.生徒による授業評価
 「どちらともいえない」が37.6%で、具体的な評価の仕方が不明なことなどよると想像される。全体の『賛成』は33.8%であるが、特に、20代(46.2%)、40代(38.9%)が『賛成』の傾向が高い。生徒の声を授業に生かしていきたいとする姿勢がうかがえる。
 
7.学校評議員制度
 Q12の中で最も「どちらともいえない」が多かった(45.4%)。「開かれた学校」「地域との連携」などが叫ばれているが、地域密接型でもない高校においてどのように考えるか難しい面もあるのだろう。また、「学校を開く」という視点には賛成しても、現実の神奈川のシステムに対しては賛成しがたいという者もいるかもしれない。

8.学区制の撤廃(全県一学区)
 『反対』が多い(62.3%)。『賛成』は14.7%。学校ランクで比較すると表9のようになっている。中堅校で『賛成』が13.0%とやや少なく、『反対』が64.4%と多くなっていて、学区制の撤廃により否定的であることがうかがえる。
 
9.推薦入学の拡大
 『反対』が54.1%と多い。「どちらともいえない」が29.9%、『賛成』が16.0%となっている。学校ランク別に比較すると課題集中校で『賛成』の傾向が27.1%とやや高い(表10)。
 
10.神奈川の二校統合方式での再編
 再編該当校の数値からみると、圧倒的に『反対』が多い(表11)。該当校では二校統合方式に問題を感じている様子がうかがわれる。
 
11.単位制高校の設置拡大
 『反対』が33.6%、『賛成』が27.5%である。県内に単位制高校が少なくその実態がつかみにくいからか、「どちらともいえない」も38.9%と多く、評価が定まっていない。
 
12.公立の中高一貫教育
 この項目に関しても「どちらともいえない」がきわめて多かった(44.4%)。私立とは違う公立学校でどのように考えるか判断しがたいものがあるのだろう。また、他の項目とやや違い、年齢が高くなるほど「どちらともいえない」が増える傾向にあった。『賛成』は、20代38.5%、30代は23.3%と若い層ほど高い傾向にある。
 
13.スクールカウンセラーの配置
 学校ランク別、課程別、再編該当の有無、年齢別のどの属性においても『賛成』の意向を示すものが圧倒的であった。ベネッセ調査においても同様の傾向である。いわば教員以外の人材登用といえるものではあるが、次項目の民間人校長とは異なり、生徒への教育内容に直接かかわるものであり、また、神奈川でも導入されてから数年を経過しているため、その評価がしやすかったのだろうと思われる。
 
14.民間人の校長登用
 『賛成』は6.2%にすぎない。マスコミなどが大きく取り上げている反面、職場はその必要性を認めていないということになるだろう。
 
 
まとめ
 社会の状況の大きな変化にともない、教育改革がすすみ、神奈川県においても高校再編や入学者選抜制度など大きな動きが見られる。また、「情報」・「総合的な学習の時間」の導入などのカリキュラムの改変、「開かれた学校づくり」など、教員の仕事はここ数年で質・量ともに大きく変わった。ゆとりを生み出すはずだった学校五日制の時代となっても、平日の超過勤務は増えており、多忙化は解消されていない。
 また、当研究所は2000年度に「高校生の生活実態と学校」(『教育白書2000』所収)と題する調査を行った。そこでは生徒の様子が変化していることや、中堅校の生徒の生活意識が課題集中校に近い形であることがうかがわれた。このことから考えると、多くの学校で生徒の状況が変化し、それに対する教員の戸惑いも大きいことが考えられる。
 加えて、職員会議のあり方・人事評価・事故防止への対応・民間活力の導入など管理は一気に強まった。もともと、「教育に利潤追求はなじまない」「教員間の論議から教育は生まれる」と考える教員たちは、現状に大きな疑問を持つこともあるだろう。
 そのような中での調査であったが、結果を見ると、体力的・精神的に苦労は多いものの、「生徒と接する喜びのある仕事」ととらえる教員も多く、生徒とのふれあいは、教員という職業や教育を考える上で欠かせないものだととらえられる。他方で、教員志望時の情熱をともすれば見失いそうになる教員の姿も見える。「教員をやめたいと思う」と答えた者が相当数あるということは、当該者の個性や資質の問題ではなく、現在の学校のあり方という広い視点で考えるべき課題である。
 調査において明らかである教員の多忙化に対しては、具体的な対処が必要である。超過勤務を減らすための勤務内容の見直し、十分な人的配置、部活などの時間外勤務に対する適正な代休や回復措置など早急に改善が必要である。また、教員の側からも仕事の均分化を測っていくことが必要であろう。生徒とのふれあいを積極的に肯定する傾向の大きい20代30代の若い層においても、教材研究の時間や基礎学力の保障の取り組み興味関心に応じた工夫などが不足していると思う者が多いことは重大な課題である。授業への十分な準備や自己研修時間が保障されることが望まれる。教員の「ゆとり」は最終的には、生徒への対応に反映される。また、ゆとりのない状況下では、教員の側からの改革に対する積極的な意識も薄れていく。
 全般的に、教員は教育内容や生徒とのふれあいということへの関心が相当高い。現在、教育改革として行われているのは、中高一貫教育や単位制高校のような後期中等教育の改編、カリキュラムの改編、入試制度の変更、人事評価や民間活力の導入など、システムの変更によって教育を変える動きである。本調査で見る限りでは、それらに対して教員の賛同が得られているとは言い難い。むしろ危惧を抱く声も多かった。しかし、授業に関しては、教材研究の時間や、基礎学力の保障、興味・関心に応じた工夫が不足していると感じる者が多く、教育内容に大きな関心を寄せている様子がうかがえる。教職を「生徒と接する喜びのある仕事」と評価する者がかなり多いことをあわせて考えると、教育実践の積み上げや生徒理解といった、いわば「現場の感覚」にねざしたところから、高校教育はどうあるべきかを考えていく必要があると思われる。そのことによって、学校が改革される可能性もあるだろう。システムの変更によって学校が変わり、生徒の教育が充実するとだけ考えることには無理がある。職場内で、教育に関する議論が少ない、職員会議で発言しずらいという様子も見られるが、教員の側からの教育改革への議論を期待したい。
 さらに今回の調査でも、中堅校の教員の意識の問題が浮かび上がってきた。中堅校は学習面や進路保障面で、生徒・保護者の要求も多様化し、従来とは変わってきている点が多いのかもしれない。今まではあまり重点的に考えられてこなかった視点であるが、高校教育のあり方を考える上で、重要な課題と受け止めるべきだろう。
 最後に、年度当初の多忙な時期、快くアンケートに応じていただいた教員の皆様に感謝したい。
 
      (担当  本間正吾・大島真夫・沖塩有希子・武田麻佐子・三橋正俊)