特集 : 検証「特色づくり」「新入試制度」
 

新しい選抜制度を振り返って

石井 明 

 
■ はじめに

 中学校の進路指導主任として、新入試制度での進路事務を担当した。周知のように、ア・テスト除外と複数志願制が今回の改正の特色である。この改正は受検生にどのようなメリットがあったか、またどのような問題点があったかを振り返ってみたい。    
 中学3年の進路指導は、高進学率の現在、進学対策の色合いが濃い。中学教師の仕事は「個性の伸長を図る進路選択の援助」と「3年間の学習に耐えうる基礎学力の定着」を建前とするが、実際的には、初めての試練に臨む生徒に必要な情報を与えることにより、彼らの「不安を軽減」し、かつ保護者の「経済的負担を軽減」することであると思う。
 なお私の属する県西学区は、公立志向が依然として強い地域である。
 

■ 曖昧さを残した新制度

 新制度の理解を図るため、どの中学も生徒及び保護者対象の説明会は入念であった。特に高校が発表した「選考に当たって重視する内容」は合否に直結するため、知り得るかぎり説明しようとした。そのため従来はつき合い程度であった、公立高校の説明会にも積極的に参加し質疑を行った。
 しかしながら、各高校の説明は明確さを欠いた。「重視する内容」中、生徒会活動や部活動等にかかわる事項の評価方法がはっきりしない。また他の「重視する内容」との関係も曖昧であった。点数化が難しいことは分かるが44%部分の選考には、この「重視する内容」が活用されるので曖昧さは許されない。
 また44%部分の選考に、C値が関係するのかどうかも不明確だった。多くの高校は「C値は含めず」と言い、県教委文書は「含む」としていたのである。(これは教育事務所を通して確認した。)合否が微妙な生徒はすべて44%部分の生徒である。生徒によってはC値を含むか含まないかが重要な意味を持ち、場合によっては対策の立て方にも関係する。中学側としては「C値を含む」として指導せざるを得なかった。           
 今年度入試は、選抜方法が曖昧なまま行われた一面を持つと言わざるを得ない。    
複数志願制とア・テスト除外が招いたもの
 複数志願制は当初、生徒・保護者に歓迎された。96年9月実施の校内進路希望調査では8割近い生徒が第1希望と第2希望を別にした。第2希望が「滑り止め」になる、と彼らは漠然と考えていたのである。しかし、希望校に入るためには、第1も第2も同一校を選ぶ必要があることが分かると、第2希望に別の学校を選ぶ生徒は、しだいに減少した。願書提出の段階では11%まで下がった。
 ア・テスト除外は2学年末の「圧迫感」から生徒を確かに解放した。従来通り、伸び伸びと部活動を続けられたし、教科書もゆとりをもって終了した。しかし5段階評価の導入で相対的に入試のウエートが高くなったことに加え、新制度への不安感もあり、私立高校等の併願をする生徒は大幅に増加した。               
 昨年度入試では、私の学校の私立併願率は35%程度であったものが、75%を越えた。併願不可能な生徒や、推薦入学濃厚の生徒がいた状況を考えると実質的には併願率は80%を越えたと思う。なお新聞発表の競争率は、併願を解消する有効な情報とはならなかった。 新制度は保護者の財布に影響を与え、私立高校を潤したと言える。
 

■ 改善が望まれる点

 次の諸点を改善してほしいと思う。

  1. 保護者・生徒から最も不満の大きかったのは、再募集を行うことになったのに、第2希望に回された事例があったことである。微調整で可能なので検討してほしいと思う。

  2. 専門学科はすべて面接を実施してほしい。当該学科への「目的意識」や「関心」を「重視する内容」に挙げる学校が多いが、これらの読み取りは調査書からでなく、面接の方がより判断できると思う。面接技術を向上させ意欲のある生徒を獲得してほしい。面接点を上げても良い、という意見は割と強い。             

  3. 「重視する内容」の評価方法は、97年度の事例を踏まえ、生徒に説明できるよう明確にしてほしい。98年度の募集要項にもファジーな内容が見られる。特に項目@からCまでどのようにウエートを置くのかはっきりさせるべきだ、と思う。

  4. 推薦入学制度は調査書と面接による選抜制度であると理解している。推薦希望者がいれば中学校長がその希望を拒否することはない。したがって形式用件としての推薦書は簡略化してほしい。             

  5. 調査書の出欠席の欄の復活を望む声は大きい。
     

■ 進路事務による教師の負担増

 進路を担当する3年職員の勤務状況にも触れたい。3年職員の2学期後半の勤務条件は以前より悪化している。
 学習指導は無論のこと、試験の採点・成績処理に始まり、進路面接のための会議、私学への打診資料作成と確認、願書の点検、情報交換のための資料作成、生徒の心のケアー、毎日の生徒指導、三者面談、それに調査書の作成も始まる。本校は県西のため、静岡式や東京都内の私立高校の調査書まで作らなくてはならない場合があった。
 昨年12月のある週の勤務時間は連日14時間を越えた。さらに土曜日曜や、冬休みの半分以上を調査書作成に費やした。
 教職員のサービス残業を当然視しないで、健康管理を真剣に考えてほしいものである。
 

■ 終わりに

 新制度を実施すれば、多少の混乱はつきものであり、その功罪を述べるは時期早尚であろう。またその任でもない。その職にあるものが各方面から事情聴取し、改革を重ねてゆけばよい。必要があれば旧に復する勇気を持つことも必要だ。
 心すべきは、どのような選抜制度を作ろうとも不満はあるという事である。受験者側からもマスコミ側からも常に批判はあるのだ。これら不満・批判を過大視すべきではない。ささやかな提案をしたい。それは、合否に当たって各高校にもっと権限を与えることである。選考に当たって重視する内容を拡大し、「一芸に秀でた者」枠を広げたらどうか。これは今次改革の主旨にも合致する。公正さの観点(点数重視)からすれば若干問題はあるが、学校活性化に役立つだろう。部活動や生徒会活動に秀でた生徒、中学校3年間無遅刻・無欠席の生徒、あるいは真面目でやる気のある生徒を、中学校長の特別推薦制度のような形を作り入学可能にしたら、高校は個性化し活性化すると思う。
 かつてハーバード大学の選抜担当者が語っ言葉がある。それは「秀才だけを集めると、その何割かが必ず落ちこぼれて行く。本学には鈍才も必要であり、多様な学生が必要である」という内容であった。

(いしい あきら 小田原市立酒匂中学校教諭)

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