特集 : 検証「特色づくり」「新入試制度」
 

生徒たちの声

齊藤 芳和

 

 「ア・テストは入試より大切だ」「いくら入試を頑張ってもそれだけじゃだめだ。今の内に点をかせぐんだ」「ア・テストがもっとよかったら、志望校にもしかしたらいけたかも。3年生になって頑張っても遅すぎます」 これは、ア・テストが内申20%を占めていた頃、3年生が卒業式前に、ア・テスト直前の2年生に送ったメッセージの一部です。しかし、新しい制度でアテストが除外されると「ア・テストをやった方が確実に高校に入れるから、やった方がよかった」と、生徒たちはいう。
 「複数志願制」については、「第1希望と第2希望、同じ高校がいいのか、それとも、ちがう高校にすればよいのか、よくわからない」「すごくよくないことだと思う、第1希望の人がうからなくて、第2希望の人がうかるのは変だと思う」「今まで通りの方がよかったのに、制度を変える人が受験するわけでじゃない。受験するんは私達、いい迷惑」と新しい制度について不安を訴える。もちろん「二つ受けられるからいいと思う」という声もあった。また、「総合的選考」についても、生徒会をやっていない人はかわいそうだと思う」「何もしていない人は、何かしている人よりダメなの?」「部活・委員会に入っていないと不利なのですか」などと。もちろん「いろいろな面から見てくれてよいことだと思う」という声も。このように生徒達は、新しい制度の説明を何回も聞き、不安を消せぬまま受験したのです。その結果、「他に行きたいところがなかった。行きたいと思った高校が一つだったから」と第1希望と第2希望を同じにした生徒の多くは言い、第1次希望と第2希望を異なる高校にした生徒は「第1が落ちたら困るから」「とにかく公立に行きたかったから」「同じだと心配だったから」「両方行きたかったから」などと。また新しい制度を振り返って、「生徒の個性を尊重するからよかった」「なんだか自分で選べて良い」「合格発表が遅い」「第1希望で落ちる人が多くなった」「入試がこわくなった」「総合的選考は、必ずしも正しい判断ができるとは限らないと思う」などとさまざまな声を残して卒業していった。
 矛盾を果てしなく感じながらも、制度が変われば、その中でいかに生徒・保護者に不安を与えず、進路に向けて共に悩みながら、方向性を見つけだしていけるかを現場は最優先に考える。制度の問題点をじっくり考え、運動につなげるだけの余裕は現場にはなく、流されていく傾向が強い。中学3年生の担任が終われば、次の学年が待っている。また、生徒・保護者にしても、結果が最優先され、問題視されることも少ない。このままで行けば、この制度はいつしか安定し、当たり前になり、第1希望と第2希望の組み合わせがしっかり固まり、今まで以上に学校間格差が生じる可能性もある。そうなる前に何ができるだろうか。この1年間に起きた現場の声、特に聞こえにくい生徒の声・保護者からの声に対して、どのような思いで耳を傾けてくれるだろうか、県教委は。
 第1希望とだ2希望を異なる高校にした生徒がいた。第1希望が不合格となり、第2希望校に合格した。涙を流し、顔をくしゃくしゃにして「これで高校に行ける」と大喜びしていた。しかし、第1希望と第2希望を選択する矛盾はたくさんあった。第1希望A高に不合格になり、第2希望B高に合格したX君、それに退位して第1希望、第2希望ともB高にして不合格となり、再募集でA高に合格したY君、このようにX君とY君の行きたかった高校は全く逆になってしまったのである。X君にとっては、第1希望と第2希望を同一にしておけばという後悔と、第1希望校が再募集をしているという何ともいえない思いがあったと思う。○○にしておけば、という思いは、すべて結果論からくる言葉ではあるが、納得できないことが多すぎるのではないだろうか。
 横須賀・三浦学区は、地理的条件もあり、予想されていた私立高校への大きな流れはなかった。逆に第2希望という響きから「すべり止め」的は発想が生まれ、公立志向がもとから強いことも手伝ってか、他学区に見られたような大きな定員割れは生じなかった。しかし、ア・テスト廃止・入試の比重増大・総合的選考における重視する内容などから、塾への依存・模擬試験・私立併願など、保護者の負担は増大した。「塾へ行かなければ高校へは入れない制度」となってしまう。三者面談でも「塾の先生と相談してきます」と言う保護者もいた。公立中学不信を生み、公立中学格差へつながる危険性もある。
 公立高校の確実性より、悩んだ結果、私立高校一本を選択した。しかし、一番行きたかった公立高校が定員割れを起こし、再募集となった。これも結果論ではあるが、第二希望校に入学するケースとは異なる不本意入学も生まれている。
 このように次から次ぎへと問題点が出てくるのである。中学現場としても大きく混乱した。これは、総合的選考の不透明さからくるもので、今まで三者面談等でいえていたことがはっきり言えなくなった。わかりませんと言わざるを得ない教師側の戸惑い、そして、兄や姉の時とはちがって先生は何も教えてくれないという保護者側の戸惑い、両者とも制度に対して意識改革が必要だったのかもしれないが、そこには不信感が生まれてしまう。また、事務量の増大もある。会議の連続、私立高校推薦から始まり、受験、発表のくりかえし、そして、再募集、定時制と事務処理に追われ、一番生徒と真剣に話をしたり、勉強をしたりする時間を作ることができなかったことを悔やむ。もっと12月頃から、複数志願制度などじっくり話し合うことができたら、少しでも不本意入学を減らせたのではないだろうか。第2希望合格でも悲しむ顔を見なくてもよかったのではないだろうか。
 県教委の意図は何だったのか。受験する生徒にとって、また見守る保護者にとって不安を与えないよい制度であったのだろうか。中学3年間は、生徒にとって最も大切な時期で、いろいろなことを経験し、生きていく力を身につけていく。そして楽しいものであって欲しい。しかし、重視する内容にあわせたり、調査書におびえたり、成績を気にしたり、中学生活がゆがんだものになっていくことはあまりに悲しすぎる。
 中学現場の声、地域を大切にしてくる私立高校を含めた現場の声、しかし、一番大切な生徒、保護者の小さな声に最も耳を傾けて欲しい。この制度の疑問、不安、苦しみなど。

(さいとう よしかず 横須賀市立大矢部中学校)

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