大阪の高校再編整備計画
 
 

 府立松原高校の総合学科の取り組み

(1)参加体験型授業が楽しい

 神奈川の大師高校と同じ1996年度に総合学科に改編された松原高校は、以下の5つの系列を設置した。「総合学科案内」と題された松原高校のパンフレットのキャッチフレーズと共に紹介しよう。あわせて、系列の主な科目名を例示しておこう。

国際理解(ニューマンネットワーク)系列
 「地球賀の蔵の遊び場だ」
 エスニック講座 しんぶんでしるせかい(NIE) 外国語としての日本語T・U・V
 中国語T・U ハングルT・U スペイン語T・U フランス語T・U 他

地域福祉(コミュニティー)系列
 「あったかハートで、やさしさ体験してみよう」
 手話講座 介護講座・演習 看護講座・実習 カウンセリング講座・実習
 子どもと絵本講座 和服を着る 埴輪づくり古代文化 上方漫才研究 他

情報表現(マルティメディア)系列
 「自由自在、今、君が発信源だ」
 プログラミングT・U 電子回路 コンピューター応用A・B・C 流通経済
 英語のセリフT・U・V 総合の文学T・U・V 映像 印刷製本 他

スポーツ・文化(スポーツ&カルチャー)系列
 「こころとからだで自分を表現しよう」
 野外活動 ニューススポーツ 児童スポーツ ジョギング デザインワークT・U
 生活デザイン モダンクラフト 器楽 ペン字講座 実用書 応用生活書 他

環境科学(エコロジー・サイエンス)系列
 「実験・実習を通して君の好奇心を満足させよう」
 自動車工学T・U・V(工業高校と連携) ハローサイエンス 生命科学
 環境科学 生活園芸T・U 園芸デザイン 郷土研究 先端技術 他

 この系列以外に「カレッジシリーズ講座」と「ビジネスシリーズ講座」w歩用意していて、進学者用の科目を設置したり、工業系の科目はどの系列でも選択するように指導しているという。授業は参加体験型学習を取り入れていてカウンセリング講座、エスニック講座や手話は生徒の人気科目である。特異な科目設定されているが、専門性を重視せず、興味付けすることに眼目を置いている。そして、体験を通じて自ら進路選択に役立つように心掛けている。生徒は授業が楽しかった、表現力が身に着いた(しゃべることができる)との感想をもらしている。
 もちろん生徒はどの系列からでも科目を選択できるが、松原高校は系列の科目を学年毎に設置していて、授業は学年毎に展開されるところに特色がある。ホームルーム編成は系列に関係なく学年内の生徒で構成されるが、系列の科目の授業が必修科目の授業と同様に、同学年の生徒で編成されているため、学年としてのまとまりができている。ホームルームが大切であるということで、行事(体育祭、修学旅行)は活発である。

(2)総合学科のサポートシステム

 教員の加配20名、非常勤講師180時間(人権教育を除くと130時間)である。工業科の教員2名、商業科の教員2名そして看護科1名が配置されていて、その他は社会人講師でまかなっている。教員は教科だけでなく系列に属して、系列の目玉の授業を考えて、系列を作り上げてきた。開設当初はほぼ自前で選択科目を展開してきたが、今では外部の社会人講師、学校間連携などで生徒が外へ出ていく授業が多いのが特色となっている。広いネットワークを持っている教員(NPOをやっている教員、いろいろな人や話を知っている教員など)が、様々なおもしろい科目を作ってきたとのことである。
 中退者は1期生が18名、2期生が25.6名、いずれも3年間の中退者数である(総合学科以前から20〜30名だった)。留年はほとんどいない、いても1名位である。ともかく中退者を出さないということで、学年毎に単位認定をして、10単位落としても進級させている(これと異なり、柴島高校では3学年になって80単位そろっていなければ留年という)。3学期制をとって、各学期毎追認の機会を設けている。10単位以内であれば、進級させて一学期の間に課題やレポートで追認をしている。
 単位認定にあたって、履修要件を単位数×15時間までの欠課、修得要件を単位数×10時間までの欠課としている。履修した科目は、すべて履修しなければならない。評価はテストとレポートの比率50:50で行うことになっている。テストなしでもよい。従って、欠点(赤点)のつく生徒は、登校しなかったり、ノートを提出しなかった生徒に限られる。
 全府学区になったため全府から多様な子どもが入ってくるようになった。中国籍の生徒も30名いる。かつては成績のよい子が地元から来ていたが、地元集中が弱まって少なくなった。だが、受験倍率が2倍となり、成績の下の生徒も来なくなった。生活指導件数も、かつて年間100件あったのが、50件、10件と大幅に減った。地域性の関係で「キタ」の柴島高校は大学進学率はアップしたが、「ミナミ」の松原高校は100名弱の就職者がいるとのことである。
 

 おわりに

 文部省は1999年12月15日に、1998年度の「公・私立高校における途中退学者等の状況」を発表した(『内外教育』1999年12月21日号)。その中の都道府県別の中退者数と中退率(公・私立計)で、中退者が大きいのは1.東京11,529人(3.2%)2.大阪8,293人(3.1%)3.神奈川6,112人(2.6%)4.愛知5,981人(2.8%)5.埼玉5,964人(2.9%)の順だという。全国の総数では111,372人(2.6%)と、前年度より119人減ったものの依然高い水準が続いている。こうした中退者の多くが、神奈川の例を見るまでもなく、集中校に集中している(「独自調査 義務規定等に関するアンケート」『神奈川の高校 教育白書99』1999年10月刊を参照していただきたい)。中退者問題は、この課題集中校の問題をどう受け止め、高校教育改革をどう進めていくかの問題でもある。
 大阪でも神奈川でも今回の再編計画には、こうした課題集中校の単独であれ2校統合であれ、新しいタイプの高校への改編が少なからず含まれている。しかし高校再編は、単に再編対象校ばかりではなく、その他の高校も巻き込んだ「特色ある高校」づくりとして、全県的・全国的な高校教育改革の一環でもある。こう位置づけることで教育行政側の再編意図が、学校間格差に代えて「特色ある高校」による新たな競争をもくろんだものであることが見えてくる。いわば、新たな学校間競争の始まりとでもいえるものである。果たしてこの試みが、学校間格差を是正する力となるのだろうか?
 神奈川の高教組は1991年に課題集中校対策会議を設置して、「課題集中校からの教育改革」をスローガンに揚げて、体県教委交渉を重ねて改革に取り組んできた(その一端が『課題集中校プロジェクト97 学校づくり最前線』1997年3月刊に示されている)。しかし、小集団学習の展開や多様な選択科目の設置、単位制の弾力的運用などの改革を目標に据えてきたが、大阪のように総合学科高校への改革を展望することはなかった。この運動は、当初の5年間について、定数加配・予算分配など教育条件整備の傾斜的配分を目に見える形で前進させ、一定の成果をもたらした。しかし、1994年度から始まった県教委の「魅力と特色ある高校づくりプラン」の開始とともに、1995年度から県教委は「特色づくり」加配を設置して、課題集中校への定数加配はほぼ頭打ちの状態になった。ここにきて、さらに再編対象校への施設・設備の新たな予算配分が加わろうとしている。神奈川の県教委の施策は、「特色ある高校」づくりへほぼシフトし終わったといえるのではないだろうか。
 しかし大阪では、「教育困難校」への取り組みが盛んに行われ、松原高校を始めとして総合学科への改革の取り組みが功を奏して、総合学科高校では中退者は激減したという。府高教の役員の方の話では、第1期で再編対象校から漏れた高校から、早く計画を発表して欲しいとの声も挙がっているという。今後、一部の進学校は別として、再編対象校になるかならないかの各高校の綱引きが盛んになるのではということである。大阪と神奈川との違いは、おそらくこの基本的な再編への取り組み姿勢ではないだろうか。積極的に「特色ある高校」づくりや高校再編を利用して現場での高校改革に取り組んでいこうという姿勢の濃淡の違いがそこにあるように思われる。そうは言っても神奈川での高校再編は既に始まっている。全ての高校の学校間競争が今後激化していくと予測される。最も危惧されるのは、再編対象校になった高校の改革によって、新たな課題集中校が誕生して、学校間格差の地図が塗り替えられただけで終わってしまうのではないかということである。教育行政側の課題集中校への配慮を失わない対応を望むとともに、各高校現場で生徒の実態に見合った、生徒を中心に据えた高校教育改革の推進を期待したい

(みつはし まさとし 教育研究所員・県立中沢高校教諭)

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