君はスキーか、沖縄か
          ――選択方式による修学旅行実践――

綿引 光友  

 
 

 はじめに

 ちょうど5年前、筆者は中川捷一氏との共同研究によって、80年代以降の神奈川における平和学習修学旅行の実践を整理し、今後の取り組み指針を示した(「神奈川における平和学習修学旅行実践」『根ざす』第15号、95年4月)。戦後50年と言う節目の年を迎えるにあたって、修学旅行のみにしぼってその中でそのような平和教育・平和学習が展開されているかを集大成してみることも意義ある試みではないかと考えたからでもあった。
 折りしも小論をまとめた時期は、神奈川において、修学旅行での航空機使用が認められた直後でもあった。それ以降の動向を見ると、沖縄への修学旅行を実施する高校数は急増の一途をたどっている。すなわち、神奈川高教組平和運動推進委員会のまとめによれば、93年にはわずか3校に過ぎなかったが、99年にはなんと51校とわずか6年で17倍にもなっている。全県立高校から回答が得られているわけではないが、少なく見ても3校に1校以上の高校において、沖縄への修学旅行が実施されていることになるだろう。一方、93年にはスキー修学旅行が34校(調査校数は114校)であったが、99年にはわずかな8校と激減している。
 こうした沖縄修学旅行の急増に対して、平和運動推進委員会は毎年、沖縄修学旅行学習会を開催し、実践交流の場を設定するとともに、97年には先進的実践校の取り組みを収録した『よくわかる沖縄修学旅行の作り方』(神高教ブックレットNo.4)を作成している。
 さて筆者は、前述の小論をまとめた1年後、新1年生の担任となり、旅行係として7年ぶりに修学旅行の企画・準備等に関わることとなった。以下は、筆者の所属する学年担任団で取り組んだ修学旅行の実践報告である。しかもこの修学旅行では、沖縄かスキーかのいずれか自分の行きたい方面を生徒が選択できる方式を採り入れた。対立的に捕らえがちな平和学習とスキーを同時展開し、どちらか一方を選ばせる選択方式による就学旅行は県内でもあまり例がないのではないかと考え、ここにその取り組み状況をまとめてみることにした。 

 スキーと沖縄を同時にやってやろう

 筆者の勤務校では、95年以来2年連続して沖縄修学旅行に取り組んできた。しかも95年度の実践は、先に紹介した『よく分かる沖縄修学旅行の作り方』に収録されるなど、その積極的な取り組みぶりは現地沖縄からも注目を集めた。それだけに、それを上回る実践が組織できるかどうか私には自信がなかった。だからこそ、個人的には今回は沖縄を避け、じっくりと沖縄学習に励み、次の担当学年のときに本格的に取り組めばよいのではないかとの見通しを立てていたのである。
 そこでまずは、「生徒および保護者の声を積極的に聞くことから始めよう」ということで、入学式当日、保護者アンケートを実施することにした。体育館での入学式が終わった後、各教室に保護者が移動し、そこでPTA役員などを選出することになっていたので、その時間を利用してアンケート用紙を配布し、記入してもらうこととなった。
 続いて入学式後最初のロングホームルーム(LHR)で、ほぼ同様の内容による生徒対象アンケートを実施した。アンケートは「就学旅行を実施すべきか否か」に始まり、実施した場合の内容・形態・方面・費用、さらには航空機利用の是非についても意見を求める内容となっている。
 就学旅行実施の有無については、生徒66.8%、保護者78.3%といずれも3分の2以上が「実施すべき」と回答しており、次いで「どちらでもよい」が生徒26.0%、保護者18.9%となった。生徒よりも保護者の方が、就学旅行に対する思いが幾分か強いとの結果が得られた。就学旅行の内容および方面については下表のような数字となった。ここでも、生徒と保護者の考え方に差が見られることがわかった。また、「スキー」を希望する生徒が約3割(保護者は2割)もいることが判明した。

仮に実施するとしたら、どのような内容・形態・方面がよいですか。(数字は%)

≪内容≫

 

観光

平和学習

体験学習

スキー

その他

保護者

33.5

12.4

32.6

20.2

1.4

生徒

40.2 8.3 8.7 29.5 13.3

≪方面≫

  北海道 東北 関東甲信越 関西 山陰山陽
保護者 32.9 5.2 5.2 1.9 9.4
生徒 34.1 3.3 2.8 4.5 0.8
 
  四国 九州 沖縄 その他  
保護者 1.4 15.6 20.3 1.9  
生徒 0.8 6.9 39.0 7.7  

 こうした生徒・保護者アンケート結果を踏まえ、社会見学の実施直後のLHRにおいて生徒のみを対象とした第2次アンケートを行い、「スキー」と「観光・平和」のいずれがよいか、を聞くことにした。その結果は次のとおりとなった。

 スキー…55人(23.8%)
 観光・平和…176人(76.2%)

 同時に「観光・平和」の場合、どの方面がよいかを尋ねたところ、1位が「沖縄」94人(40.7%)、2位「北海道」89人(38.5%)となり、続いて「関西」(17人、7.4%)、「九州」(16人、6.9%)となった。いわゆる多数決の原理をあてはめれば、「観光・平和」に一本化し、決めてしまうこともできたが、担任団の中にも「従来本校で実施してきた『スキー』も捨て難い」との声もあり、三度アンケートを実施することにした。その結果、「スキー」を希望する生徒数が前回よりも5割も増え、次のような結果となった。

 スキー…78人(34.7%)
 観光・平和…147人(65.3%)

 過去3回のアンケートでスキーコース希望者は最高を記録し、しかも偶然ながら、観光・平和コースとの割合がほぼ1対2となった。そこで学年の担任団はあえて一本化の道を選ばず、どちらか一方を生徒に選択させる方式を導入することに決定した。しかし、そのあとまだ2つの難問が待ち構えていた。
 1つは、「観光・平和」の行き先をどうするかであった。沖縄、北海道、九州に関する具体的なモデルコースを作成し、それらを示しながら、アンケートを実施し、最も多かった沖縄に決定した。北海道を規模する生徒もかなりの数となったが、1〜3月という実施時期を考えると難しいと判断せざるをえなかった。
 第2の難問は実施時期の問題であった。「スキー」と「観光・平和」を同時に実施するためには、当然のことながら1月から3月の間に限定される。しかも2月には入れば、入選業務その他の学校行事も目白押しとなるので、最終的には1月下旬(3学年の学年末試験時期)となった。沖縄の気象状況を考えると、2月に入ったほうがベターなのだが、ここに落ち着いた。幸い本校では、この時期に過去何度もスキー修学旅行を実施しているので、やりやすいのではないかと判断した。そして、夏休み直前に臨時職員会議を開催してもらい、全校職員の了解を得ることができた。
 今まで述べてきた選択方式の就学旅行決定までの経過などを分かり易くまとめた保護者向け文書(PTA公害委員会からの「地区懇談会の報告」とあわせ、全保護者に郵送)を以下に資料として揚げておこう。(ここでは「参加確認用紙」は省略)

1996年10月19日

1学年保護者各位

神奈川県立都岡高等学校
校 長  細井 博範
1学年  担任 一同

17期生の修学旅行計画と参加確認

 拝啓 秋冷の候、保護者の皆様におかれましてはますますご健勝のことと存じます。また日頃より、本校の教育に対しご理解とご協力をいただき、深く感謝しております。
 台風一過の晴天の下、9月28日・29日の2日間、「みやこ祭」(文化祭)が行われ、1年生の各クラスでは焼きそば、クレープ、フリーマーケット、風船づくり、駄菓子売りなどに取り組みました。PTAでも、各委員会による恒例のバザー、植物販売、喫茶室などが催され、盛況でした。こうした秋の一大イベントを終え、1年生は目下、来る21日から25日にかけて行われる2学期中間テストに備え、復習に追い込みをかけているところです。
 さて、2学年において行われる修学旅行について、決定に至るまでの経過と計画概要についてのご報告とお願いをさせていただきたく、このたびPTA校外委員会のご協力により「地区懇談会の報告」と併せて、直接保護者の皆様方へお知らせをお届けすることにいたしました。これと並行して生徒諸君に対しては、担任の方からホームルームにおいて説明をする予定です。

(1)17期生の修学旅行決定までの経過
 ご記憶におありかと存じますが4月6日の入学式後、保護者の方々に「新入生保護者アンケート」を実施し、その中で修学旅行に対する保護者の方々のご意向をお聞きしました。その後、これとほぼ同様のアンケートを1年生諸君にも実施しました。これらの結果を見えると、観光、体験、平和、更にスキーと希望が多様化していることが分かりました。こうしたニーズに応えるためには、今までのような行き先を1つにしぼった修学旅行ではなく、生徒の希望をできるだけ生かせる方式にする必要性があります。因みに、ここ数年来の本校の修学旅行は、次のように実施してまいりました。1992年度スキー、93年度中国・四国、94年度スキー、95年度沖縄、96年度沖縄(11月6日〜9日に実施予定)。
 先の2つのアンケート結果をもとに7月までさらに3回、生徒諸君を対象としたアンケートを実施した結果、スキーと観光・平和の2方面(引率の関係からこれ以上方面を増やすことは困難)を設定し、そのいずれかを選択し、参加するといった方式の修学旅行を実施しようとの結論に至りました。こうした方式による修学旅行は本校としては初めての試みではありますが、万全を期して準備や指導にあたりたいと存じます。ご家庭内におかれましても十分にお話し合いの上、どちらか一方を選んでいただき思い出に残る充実した修学旅行を味わっていただけたら幸いと考えております。よろしくご理解のほどお願いいたします。

(2)17期生修学旅行の概要
 前述しましたように、生徒諸君に対する度重なるアンケートを実施したところ、スキー、沖縄、北海道への修学旅行を希望する声が最後まで強くありました。これらの希望を最大限に尊重しつつ、その実施時期・内容を考えた結果、最終的に次のような形にすることになりました。

1.期日 1998年1月20日(日)〜23日(金)(3泊4日)
2.方面 生徒の希望により、スキーコースと観光・平和コースの2方面のうちいずれかを選択し、参加する。参加人数は、10月末の希望調査により確定する。
3.行程および費用概算

 ◎スキー・コース…妙高高原
   1日目(20日) 上野――(あさま号)――妙高高原==杉の沢(民宿)
   2日目(21日) 開校式のあと終日スキー講習(9:30〜15:30)
   3日目(22日) 終日スキー講習(同上) *杉の沢(3連泊)
   4日目(23日) スキー講習(9:00〜11:00)閉校式 妙高高原(あさま号)==上野

JRおよびバス利用

旅行費用は58,000円〜59,000円(交通費、宿泊費、食事代、スキー用具一式、リフト代など含む)

 ◎観光・平和コース…沖縄
   1日目(20日) 羽田…那覇==首里城公園周辺==那覇(泊)
   2日目(21日) 終日南部戦線をめぐる平和学習==那覇(泊)
   3日目(22日) 中・北部観光コース(班別自主行動)==恩納村(泊)
   4日目(23日) 恩納村==(国際通り自主行動)==那覇…羽田

航空機およびバス利用
旅行費用は79,000円〜81,000円(飛行機・バス代、宿泊費、食事代、見学入場料、資料代を含む)

☆旅行費用は、予想される参加人数をもとに計算してあります。人数が確定した段階で、改めて明細をお知らせしますが、場合によっては増減するかもしれません。

(3)参加確認用紙の提出と今後
 以上解説いたしましたように、選択方式を取り入れた新しい修学旅行を実施いたしますが、旅行費用の積み立てなどのことを考えますと、ここでどちらに参加するのかの確認をしなければなりません。
 スキーと沖縄では学習内容も交通手段もまったく異なり、しかも旅行費用に2万円弱の違いもあります。お子様がどちらの修学旅行を希望するか、ご家庭内で十分話し合った上で「参加確認用紙」を切り離し、担任あてご提出くださいますようお願いします。学年ではこの用紙の提出にもとづき、今後の準備を進めますので、身体・健康上の問題が生じた場合を除き、一切変更できませんので、よく相談した上で10月28日(月)までに各担任あてご提出ください。
 これだけの説明では十分ご理解いただけたかどうか心配ですが、疑問点や不明な点などありましたら遠慮なく担任または修学旅行担当までご連絡ください。

敬具

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