特集 : シンポジウム「17歳〜高校生の生活実態と学校」
 
 将来と学校から切れた「自尊感情」

苅谷:今お二人のお話を伺っていて、これから私の話すことが、果たして一体どういうふうに位置づくのかな、ということを非常に不安をもって聞いていました。これからお話する私の内容というのは、多分、およそリアルではないし、一人ひとりの子どもの顔が見えるような話ではないし、そして、もしかすると、私の話は表面的なことしか捉えていないのかもしれない、という感慨さえ浮かぶほど、お二人からは非常にリアルなお話を伺ったわけです。
 にもかかわらず、役目でもあり、また私自身がそういう視点からものを見ているんだ、というそれぞれの視点からという、今日のテーマ設定もありますので、私の視点から見ていることについて、お話したいと思います。
 そういう意味では今までのお話は現場に根ざした個々の子どもたち、個々の学校の中の問題であったのに対して、これからお話するのはもっとマクロな話になりますし、あるいは、時代の変化といった非常に大きな話になるかもしれません。おそらく、一人ひとりの子どもたち、一つひとつの学校、そういう問題が大事であると同時に、それらが積み重なってでき上がっている今の私たちの教育全体の問題、社会全体の問題というのも、どこかで接点を持ちながら、考えていかなければならないだろうと、今までのお話のリアルさと比べると多少見当違いな話になるかもしれませんが、いくつか私なりの見方をご紹介したいと思います。
 今お話のありました自尊心、自尊感情について、今とまったく逆のお話をしなければなりません。そういう意味で、もしかすると、アンケート調査という手法が持っている限界をそのままさらけ出すかもしれませんし、あるいは、これから私が紹介する調査の結果というものは、本当は子ども一人ひとりの心情からすると、うわべだけを捉えたことにすぎないなのかもしれません。
 にもかかわらず、その中から見えてくる変化というものの中に、子どもの変化だけではなくて、われわれの社会の変化であるとか、われわれが今生きている時代の変化ということを読み取っていかなければならないだろう、と―。
 つまり、そういうマクロなレベルでの大きな判断というものもやはり必要だろうというふうにも考えます。これからお話していくことは、17歳という高校生の実態をどう見るかというときに、それぞれの視点、ということなのですが、高校生を実は子ども一人ひとりとして見るのではなくて、日本の社会を映し出す鏡であり、あるいは、未来の日本社会を占う、一つの、何というんでしょうか、インデックス=指標であるというような捉え方をしています。
 今日お話するのは、社会という視点から、17歳というものを見ていこうということでありますし、もっと限定して言えば、それを社会階層、階層という視点から見ていったらどうなるか、というお話になります。
 階層ということから言うと、今のお二人のお話と若干どこかでつながってくることがあるかな、と思いますけれど、その辺を含めて聞いていただけたらと思います。
 私は、紹介にもありましたように、高校の現場にいるわけでもありませんし、高校生と接しているわけでもなくて、大学にいて社会学を専攻している、社会学の立場から教育を研究している、そういう研究者として今日は呼ばれたんだと思います。ですから、社会学的な視点というところでお話をします。私の場合は社会調査などを通じて出てきたデータを基に見ていこうという立場を採っております。今日は、別途2枚の資料を配布しております。
 ちゃんとした番号を付けておかなかったものですから、資料は1枚目と2枚目が逆になっておりまして、話の順番からすると、2枚目のほうを最初に見ていただくほうがよろしいかと思いますが、そのデータを中心にしてこれからお話をします。
 ここで使います調査というのは、私どもが行ってきました1979年と1997年、同じ調査を1999年にも繰り返しましたが、大きく分けて、70年代の末、いわば高度成長期のすぐあとで行われた79年の調査と、それとまったく同一の高校(これ全部で二つの県で11の高校を採っているんですけれども)で、97年と99年に繰り返して行った調査の結果です。
 なおこれらの県につきましては、県によっては、その間、私立の進学校ができたり、学校区が変わったり等々で、いろいろな変化があって、同じ学校を採っても、その変化が捉えられないんじゃないかということもございますが、われわれが対象としました県はそういった大きな変化がほとんどない、つまりそういった意味で、高校生自身の変化がここに現れているだろうというふうにみなせる、そういうデータだと思っていただいて結構です。
 まず最初に、これはすでにいろいろなところで使っているデータなのでご覧になっていただけた方もあるかもしれませんが、子どもたちのいわゆる“勉強離れ”がいかに進んでいるかということについて示したのが「学校外での学習時間の変化」(グラフ1)です。いずれも高校2年生の結果ですが、79年と97年を比べますと、(これは高校2年の時点で卒業後にどんな進路を辿りたいか、という進路希望別に出したもので、平均の時間を分で表しておりますけれど)家や塾等を含めて、一日何時間、合計で勉強しているか、という数字です。
 ここで進路別に見ましても、どこでも減っているということで、これはもういろいろなところで、いろいろな機会に、私がこのデータを使って言っていることですが、ここ20年ぐらいの傾向を見ていきますと、高校生は明らかに勉強しなくなっています。高校生が勉強しなくなっているという傾向は、いろいろなデータを見て、およそ間違いないと断言できるくらい、各種のデータで確認できております。
 私が問題にしたいのは、そうした勉強をしなくなるということが、どういうことによって生まれているのかという背景の問題です。グラフ2、これは推薦入試で受けたいか、一般受験で受けたいか、ということで出してみたものですが、明らかに(97年だけで79年のときには聞いていないんです)推薦で大学に行こうとか、短大に行こうと思っている生徒ほど、勉強しなくなります。
 もちろんこういったことは、生徒の多面的な学力以外の面も評価しようという推薦入試の趣旨に見事に合致しているわけですけれども、どんどん進む少子化の流れの中で大学が、いわば青田買い的に推薦入試を進めていきますと、高校にとっては、生徒たちが勉強しなくなるという環境を準備してしまう、というデータです。
 しかし、問題は、誰もが等しく勉強しなくなっているわけではないということです。表がちょっと見にくいかもしれませんが、1979年と97年それぞれの勉強時間を親の職業、親の学歴ごとに算出したものが、右に並んでおります。ここでは細かいことは申し上げませんが、簡単に言ってしまって、親の学歴が高いほど、あるいは、親の職業が専門・管理とか、そういうカテゴリーに属する職業分類にあるほど、そういう家庭の子どもたちの勉強時間の減り具合は、そうでない家庭の子どもに比べて、小さいです。(表1〜4)

表1

  79年 S.D 97年 S.D 最大値
との差
(79年)
最大値
との差
(97年)
79年と
97年の差
専門・管理 119.5 82.1 401 92.4 73.9 469 - - 27.1
事務 109.2 80.3 203 67.5 62.1 172 10.3 25.4 41.7
販売・サービス 97.4 75.2 114 61.0 68.9 148 32.1 31.9 26.4
自営業 90.0 77.0 153 56.1 69.5 92 29.5 36.8 33.9
マニュアル 83.6 77.1 342 50.8 69.6 260 35.9 42.1 32.8
農業 60.9 68.1 96 79.1 105.9 11 58.6 13.8 -18.2

表2

  79年 S.D 97年 S.D 最大値
との差
(79年)
最大値
との差
(97年)
79年と
97年の差
大学 13.2 80.5 256 96.5 74.4 774 - - 33.7
短大・専門学校 114.4 84.5 27 75.7 76.1 88 5.1 17.2 38.8
高校 9.5 78.1 603 61.3 66.3 571 20.0 31.6 38.1
中学校 79.3 76.6 401 32.7 54.6 134 40.2 60.2 46.6

表3

  79年 S.D 97年 S.D 最大値
との差
(79年)
最大値
との差
(97年)
79年と
97年の差
大学 123.2 89.8 85 106.3 .74.3 179 - - 33.7
短大・専門学校 124.9 71.9 61 85.4 76.5 280 -5.4 17.2 38.8
高校 102.6 79.9 710 63.8 68.5 725 16.9 31.6 38.1
中学 86.5 78.6 451 27.4 40.6 80 33.0 60.2 46.6

表4

  1979年 1997年
  Bata B Bata
父職 0.259 0.029 0.235 0.031
母学歴 -1.134 -0.028 3.836 0.092...
男子ダミー -4.045 -0.024 -7.281 -0.050...
高校ランク1 116.876 0.659... 108-601 0.683...
高校ランク2 91.613 0.441... 65.482 0.352...
高校ランク3 75.531 0.368... 74.912 0.392...
Constant 37.387 .. -42.266 ..
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