特集 : 「総合的な学習の時間」が迫ってくる
 
共同でつくる総合学習の【実践】

久田俊彦・湯浅恭正・
船越 勝・子安 潤(編)
フォーラム・A
2667円+税

 共同とは、 教師が子どもを一方的に管理し、 または能力主義的に序列化する主体 (教師) −客体(子ども) の関係、 あるいは逆に教師の指導性を軽視し、 指導から支援という最近の主張に示されているような客体 (教師) −主体 (子ども) の関係ではなく、 教師と子どもが主体−主体の関係になること。 この視点からすると 「総合的な学習の時間」 は共同足り得ていない。 体験重視で教師の指導が軽視されると、 現代の課題に対する批判的知性は生まれることはない。 「心がけ」・「やり方」 を学ぶ課題学習に陥ることになるだろう。 そういう問題を乗り越えるための実践報告が本書に示されている。 
 多忙化が進む現場にあって、 示されたような実践は難しいかもしれない。 しかし、「総合的な学習の時間」 を少しでも総合学習に接近させるためのヒントが本書には示されている。 (金沢) 
 

エンカウンターで学級が変わる 高等学校編

國分康孝(監修)
図書文化社
2800円+税

 エンカウンターとは、 本音と本音の交流ができるような親密な人間関係をいい、 カウンセリングの一つである。 エンカウンターを体験するための実践事例が丁寧に多数紹介されている。 総合的学習において、 自分探し・進路保障などを目標とすることも多いが、 その際に役立つような、 自己認識を高め、 学習者同士のつながりを重視した実践シートが掲載されている。 教科指導・ホームルーム活動・保護者会などに応用できる事例がある。 ただし、 これさえあれば大丈夫というようなマニュアル本的な使い方に終始することは、 本来のエンカウンターの趣旨に沿わないだろう。 (武田) 
 

ここが問題。さてどうする。−21世紀カリキュラムづくりへの道しるべ−

日教組カリキュラム
改革委員会(編)
アドバンテージサーバー
1700円+税

 「新カリ」 「総合的学習」 と騒がれていても、 実は、 指導要領は自分の教科の所しか読んでいないと言う人も多いだろう。 本書は、 各教科別も含め、 どのように指導要領が変わり、 何が問題かを解説している。 新カリキュラムの議論に入る前に、 全体像を考えるために読んでおきたい。 自分の教科以外も把握しておくことが、 教科枠を越えた総合的学習で何をするか考えていく際に、 役立つだろう。 そして、 学校全体のカリキュラムの中で、 何を目標として生徒の学びを組み立てるのか、 そこでの教科活動と教科外活動を整理することも必要だ。(武田) 
 

学校づくりと人権総合学習 総合的学習の開拓17

長尾彰夫 
明治図書
2060円+税

 総合的学習の内容は各校にフリーハンドを任されている。 また、 学校の実状に応じて、 試行錯誤の連続の中で組み立てて行かざるをえない。 そのような中でカリキュラムを考える際には、 成果は個人の資質に帰されてしまうものとなってはいけない。 個々人の 「名人芸」 的な実践ではなく、 生徒・教職員・保護者らがどう 「学校づくり」 をすすめようと考えるかがポイントになる。 
 本書は、 「学校づくり」 の基盤として職員集団の共通理解に重点をおき、 そこでの管理職の資質などにも言及している。 総合的学習の一形態としての人権学習の解説書というよりも、 学校と教育の在り方を人権学習の視点から問い直す意図を持った本といえよう。 (武田) 
 

メディアリテラシー教育の実践事例集

藤川大祐
学事出版
1600円+税

 情報教育が注目を浴びているが、 従来重点を置かれてきた情報収集能力の育成・機器の扱いと同時に、 是非とも情報を多面的な視点から読み解く力を養いたい。 たとえば、 一つのテレビコマーシャルから何が読みとれるか。 従来から、 ジェンダーフリーや消費者教育の視点からの実践などは、 様々報告されていようが、 テレビ・雑誌・メールなどの情報が氾濫する中に生きる人間にとって、 必要な能力が今あらためて問われている。 
 言語的能力・社会的関心・情報処理能力・芸術的感性を総動員しつつ考えるメディアリテラシーを、 総合的学習の中に取り入れていくヒントがたくさんある一冊だ。 (武田) 
 

人間関係をつくる力を育てる

森下一期(編著)
晩聲社
1800円+税

 近年、他人との関係をつくるのが苦手な人間も多いと思われるが、編著者らは、学習指導要領の改訂に際してキャッチフレーズとなっている「生きる力」の育成を、「人間関係をつくる力」という点から考えている。小・中学校での、授業やクラス経営・生徒指導、学校行事などの実践例を多く取り上げる。高校での実践はないが、第3部の「総合的な学習で人間関係力を育む」の部分は参考になる。総合的学習の中心的なテーマがなんであれ、学習の中では、他者の意見を聞く、共同作業をするといったものも含まれ、総合的学習の目標の一つに「人間関係をどうつくるか」という視点は欠かせないからだ。
 また、普段あまり目にしない小中学校の実践を知っておくことも参考になるだろう。(武田)
 

総合学習としての人権教育

長尾彰夫
明治図書
1260円+税

 まず、お断りしておかなければならないことだが、本書は新学習指導要領が発表される前に発刊されたということである。しかしそれは、「総合的な学習の時間」に至るまでの歴史的な把握も踏まえた、先見性ある書であった。例えばコアカリキュラムの問題にも触れているし、いわゆる「教科による専門分化」の官僚制にも言及している。
著者は「人権」をテーマとした総合学習を提案する。人権というテーマは、いくつかの教科にまたがる重要なものであることや、人権を学ぶことが子どもたちの価値観・生き方・アイデンティティの形成に直結しているからだ。いわゆるお説教型人権教育の克服が意図されていることも付け加えさせていただきたい。(手島)
 

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