川崎市の高校再編を考える
教育討論会に参加して
 
神 野 二三代

 教育研究所の教育討論会に参加したが、 頭に浮かぶのは直接関わっている川崎市の高校再編問題である。 本稿では、 川崎市のケースを報告するので神奈川県全体の再編を検討する際の参考にして頂きたい。  私は、 現在高津高校定時制で生徒指導部を担当している。 神奈川県・横浜市の定時制の統廃合のあおりをうけて、 川崎市以外から、 25%の生徒が通学している。 私は17時頃から校門に立ち、 生徒が登校してくるのを迎える。 昇降口の前で活動をしている全日制の運動部の部長に 「ごめんね。 定時制の生徒が脅えるから通り道をあけて、 向こうの方で活動してもらえないかなぁ。」 と遠慮がちに言い、 話をつける。 放課後も、 校門に立つ。 そして21時以降は校舎の外まわりや校舎内のトイレや死角をまわり、 ゴミ拾い・モク拾いをする。 勤務時間はとっくに過ぎている。 1 時間校内を歩き回れば、 痩せそうだが、 家にかえれば、 ストレスもたまり、 なぜか、 飲んで食べる。 そして疲れていつの間にか、 居間の電気や暖房をつけたままの状態で、 炬燵で眠り、 朝旦那に起こされる。 社会科の授業では、 えらそうに環境問題をとりあげ、 エコを言っている当の本人がエコではない。
 川崎市立高校は、 川崎・総合科学・商業・橘・高津の 5 校があり、 全日制・定時制あわせると10校になる。 市教委は、 高津以外の各校の全日制において、 時流に乗って普通科の他に学科の新設や改編を行った。 その時は目新しさもあり、 入試の倍率も上がったが、 数年たつと中には、 定員割れの学科もでてきた。 その学校の特定な部活動をやりたいために倍率の低い学科に応募するケースもある。 中学校卒業時に、 自分の進む道を限定し、 専門学科に行くことは、 中学生に相当強い意思決定が求められる。 普通科の高校に進学してから、 そこで将来のことをじっくり考えてもいいのではないかと思う。 福祉科・生活科学科・国際ビジネス科・科学科・国際科・スポーツ科等、 多様な学科を立ち上げ、 その学校の教員は必死にその学科を成功させようと奮闘する。 前任校は橘全日制だった。 校舎改築を行い新しい学校になっただけでも、 人気が高まるのに、 なぜ多種多様な学科改編をするのか私には理解できなかった。 以前の (いろいろな学科にわかれるが) 工業科・商業科・普通科の設置でいいのではないかと思った。
 神奈川県や横浜市の高校教育改革の煽りをうけて、 魔の手がこの川崎の地にも伸びた。 「川崎らしい教育」 という訳のわからない言葉をモットーとしている市教委は、 2002年に川崎市立高等学校振興計画案を出し、 各種検討委員会を設置。 2007年に 「市立高等学校改革推進計画」 を決定し、 市立高校の再編に乗り出した。 この計画は、 中高一貫教育と 2 部制定時制課程を導入したものだ。 定時制の改編については、 1 次計画 (当初2013年度実施) には、 川崎高校に昼間・夜間の 2 部制を導入、 商業定時制は廃校、 普通科は川崎高校へ移管、 商業科は総合科学高校へ移管、 総合科学高校の学科改編、 橘高校の 3 修制は廃止、 といった内容が含まれている。 2 次計画においては、 橘高校の 4 修制が廃止、 高津高校は 2 部に改編されることになっている。 1 次計画は、 遅れていて2014年度に実施の予定。 5 校ある定時制は、 将来的には 3 校となるが、 2 次計画は具体化されていない。
 校舎の全面改築が伴う川崎高校には、 中高一貫・生活科学科・福祉科・昼間定時制・夜間部があり、 福祉科とは縁のない南部療育センターも同じ施設内に移設される計画である。 まさしくてんこ盛り状態の学校をつくろうとしている。
 この高校教育改革において市教委の高校教育改革担当は、 中学校生徒・保護者に対し、 「望む高校像」 のアンケート調査を2008年に実施した。 アンケートの中には、 基礎学力の充実・部活動の充実等を望む声があり、 市教委としてもその声を学校づくりに利用した。
中高一貫教育について、 市教委は、 川崎らしい教育であるという理屈づけをしているが、 英・国・数の学習を 8 時30分から各20分間集中して行うe- learningを実施し、 基礎力向上と称しているが、 疑問である。 エリート養成教育につながる可能性があり、 ひいては川崎南部の中学生が入りにくい学校になっていくのではないかと思う。 定時制の専用教室が縮小される一方で、 中高一貫校や全日制課程では、 HRを解体した教科教室制を行う予定である。
 川崎高校のアリーナは 3 つの予定であるが、 グランドも狭く、 中学校・全日制・昼間定時制・夜間定時制の体育の授業・おまけに各課程の部活動を行うだけのゆとりは、 施設面では備えていない。 昼間定時制と夜間定時制を一つの学校として扱おうとするために、 昼間定時制の生徒が17時35分にSHRが終了して、 夜間定時制のHRが終了する21時15分までの間、 昼間定時制の生徒をトレーニングルームで自主練習をさせようとしている。 部活動は、 本来生徒の自主活動ではあるものの、 自主練習の中で学校事故がおきた場合は、 誰が責任をとるのだろうか。 計画性の無さが露呈し、 結局のところアンケートの要望に応えられない現実がある。
 何か目玉をつくり、 その学校の商品価値を高めて、 生徒を集めていく。 校舎が新しくなっただけでも、 人気が集まり、 倍率が高くなるのに、 学科を改編し、 新しいネーミングをつけたり、 中高一貫や昼間定時制を実施したり、 手をかえ品をかえ、 時の話題に必死に乗り遅れまいとする。 その背後には定時制の統廃合を行い、 学級数を減らす。 公私協の 6:4 の割合のあおりを受け、 全日制を落ちた生徒が定時制に入ってくる。 本来定時制で学びたい生徒が、 入りにくくなっている定時制の現実がある。 このような状況が露呈するが、 根本的な解決策は見出されず、 現場の教員が翻弄されながら目の前の生徒と向き合っていくしかないのが現状である。
(かんの ふみよ 
    川崎市立高津高等学校定時制教員)
ねざす目次にもどる