特集U
原発と核武装―国策としての原発―
 
高 田 良 衛

 「新兵器や、 現在製造の過程にある原子兵器をも理解し、 またはこれを使用する能力をもつことが先決問題であると思うのであります。」
 これは、 1954年 3 月、 中曽根康弘らによる日本初の原子炉建設のための原子力予算の国会趣旨説明の一節である。 日本の原子力開発の出発点がここにある。
 原発は 「国策民営」 として 「コスト優先、 安全性無視」 ですすめられてきた。 その安全性無視は事故後も変わらず、 わずかな津波対策だけで運転の再開がすすめられようとしている。 政府・東電はマスコミを動員して問題を小さく描き 「直ちに健康の被害はない」 とキャンペーンしている。 現在の福島市 (1.25マイクロシーベルト/h) は、 もしもそこに 「チュルノブイリの避難基準」 が適用されていれば、 無人の町になるという。 (早川由紀夫・群馬大教授ブログより 「移住義務あり1.11〜3.08マイクロシーベルト/h」) 福島の子ども達は膨大な量の放射能の中に放置され、 健康と命が蝕まれている。
 原発における 「国策」 とは、 「エネルギーの安全保障」 であり、 「核武装の潜在的能力の保持」 ということである。
 1969年に佐藤栄作首相の指示によりつくられた外務省の内部資料 『わが国の外交政策大綱』 には 「当面核兵器は保有しない政策をとるが、 核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持する」 「プルトニウムの蓄積と、 ミサイルに転用できるロケット技術は開発しておかなければならない。」 と書かれている。
 原発の使用済み燃料を再処理することでプルトニウムが抽出できる。 しかし、 「兵器級のプルトニウム」 (高純度のPU239) は高速増殖炉か黒鉛炉でしか作れない。 政府はナトリウム漏れ事故を起こした もんじゅ などの高速増殖炉開発にすでに 2 兆4000億円を費やしながら、 今もその開発に固執している。 米仏英などの先進国は、 技術的な困難から商業用の高速増殖炉開発を早くに断念している。
 核保有国は軍事用の高速炉を持っているために、 商業用の開発に固執する必要がないからである。 日本は常陽ともんじゅの運転ですでに兵器級PU239を36s、 原爆にして20発分を保有していると言われている。 (『隠して核武装する日本』 より)
 また、 核兵器製造のためには 「ウラン濃縮」 「原子炉」 「再処理」 の一貫した技術を持つことも必要である。 核兵器保有国以外でこの三技術を持っているのは日本だけである。 使用済核燃料については再処理せずにそのまま 「直接処分」 (埋め立て) する方が安価であり、 世界の大勢になっている。 日本政府が再処理にこだわるのは、 核軍事技術の保持のためと言われている。
  「原子力技術はそれ自体平和利用も兵器としての使用もともに可能である。」 「平和利用にせよその技術が進歩するにつれて、 兵器としての可能性は自動的に高まってくる」 (岸信介 『岸信介回顧録』)
  「非核三原則」 は国会決議であるが、 法案化は拒否され、 当面の政策に過ぎないとされてきた。 政府は 「憲法上、 核武装は禁じられていない」 という見解を内閣法制局も含め国会で繰り返し明らかにしてきた。 この見解は、 民主党政権になっても変更されていない。 国会議員には、 野田首相をはじめとして 「国際情勢次第で核武装を検討すべき」 とする者が少なくない (毎日新聞アンケート)。 今では原発による核抑止力保持が公然と語られている。
 福島原発事故が原因で、 今後 5 年〜10年の間に100万人単位でガン患者が出るだろうとも言われている。 (米国原子力専門家アーノルド・ガンダーセン、 日刊ゲンダイ 8/17) 広島・長崎の日米放射線影響研究所、 千葉の放射線医学総合研究所など、 放射線医学に関しては最も権威あるとされる機関であるが、 原子力推進のために国策としてつくられた。 そこの医者・学者は、 マスコミに露出し、 内部被曝の危険性などを隠して放射能に関する安全神話をまき散らしてきたし、 いまでも政府や電力会社の 「大本営発表」 を支えている。 このままでは福島や日本中の子ども達の将来はどうなるのか。 「脱原発」 は急務ではないか。 そして、 政府が国民に秘密裏に核武装を準備しているなどということを許してはならない。

●参考文献
  『隠して核武装する日本』  (槌田敦ほか、 影書房)
  『隠される原子力―核の真実』 (小出裕章、 創史社)

  

  (たかだ りょうえ 元翠嵐高校職員)
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