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研究所独自調査
「教員の意識調査」 中間報告
大島 真夫
 
 教育研究所では、 去る2012年10月に 「教員の意識調査2012」 を実施した。 本稿では、 その中間集計の結果についてご報告する。 調査の実施ならびに回答には大変多くの方々にご協力をいただいた。 この場をお借りして厚くお礼を申し上げたい。  
  1. 調査の概要
    本調査の実施時期、 調査対象、 調査方法、 回答数は以下の通りである。
    実施時期:2012年10月
    調査対象:組合加入の県立高校教員 (非常勤、 臨任、 再任用は含まず)
    調査方法:1 校あたり全日制は10名、 定時制・通信制は 5 名に調査票を配布 (配布数1520)
    回 答 数:971名 (配布数に対する回答数の割合は63.9%)
     主たる調査項目は、 教員になろうと思った理由、 高校教員という仕事への評価、 業務や職場環境などについてふだん感じていること、 昨今の教育改革やさまざまな高校教育制度への賛否などである。
  2. 回答者の基本属性
     表 1 〜 3 は回答者の基本属性である。 男女別年齢別 (表 1 ) に見ると、 男女別では男性の方が、 年齢別では50代および60歳がもっとも多くなっている。 前回2003年調査では20代の回答者数がきわめて少なかったが、 今回調査では一定の傾向を把握するのに足る回答数が確保できており、 世代別の分析についても今後検討を進めたい。 また、 学科別課程別 (表 2 ) に見ると、 最も多いのは全日制である。 定時制と通信制については回答者数が少ないので、 これらの回答傾向を見る際には注意を要する。 職位別 (表 3 ) に見ると、 総括教諭からの回答も相当数あり、 一般教諭との回答傾向の比較も可能となっている。
  3. 教員になろうと思った理由
     ここからは、 調査結果の概要を簡単にご紹介していきたい。
    「どのような理由で教員になろうと思いましたか」 という質問への回答結果が図 1 である。 「そう思った (とてもそう思った+まあそう思った)」 の割合が多い順に上から並べてある。 「生徒とのふれあいを望んでなりたいと思った (79%)」 「利潤を追求しない仕事だからよいと思った (67%)」 のように、 教職という仕事に固有の特徴を理由にあげる回答者が多かった。
  4. 高校教員という仕事への評価
     次に、 「高校の教員の仕事をどのように評価していますか」 という質問への回答結果を見よう (図 2 )。 「そう思う (とてもそう思う+まあそう思う)」 の割合が多い順に上から並べてある。 「精神的に気苦労の多い仕事だ (92%)」 「体力がいる仕事だ (92%)」 については、 そう思うと回答した割合がいずれも 9 割を超え、 多くの教員が教職を肉体的・精神的にハードな仕事だととらえていることがわかる。 ただ、 その一方で 「生徒と接する喜びのある仕事だ (89%)」 のように肯定的に教職という仕事をとらえている教員が多いこともこの結果から伺える。
     他方、 「経済的に恵まれた仕事だ (40%)」 「社会的に尊敬される仕事だ (33%)」 という項目については、 そう思うと答えた割合は50%に達しなかった。 仕事の大変さに見合ったものが得られていないと感じている教員が多いことを示唆しているのかもしれない。 また、 「自分で決めることのできる範囲が広い自律的な仕事だ (46%)」 についてそう思うと答えた割合は半数程度にとどまった。 これは、 総括教諭制度の導入など近年行われた一連の組織変更の影響を受けた結果なのかもしれない。 この点については、 改めて後述する。
  5. 業務や職場環境に対する評価
     次に、 業務や職場環境に関する20項目に関して 「ふだん、 次のようなことを感じますか」 と尋ねた質問への回答結果を見てみたい (図 3 - 1 〜 3 - 3 )。
     まず、 「感じる (いつも感じる+時々感じる)」 の割合が多かったものが図 3 - 1 である。 現在の教員の仕事が多忙であることや、 教員への管理が厳しくなり自律性が失われつつあることを示す項目に対して 「感じる」 という回答が多くなっている。
     図 3 - 2 は、 「感じる」 と 「感じない (あまり感じない+全く感じない)」 の割合がほぼ同じだったものである。 教員という仕事を負担に感じているかどうかに関する項目が多く見られる。 負担に感じている教員もいれば、 感じていない教員もいる、 という状況のようだ。 勤務校の状況、 分掌は何か、 どんな部活動の顧問を担当しているかといったような、 一人一人異なる客観的な労働環境が、 こうした負担感への評価を左右させているのではないかと推察される。
     図3-3は、 「感じない」 の割合が多かった項目である。 これ以上の部活動負担については否定的な意見が多く、 また生徒との関わり合いを苦痛に感じる教員も少数派であることが伺われる。
  6. 教育改革・現行の高校教育制度への賛否
     次に、 昨今の教育改革や現行の高校教育制度について 「次のことについてどう感じていますか」 と尋ねた質問への回答を見てみよう (図 4-1〜4-3)。
     図 4 - 1 は、 「賛成 (とても賛成+やや賛成)」 の割合が多かった項目である。 スクールカウンセラー配置と学校五日制については、 賛成という回答が非常に多かった。 また、 NPOなどの外部資源については、 「どちらとも言えない」 判断を留保した人が 3 割程度いたものの、 半数以上の賛成を得ている。 学校組織が外に対して開かれ、 教員とは立場の異なる専門家が学校に参画しつつあることに対して、 それほど抵抗は感じられていないようだ。
     図 4 - 2 は、 「どちらとも言えない」 と判 断留保した人が多かった項目である。 管理職登用試験の実施は、 賛否についてはどちらかと言えば賛成の方が多いが、 最も多いのは判断留保をしている人である。 人事異動における公募制度と学区撤廃については、 賛否で言えば反対の人が多いものの、 判断留保している人もそれと同じかやや多いくらいに存在している。 賛成・反対・判断留保しているのはそれぞれどのような人たちなのかという点については、 今後さらに分析を進めていきたい。
     図 4 - 3 は、 「反対 (やや反対+とても反対)」 と回答した割合が多かったものである。 多くの項目がこれに該当する。 教育改革の名の下にさまざまな新しい制度が導入されてきているが、 現職教員からは高く評価されているとはいえないようだ。 とりわけ、 教員免許更新制度については、 反対と回答する人がほぼ 9 割に達していた。
  7. 総括教諭制度に関する一つの分析
     以上の結果は、 回答者全体の傾向について見たものである。 今後、 さらに詳しく属性別に集計するなどして、 何が問題の原因なのかという分析を進めていきたいと考えているが、 ここではその試行として、 総括教諭制度が教員の意識にもたらしている影響について考察をしてみたい。 図 4 - 3 で示したように総括教諭制度に対しては賛成がわずか 9 %にとどまり反対が66%にも達しているが、 実際のところこの制度が導入されて現場にはどのような影響がもたらされていると考えられるのだろうか。
     図 5 は、 「学校運営にかかわっている感じがしない」 と 「職員会議での議論が尊重されていない」 の 2 つの項目について、 世代別・職位別に集計したものである。
    まず 「学校運営にかかわっている感じがしない」 であるが、 図 3 - 2 に示したように、 世代や職位といった属性によって分けずに回答者全体について集計したところ、 「感じる」 と回答した人の割合は58%であった。 しかし、 図 5 を見ると、 世代や職位によって 「感じる」 の割合がずいぶん異なることに気づく。 20〜30代、 40代以上 (教諭)、 40代以上 (総括教諭) という3つのグループのうち (20〜30代で総括教諭と回答した人は今回調査にはいなかった)、 「感じる」 がもっとも多かったのは40代以上 (教諭) であった (68%)。 同じ40代以上でも31%にとどまった総括教諭とは大きな違いがある。 このことは、 40代以上においては、 総括教諭であるかどうかによって、 学校運営に関わっている感覚が異なっていることを示している。 ひょっとすると、 総括教諭でない40代以上の教員は、 学校運営に関してある種の疎外感を味わっているのかもしれない。 もしそうだとするならば、 総括教諭制度は40代以上の教員の意識に大きな分断を生み出しているのではないかと思われる。
     次に 「職員会議での議論が尊重されていない」 であるが、 ここでも学校運営に対する評価と同じような状況が見られる。 40代以上の教諭では、 実に 8 割以上の人が 「職員会議での議論が尊重されていない」 と感じている。 総括教諭との差も大きい。
     総括教諭制度には、 意志決定を早めるなど いくつのメリットが確かに存在するのかもしれない。 しかし、 今回の調査に見られるように多くのベテラン教員の当事者意識を奪っているのならば、 全体として見たときに学校運営にとってプラスになっているのかどうか疑わしいと言わざるを得ないのではないだろうか。
 今回は総括教諭制度がもたらしていると思われる問題について簡単な考察を行ったが、 今後さらに分析を進めて、 改めて調査結果を公表する予定である。

(おおしま まさお 教育研究所員)
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