学校から・学校へ (X)

「私たちが大人と子どもの架け橋になる」

高橋 遼平

  1. 東京ユースミーティングとは
     大人とも子どもとも言い切れない私たち学生にこそ、 できることがあるのではないか。 自らも遺児家庭・後遺障碍者家庭で育ったあしなが育英会の大学奨学生・あしなが学生募金のボランティアスタッフの 5 人を中心に、 東京ユースミーティングが動き始めた。 4 月のはじめのころだった。
     東京ユースミーティングは、 子ども支援に関わる参加団体のリレートーク、 学生集会、 街頭パレードの 3 部構成で行われた。 きっかけは、 子どもの貧困対策法の大綱策定と、 その検討会議だ。 学生が架け橋となって、 子どもたちに必要な政策を政府や各党の国会議員に直接届けたい。 大綱の検討会議に学生からの提案を遡上に乗せたい。 目的は、 子どもの貧困に関わる団体間でも十分に取れていなかった大綱内容へのコンセンサスをまずは全国の学生間で得ること。 また、 その学生の総意を直接政治・行政に届け、 大綱の実効性を確保すること。 そして、 貧困の判断基準を決定する社会に広く子どもの貧困解決の必要性を理解してもらうこと。 その 3 つだった。

  2. 私の体験
      「責任感が強く、 努力家だった」。 父をよく知る親戚はそういった。 私の父は、 小さな建築会社の社長だった。 毎日、 作業服を着て仕事に向かう父になんとなく憧れ、 尊敬していた。 そんな父は、 私が中学一年生の秋に、 自殺した。 会社の負債を、 自分の生命保険金で返済しようとして死んでしまった。 「命を懸けて守られたのだ」。 そう思うと涙が流れた。 私も誰かのために生きたいと思った。 しかし、 自殺では保険金はおりなかった。 結局、 母が自己破産することで借金は清算された。 父の生きた証であるマイホームも差し押さえられ、 守ることができなかった。 父の死後、 母は、 私と当時小学 5 年生であった妹を養うため、 一日中働き詰めになった。 ただ普通の生活を続けていくことがどんなに困難なことか。 私は、 尊敬する父の死と母の苦労から思い知った。

  3. 子どもの貧困の現状
     いま、 「普通の生活」 から排除され、 ほかの子どもに比べて、 そのスタートラインから大きな不利を抱える子どもたちが増えている。 日本でも平均的な家庭の半分以下の所得で生活する子どもたちの割合を示す子どもの貧困率は、 2012年の調査で16.3%に達し、 過去最悪を更新し続けている。
     特に、 ひとり親家庭の就労率は 8 割超えているにもかかわらず、 ひとり親の子どもの貧困率は、 54.6%と先進国最悪の水準だ。 背景には、 政府の所得再分配機能が不十分なことと、 ひとり親に不利な就労環境がある。
     子どもの貧困は大きな教育格差をもたらし、 親から子へ貧困が受け継がれる 「貧困の連鎖」 を生み出している。 いま、 経済的に厳しい家庭の子どもたちの進学は、 家族の誰かの自己犠牲で成り立っている。 心も身体もすり減らして、 子どもたちのために身を粉にして働くお母さん、 お父さん。 妹や弟のために、 進学をあきらめて、 自分の夢をあきらめて、 就職の道を選ぶお姉さん、 お兄さん。 家族の誰かのあきらめが、 国際的にも高額な大学・専門学校などの授業料負担を支えている。
     しかしながら、 子どもの貧困は経済的な問題だけではなく、 そもそも大学などへの進学を目指す意欲、 学力を奪ってしまう。 勉強するためには、 食事や健康、 集中することのできる環境などが前提条件として必要だ。 子どもの貧困は、 お金がないことを起点に、 子どもたちが勉強に継続的に集中して取り組む前提条件を奪ってしまう。 病気になったら医療サービスを受診できること、 1 日 3 食の食事、 安心して生活できる家庭環境など今では当たり前になったあらゆる機会から、 多くの子どもたちが排除されてしまう。

  4. 子どもの貧困対策法
     そのような深刻な状況を受けて、 昨年 6 月、 衆参両院の全会一致で 「子どもの貧困対策法」 が成立した。 あしながの大学生をはじめ、 たくさんの市民の想いに政治が応えた瞬間だった。 成立の現場で、 感極まり涙を流す先輩たちを見て、 この成果を無駄にしたくないと強く思った。 理念法である同法を政策として具体化するために、 今年の 8 月末、 政府が大綱を策定する。 7 月に予定されていた大綱策定が 8 月に先延ばしにされたのは、 7 月に発表された子どもの貧困率が過去最悪を更新したことが大きい。

  5. ユースミーティング版大綱案
     私たち学生は、 子どもの貧困対策に携わる全国12団体の学生を中心に学生版大綱案を取りまとめ、 東京ユースミーティングで政府・各党の代表に発表して、 その大綱案の実現を要請した。 法律制定時のように、 参加された政治家は、 私たち学生の想いに力強い答弁で応えていただけた。 特に下村文科大臣は、 文科省の管轄する項目は可能な限りすべて取り入れ、 実現できない場合も私たちが納得できる理由を説明すると応えてくださった。
     学生版大綱案のすべての項目が重要であるが、 その中でも最重点項目として 「子どもの貧困問題の見える化」 と 「推進体制」 を訴えた。 まず、 わかりづらい子どもの貧困の実態を見える化することが、 広く社会から理解を得るために重要だ。 また、 施策を行う上で、 いかなる指標を目標にするかも重要だ。 指標の中でも、 最も改善を目指すべきところは、 やはり子どもの貧困率だ。 また、 先進国最悪のひとり親の家庭の貧困率の改善も待ったなしだ。 次に、 推進体制だが、 子どもの貧困対策への予算措置が大幅に拡大することは、 この厳しい財政状況では期待できない。 だが、 最低限子どもの貧困対策が継続的に動き続ける体制づくりが不可欠だ。 一定の予算措置を確保し、 広く民間からも支援を募る受け皿として 「子どもの貧困対策基金」 を、 民間から建設的な提案を行い官民共同で適切な施策を目指す場として 「恒久的な審議会」、 そして、 施策を総合的に推進する担い手として内閣府に 「子どもの貧困対策室」 の設置を訴えた。

  6. 私たちの想い
     子どもは日本の未来そのものであり、 私たちはいまの社会そのものだ。 子どもたちを見捨てることは、 日本の未来を見捨てることだ。 東京ユースミーティングは、 私たちひとりひとりの地道な取り組みのひとつだ。 子どもと大人をつなぐ架け橋として、 私たちにも社会を変える力がある。 だが、 それゆえに、 この問題を放置し、 子どもたちの苦しみが続くならば、 その苦しみに私たちは責任がある。 子どもの貧困問題の解決のために動き出したユースミーティングはこれから全国で展開されていく。 9 月27日に東海、 10月前半に関西、 12月に九州で行われる。 私たちは日本の未来を守り、 責任を果たしたい。

                   
(たかはし りょうへい
  東京ユースミーティング実行委員会 実行委員長)

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