●特集 T● 「神奈川の高校教育の未来を考える」
「県立高校の将来像」は生徒と共につくりたい

 辻 直也
 この夏の公開研究会のテーマとされた県立高校改革推進協議会による報告は、 2012年に設置された教育臨調こと 「神奈川の教育を考える調査会」 の答申に端を発している。 翌2013年に出された教育臨調の 「中間まとめ」 の段階から教職員人件費削減の必要性を殊更に強調し、 「最終まとめ」 においてもその姿勢は変わらなかった。 そのうち高校教育にかかわる内容と大きな問題点しては、 定数法の枠を取り払い、 1 学級40人の枠と教職員の配置を 「柔軟化」 がある。 また、 特別支援学校の過大規模化による人件費増大への対策として、 インクルーシブ教育の推進という形で一般の学校に受け入れるよう推進することがあげられている。
 このまとめを最初に触れたとき、 私はその内容に仰天した。 職場でも話題となった。 まさか 「先進国」 において異常と言えるすし詰め学級と教職員不足の現状に、 逆行するような 「まとめ」 が県の調査会から出されるとは思っていなかった。 しかし、 改めて調べてみれば、 この方針は調査会の初回の資料に出て課題整理として出ていたことであり、 既定路線通りだったということにすぎない。
 この教育臨調による 「まとめ」 の行く末として、 引き続き設置された県立高校改革推進協議会がどのような報告を出すかはとても気がかりなことであった。 「県立高校の将来像について」 なる報告を読み、 定数法の枠の取り払いはさすがに抜け落ちていたことを確認し安堵したのも束の間、 また別の問題が数々も詰め込まれていたことに苛立ちを覚える中、 本シンポジウムに参加した。
  「県立高校の将来像について」 なる報告が現場に寄り添ったものでないことは、 答申した 「県立高校改革推進検討協議会」 なる組織の構成からして当然の帰結のように感じる。 文科省直属の組織である国立教育政策研究所教育政策・評価研究部総括研究官が会長を務め、 17名の構成員のうち 「現場」 に近いと考えられる高校の教職員組合からは 1 名 (加えて小中学校の組合から 1 名)、 高校のPTA関係者からは 3 名しかいない。 その他はいわくつきの退職校長を含む教授その他さまざまな肩書の 「大学関係者」、 現職校長・財界代表者であり、 特別支援学校の過大規模化の問題を扱うにもかかわらず、 特別支援学校関係者は 1 名も含まれていない。 さらに、 協議会の中に実質的に素案づくりを行う 「研究会」 なる組織が設けられ、 そこからは教職員組合やPTA関係者は排除される仕組みがつくられている。
 報告の具体的な問題点については、 まず学校規模の問題があろう。 国も含めて 1 学年 6 〜 8 学級が適正としてきたにもかかわらず、 急に学級が 「少ない」 ことによるデメリットばかり強調し、 8 〜10学級が適正と言い出した。 神奈川でだけ適正な学級規模が急に増えることなどありえないことであり、 定数法の枠の取り払いが県レベルではできないことの代替措置だとしか言いようがない。 一つの学校の規模を大きくし、 学校数を減らせば、 教職員の人件費も設備にかかわる経費も減らすことができるからである。
 さらに、 経費削減とは別の視点から、 教育の内容に土足で踏み込むような提言もなされている。 科目ごとの共通試験の義務付け、 5 教科の必履修科目についての全県統一の学習達成度調査の導入などである。 企画会議と総括教諭制度、 「組織的授業改善」 の導入の際も、 この 「審議会方式」 が利用されたことからも、 どのようにしてこの 「教育の自由」 を敵視した上意下達による授業内容の画一化を食い止めることができるか、 早晩にも取組みが問われることになると思う。 夜間定時制の全日制からの独立と段階的縮減も記されており、 同時に謳われている 「小規模散在」 が場合によっては危ぶまれるような状況もある。
 このように多くの問題点をはらむ報告ではあるが、 協議会および研究会の構成員を務めシンポジウムのパネリストとして当日参加された中田正敏さんのお話から、 今後への期待を感じることができたことを付しておきたいと思う。 インクルーシブ教育の推進は、 確かに特別支援学校の過大規模化に対する場当たり的対応であるようにも思われるが、 一方でこれまでともすれば陥りがちであった教師と生徒の一方的な指導―被指導、 支配―被支配の関係にくさびを打つことになるかもしれない。 「生徒の意見を丁寧に聴き、 教職員が積極的に支援に取り組める…」 なる報告の一文を借りれば、 例えば学校の過大規模化による問題をとっても、 生徒や保護者の意見を丁寧に聴きとっていくことで、 われわれ教職員が現場で働く人間として何が問題なのかという確かな論理を構築していくことができるだろう。 さらには、 生徒と徹底的に向き合っていくことで、 民主的な学校の運営とは何かということを再考し、 「学校民主化」 に、 改めて、 今度は生徒たちとともに、 新たにとりくむ契機となることを願っている。
 
 (つじ なおや 県立大船高校)

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